めおと舟 その2『コレ村松くん買っとけばなんとかなるんじゃない?』

連載
めおと舟

 

前回までのあらすじ──。
スカパーでやってる『ガチンコ舟券勝負』に感化された元・笑オタの妻。彼女が狭いワンルームマンションでの夫婦(と猫)生活から脱出を試みようとするも上手くゆかぬ貧乏ライターの夫に提案したのは『ボートで一発ブチ当てて引っ越せばいいじゃない』という、大胆不敵な策だった。

 

妻の突然の提案。ボートでの引っ越し。やたら自信ありげにテレボートの画面を見せてくる彼女に向かって、おいらはフンと鼻を鳴らした。

「いやぁ……、ボートはねぇ……。おいらも前にやろうとした事があるんだけど、難しいんだよ、アレは」
「そう? だって6……トウ? セン? しかないんだよ?」
「6艇ね」
「そう。6テイしかないんだから。しかもね、フフン。会社の詳しい人から教えて貰ったんだけど、必殺技があるんだって」
「必殺技……?」

ちょっと反応するおいら。男は幾つになったって、必殺技であるとか秘技であるとか、あるいは攻略法みたいな単語に弱い生き物なのだ。

「知ってる? ひろし。必殺技」
「いや、知らない……」
「……気になる?」
「ちょっと気になる。何だろう」
知りたい?」
「知りたい」
「なんとね」
「うん」
「……ボートレースってね、1が強いんだって」

しょうもなッ! という単語をグッと飲み込んだ。

「まぁ……。攻略法というか……。うん。当たってるね」
「え。何ひろし。ボートレースやったことあんの?」
「いや、付き合い程度だけど……。何回かは」
「当てた?」
「いや、当たったことない」
「なぁんだ……」

──おいらのボートレース経験値は、アリアハンでスライムを3匹倒した程度しかない。取材で2回。あとはパチンコ業界の集まりで何度かお呼ばれして江戸川にお邪魔したくらいだ。そしてそれでもう、満足してしまっていた。

あれは確か2年くらい前。まだ独身だった頃。某出版社の人からLINEがあって呼ばれて向かったボートレース江戸川。到着するやスゲェVIPな空間に通されて恐縮しきりだったのを覚えている。周りが投票機にバンバン万券をブチ込む中、ビビリながら100円ずつ賭けて……。そうだ。確かその時は実際にボートレース番組に出ていらっしゃる方が目の前で試合展開の解説をしてくれて……。わけも分からずその通りに買ったら──。

「……──あ。ごめん。あるわ。当てた事ある。そうだよ。当てた」
「え、幾ら当てたの!?」
「確かねぇ……。あれは6,000円くらいになったんじゃないかな」
「掛けたのは?」
「100円」
「100円が6,000円に! わあ! 凄いじゃん!」
「凄くないよ。人の言う通りに買っただけで……」
「え、そうなの? じゃあさ、じゃあ、ずっとその人の言う通りに買えば良くない?」
「いやいやそんな……」
「でもその人が言ったのを買ったら当たったんでしょう。じゃあやっぱり、当てやすいんだよ。少なくとも、ちゃんと予想は出来るわけじゃない。……やっぱり、ボートって当たるんだね!」

半笑いで否定しながらも、ちょっと引っかかる物があった。そう言えばあの時のあの人、何レースも続けて当ててなかったか? すごい自信満々に解説してたので、その「自信」に乗る形でおいらも100円ベットして、そしてホントに当たったんだ。なんで覚えて無かったんだろう。答えは簡単だ。おいらはその時、めちゃくちゃ酒を飲んでたからだ。完璧に忘れてた。

引っ越し。お金。ボート。○○選手が外側からマクリに来ると思います。2号艇はそれを抑える形でココが空いて。内側から──……。

──そうだよ。アレは、その通りのレース展開じゃなかったか?

もしかして。ボートレースってしっかり予測すればちゃんと当たるものなんじゃなかろうか。楽しげにスマホの画面を見ながら使い方を学習する妻。この人がこれだけ何かに夢中になるのは、マイケル・ジャクソンとストリップ以来だ。あと猫とネイルとヨガとダイエットと脱毛か。それから恐竜とミニオンズも。あと沖縄。まあとりあえずそれら以来だ。

「……オッケー。分かった。分かったよ、はる。やってみよう。ボート」
「ひろしもやる!? やった! とりあえずさ。わたしのテレボートから早速レース出来るみたいだから、今からやってみない?」
「分かった。じゃあ……これ。俺のなけなしの500円をあげる。はるも500円から始めようぜ。あんまりガッツリ使ったら駄目だよ。おいらもうパチスロでさんざんっぱらコリてるから。そういうの」
「ん。分かった。じゃあ、二人分あわせて1,000円入金するね」
「それでいこう。えーと……。どれやる?」
「ちょっと大画面で……。PCで見てみようか」

忘れもしない。その日は3月26日。ボートレース鳴門でルーキーシリーズの第6戦が開催されていた。その名も『スカパー!・JLC杯』。マウスを操作するおいらの横で、妻がぴょんと飛んだ。

「これ! JLC杯!『ガチンコ舟券勝負』で大さん達が解説してるレース! わぁ! すごい。本当にやってるんだ……」
「あ。ホントだ。これじゃん。偶然だな……。じゃあこれから始めるか……」

時刻は午前10時過ぎ。今からだと5Rに間に合う。問題は誰を買うかだ。その時の出走表がコレ。

「あー……。これ鉄板レース臭いなぁ……」
「鉄板?」
「前レース場のひとに聞いたことがあるんだけど、なんか格上の選手を1枠にして当てやすいレースみたいなのを作る場合があるんだって。『番組マン』って言うらしいんだけど……なんかその人が暗躍してんのさ。で、これ。1枠が一人だけA1選手じゃん。えーと……村松くんか。この人がこの中では一番強いんだよ。なんかよく分かんねーんだけどA1だし多分強いのね。で、そういう強いひとが1枠に来ると、さっきの必殺技じゃないけど、ガチガチになるわけさ。そういうのを『鉄板』っていうらしいのね。パチンコだったら鉄板つったらもう当りなんだけど、ボートでも同じ感じみたいよ」
「へぇ……。村松くんか……。あ、イケメンじゃん。この人にしよう。はる、この人応援する!」
「オッケー。2着は誰にする?」
「じゃあ、4の木谷くん!」
「お。いいんじゃないか? ちなみに理由は?」
「イケメンだから!」
「まあいいや、3着は?」
「うーん……。あとはイケメン居ないからいいや……。あ、でも6枠の染川くん、麒麟の田村に似てる! じゃあコレ。1-4-6で! あ、でも、1-6-4にしたら『ひ・ろ・し』じゃん。それにしよう! アハハ。ひろしウケる」
「一応1-4-6もおさえといたら?」
「わかった。あと修ちゃんイケメンだから単勝買う」
「修ちゃん?」
「村松くん」
「オー。アイシー……。いやでもコレ単勝のオッズ等倍よ?」
「100円買って100円帰ってくるってこと? 意味ないじゃん。じゃあ1-6買う」
「オッケー」

というわけで妻は1-6=4と1-6。それぞれ100円で合計300円ベット。

おいらは薄い知識を導入しつつ3枠の西川君に注目。枠なり進入で「123/456」の形になった場合、第1ターンマークをいの一番に回るであろうイケメン・村松くん迫力に負け、まだ若いB2選手である西川くんは、あっけなく外側に飛ばされるんじゃないだろうか。

するとどうなるか。

空いた空間を突き、アウトコース勢が2号艇の頭を抑える形でマクリ差し狙ってくる筈だ。そうなると俄然存在感を増すのが平均スタートタイムが早い6枠・染川くんだろう。よし。奇しくもおいらも妻と同じ、1-6をベースに考える事にする。

問題は3番手だけど、ここは西川くんを除外し、2と4と5からチョイス。枠なり進入で6号艇が2号艇を外から差すのを前提にしている予想なので、そうなると4と5は引き波に飲まれて減速するはず。4と5の機力の高さ。そして全国勝率は気になったけど、ここは己の直感を信じる事にする。決めた。

「俺は1-6-2に100円。あと1-6に100円」
「あ、ひろし、わたしのマネした?」
「いや、俺は真面目に考えたよ……」

慣れない手付きで妻が投票を済ませる。PCの前に陣取る。レース開始前までまだ間があったけど、台所に引っ込んだ妻がチーズとワインを片手に現れた事で、あっという間に時間が過ぎた。

そうして10:46分ごろ。いよいよレースが始まった。

スカパーの番組で、妻もある程度はボートレース特有のスタート方法を理解していた。そして、勝負どころが第1ターンマークである事も。スピーカーのつまみをヒネる。モーターの唸りがワンルームマンションにこだまする。何事かと、愛猫がふわふわの毛をさらに逆立てる。ああ、掃除機の音に似てるからね。大丈夫。これは掃除機じゃないよ。怖いことないよ。大丈夫。大丈夫──。

スタート正常。そのまま第1ターンマークへ。村松くんが勢いよく先陣を切る。西川君は引き波に飲まれながら大外へ流れる。突っ込んできたのは6号艇・染川くん。直進で2艇が競る。1-6だ。固まった。これは1-6で決まる。

思わず妻と目を見合わせた。

「おいこれ……。マジで来てるよ。おれ2だ。2が来れば当たる……!」
「わたし4……! ちょっと、4来て4! 青! 青!」
「2か4だ。2か4……。両面待ち! よっしゃ、やっぱ西川くん遅れてる。3はない。くるぞコレ。2/3で当たる! 2か4。2か4──ッ!」
「え、これ、今誰が3着? え、黄色? 黄色って何番!?」
「黄色5だよ! ダメダメ! 黄色駄目! ちょっと頑張れ2号艇! ああ遅れた! 駄目だ。俺もうだめ! オワタ! 2駄目だこれ。はるワンチャンある!」
「これ何周!? 何周!?」
「あと1周──!」
「ああ! 駄目だ! 黄色だ! わたしも駄目。なんだよォー! 黄色ォ!」
「浜本くゥゥん! キミじゃないんだよォ──……!」

結果はコレだ。めっちゃ惜しかった。村松くんが逃げて3が膨らみ、空いた隙間にスタートが早い6が突っ込む。ここまでは奇跡的に読めてた。初心者の予想恐るべし。もうここまでくれば3択なのだけど、二人してそれを外すという展開に。この辺はおいらの経験値の激低さがもろにでた。こうやって見返すと、だんぜん5だ。そもそも2の頭を抑える形になるところまで予想できてたなら、機力に勝る5が来て当たり前といえば当たり前。つい5分間の自分にビンタしたい。

しかし。しかしだ。おいらは大切な事を思い出した。あまりの興奮に忘れていたけど、我々は二連単で1-6を押さえているじゃないか。

「……当たってんじゃん我ら。1-6買ってるよ!」
「あ! そうだ。わすれてた! オッズは!?」
「わ! すげえ! 1,150円もついてる!」

「わあ! 2人で2,300円!」
「投資が500円だから……、1,800円浮いた……。ビ、ビギナーズラックすげえ」
「ちょっと! ねぇ! これさ!」
「なんだい?」

興奮とワインで上気した頬。目一杯の笑顔を浮かべながら、妻が言った。

「ねぇ、ボートレース、めちゃくちゃおもしろい──!」

……こうして我々夫婦は、本格的にボートにのめり込み始めるようになるのだった。

 

【今回の成績】
3月26日・スカパー!・JLC杯 ルーキーシリーズ第6戦5R

投資  500円
回収 2,300円
収支 1,800円

 

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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