めおと舟 その3『はる、きみの頭僕が良くしてあげよう』

連載
めおと舟

 

前回までのあらすじ──。
『ボートで一発ブチ当てて引っ越せばいいじゃない』という妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。仕事の関係でちょっとだけ知識がある夫はショボいながらもレース展開を予想しつつ挑み。何も知らない妻は選手の顔面のみでチョイスし。各々の初レースはビギナーズラックのおかげか、プラス収支で終わったのだった。

 

初勝利の翌日だった。ひどい頭痛がする。水が飲みたい。二日酔いだ。薄く目を開けてベッド横のテーブルに手を伸ばす。ペットボトルを掴んで上体を起こす。ミネラルウォーターを飲み干す頃、座椅子に座ってスマホを睨む妻と目があった。

「起きたね。おはよう」
「おはよう……。何してるんだい」
「ボート」

当たり前のように返事が来た。

「マジかよ……。すげえな」
「だって面白いんだもん」
「勝ってる?」
「ううん」
「オイオイ……」

妻の膝の上の猫が「フゥン」と鳴いた。ウンコする直前の声だった。猫用トイレに小走りで駆け寄るピノコ。壁の方を向いてガニ股で踏ん張るその背中を見ながら起き抜けのニコチンを摂取して、歯を磨き。その他諸々の儀式を済ませた後、ようやく頭がハッキリしてきた。

「幾ら負けてる?」
「んー……。500円くらいかな」
「ちょっと、戦績見せて」
「うん。コレ──……」

妻のスマホを受け取り、購入履歴を見る。そのままPCでレース番組表を確認する。まずは3月27日。スカパー!・JLC杯 ルーキーシリーズ第6戦2日目1R。てか1Rから買ってやがる……!

これ、染川君と佐藤君がフライング持ってるし、あんまり攻めないんじゃないか。それを踏まえて1枠は鉄板だろう。2着3着はよく分からんが、真ん中2人のFがやっぱり気になる。そうなると比較的2枠が自由に動けそうだし、3連には絡んできそうだ。というわけでおいらの予想は「1-2-?」「1-?-2」だ。6枠はB2選手だし平均ST遅いんで来ないと思う。河野君には悪いけど除外させていただくとして、えーと……。

【あしのの予想】

1-2-3 1-3-2
1-2-4 1-4-2
1-2-5 1-5-2

この6通り。これはまあ……。当たる気がする。初心者が偉そうに申し訳ないけども。てか大体みんなこうなるんじゃなかろうか。

そこまでざっと考えたところで、嫁のスマホに目を向ける。思わず仰け反りそうになった。彼女が買ってたのは「1-6-4」と「6-1-4」だった。

「あらー……。6は来ないだろう……」
「来なかったねぇ」
「結果は……1-4-2か。あ! ホラぁ! 1-4-2じゃん! オッズは……なんだよ630円か。一番人気。うわ俺6通り買ってたら30円のプラスだって。ショボかった。やっぱ簡単なレースだったんだねぇ」
「6-1-4来てたら164,400円になったよ!」
「来ないよォ……。来ないよォそういうの……」

次。3月27日。スカパー!・JLC杯 ルーキーシリーズ第6戦2日目2R。同じく出走表を見て思わず声が出た。

「おお! 村松君出てるじゃん」
「そう! われらのスター修ちゃんでてる! 一人だけA1って赤い字だしかっこいいよね」

これはまあ村松君は買わざるを得ないけども、それ以外が難しい。おいらが今持ってる知識でかろうじてフックになりそうなのは3枠・馬場君のスタートの速さと4枠・新田君の遅さだ。しかも新田君はFまで持ってる。ここの差は材料になるかもしれない。スター・村松君は出てきて当たり前だとしてどこから出てくるか……。先行する3枠と慎重を期してスタートを切る4枠との隙間。ここを突いて出てくる形? になるのかな。となると1枠・2枠辺りは結構自由に動ける気がするんで争うよね。おいらがレーサーだったらここは譲らず争う。んで負けた方は進路を塞がれる形で外側に流れて、村松君にすら抜かれる筈。おけ。見えた。1-5-?か2-5-?。これでいこう。しかも今回は4が第一ターンマークで村松君に頭を抑えられるのを前提にした予想なんで、4は除外でいい。6もなし! じゃこれだ。

【あしのの予想】

1-5-2 2-5-1
1-5-3 2-5-3

はい四通り! いい線行ってると思う。そして気になる嫁のベットはコチラ。ドン! 5-6-1……しかも200円だ。あと村松くんの単勝に100円ブチ込んでた。

「6はこん……ッ!! はるよ、6はこん……ッ!」
「えー……、だって修ちゃん来たらさぁ……そこについていく感じでさぁ……」
「ついて行けん……ッ! 行けたらA1じゃァ……!」
「でこれ結果は……。1-5-3! ホラぁ。4番人気ィ。1,230円。プラスじゃん俺ェ……」
「なんでそんな当たるの?」
「普通にすれば当たる……ッ! これは!」
「えー……。じゃあ次一緒にやろうよォ」
「いいよ……。じゃあ、300円。渡すからベットしてよ……」
「テレボート入んなよ……」
「うん……」

次。3月27日。スカパー!・JLC杯 ルーキーシリーズ第6戦2日目3R。投票締め切りまで10分ほどだ。

「んー……。これむずいナァ……。はる、決めた?」
「いやぁ、これは5枠・片岡君かなぁ……」
「なんで?」
「いや、イケメンだし……」
「そう? 4枠・山川君のほうがイケメンじゃない?」
「チッチッチ。ひろし甘いなぁ……」
「クッ──……」

このレースは1枠・島村君で鉄板だと思う。F持ちだとは言え当地勝率がエグい。問題なのは2着以降の決め手が無い事。あるんだろうけども、少なくとも俺の経験値では何も見えない。強いていうなら6枠・宗行君のスタートの速さ。2枠の吉武君との間に0.06ほど差がある。ここ突けるかなぁ……。

「ひろし、どういう風に考えてるの?」
「今の所は1枠・島村君が鉄板だろうなってのは思ってる。あと6枠・宗行君がスタート早いし、当地勝率も他と比べて悪くないんだよね。広島の人だし。鳴門行く機会もちょいちょいあるんじゃないかね? 知らんけどさぁ……。でも6枠を切り捨てれないから、選択肢が多いんだよなぁ……。難しい」
「一着は1枠……。わたしコレ、猪木買いかなぁ……」
「猪木買い……?」
「LLRの福田さんが『ガチンコ舟券勝負』で言ってたんだけど」
「LLRって……。お笑いだっけ」
「そう。吉本の。それで、その福田さんが番組でね。1-2-3で買う事を『猪木買い』って言ってて」

「ああ……。1,2,3、ダーか。なるほどね……」
「わたしLLR好きだし。なんの略かまで知ってるもん」
「ラブラブ……なんだっけ」
「レナポンズ」

猪木買い。ありっちゃありだ。でも3枠・高木君はなんとなくスタートやらかしそうな気がする。Fもち。21歳。なまじ機力がいいだけに外側にすっ飛びそう。んー。難しいけど、決めた。

「よし、おいら1-2-4にする。あと抑えで1-4-2も」
「1-6-4も行っといたら? ヒロシ買い」
「ヒロシ買いってなんだよゥ……。でも今回6も怪しいんだよなぁ……」
「じゃあわたし、猪木(1-2-3)に100円と、ひろし(1-6-4)に100円」

そして9:49分。レース開始だ。

「スタート正常! 2枠ちょっと遅れてる! 駄目だ! 吉武くん頼むよぉ!」
「1の次……緑。6!? あれ! 6来てるよ!?」
「げ。マジだ。1-4-6……。1-6-4……。微妙! うわ、5も来てる! けど、あるよこれ! 1-6-4ある!」
「どっち! これ。4? 6?」
「わっかんない。まだ微妙。だけどもうだめか! 4だぁコレ。あー、もうダメだ。もう決まったァ。……1-4-6だわ。惜しい! やっぱぶっちぎりだよ島村君」
「なにそれー。なんだよー。当てたかったァ……」

結局その日、途中でピザを買ってまたもビールなどを飲みつつ、第8Rまで遊んだのだが、終わってみれば二人して「一度も当たりなし」という、悲しみのエチュードを奏でる結果になってしまった。

「よっしゃ。飽きてきた。おいらパチスロ行っていい?」
「なんでー。面白いじゃん舟。もっとやろうよォ」
「えー……。もう結構負けてるぞこれ……。俺いくらだっけ」
「えーとひろしは……。1300円」
「あれ? まだそんなもん?」
「うん。わたし1400円」
「え、マジで……? コスパえぐッ! ピザの方が高ェじゃん!」
「そうよ。せっかくの休みだし。ボートしようよォ」
「まあ俺締め切り色々ヤベェけどね。んー……。でもまあ、しゃーねぇか……。せっかくの休みだし」
「そう。せっかくの休みだし──……」

 

【今回の成績】
3月27日・スカパー!・JLC杯 ルーキーシリーズ第6戦2日目

投資 2,700円
回収 0円
収支 -2,700円

 

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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