めおと舟 その10『好きとラブの違いって何かしら』

連載
めおと舟

 

前回までのあらすじ──。
『ボートレースで一発ブチ当てて引っ越せばいいじゃない』という妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。当初はビギナーズラックで順調に勝っていた夫婦だったがその後夫だけ的中率が低下。いよいよ勝率で妻に負け始めた頃、ようやく当てに行くための買い方を学び始めるのだが──。

我が妻は通販大好き人間である。ピノコのご飯。ミネラルウォーター。我々の食料。衣服や漫画、化粧品。さらには常備薬まで。ヤマトや佐川のお兄さんに毎日せっせと運んで貰っている。だので、必然的にDMの類も増える。一度買ったショップからのお知らせ。お得な会員情報。暑中見舞い。毎日郵便受けにブチ込まれ続けるそれら全てに目を通すのは不可能なので、必定、大部分を読まずに捨てる。

そしてオイラもまた、郵便物が多い。しかもDMとかじゃなくて、もっと不穏な物が。大体ピンク色してて「重要」とか「特定」とか書いてある。

「ねぇひろし、これ大丈夫なの?」
「何がァ?」
「なんか重要とか書いてあるけど……」
「あー……DMじゃない?」
「絶対DMじゃないでしょ! 開けるからね!」
「えーもー、いいよそういうの。捨てようぜ」
「ダメ! ……あ! 税金じゃん! 何で払ってないの!」
「税金とかさぁ……。オリンピックに使われるだけだぜバカバカしい。いいよもう。オリンピック終わってから払おうぜ……」
「差し押さえ来るでしょうが!! 払いなさい!」
「えー……」

必定、ゴミ人間代表のような思考回路の旦那は妻が居ない時間を見計らって郵便受けを漁り、自分宛ての郵便物を回収してはせっせとゴミ箱へシュートするという悪癖を身に付け。そして現在に至る。(税金は払った)

要するに、妻も。そして夫も。お互いに郵便物は基本捨てる。よほど大事なものならいざしらず。そもそも大事な郵便物は滅多に来ないので、郵便受けにあるものはほぼゴミだと、そういう夫婦間のコンセンサスみたいなのが形成されている次第。

中でもダントツで邪魔くさいのが「某通信会社」の定期郵便だ。

我が家はマンションの設備の関係上、ネット回線はイヤイヤながら「某通信会社」を使っている。加入当時から今まで数々のトラブルに見舞われまくり、仕事の進行が止まったことすらもある。速度は当然の如く遅い。たまに通信が途切れる。なによりケーブルテレビ見てないのにケーブルテレビ料金も発生する。何も良い事がない。が、コレしか使えないから仕方ない。腹が立つのが月に一度届く定期郵便。観もしない番組表やらが満載の週刊誌くらいあるやつだ。単純にデカイので棄て難い。オイラも妻も、郵便受けを開けてコレがねじ込まれているのを見るにつけ、深い溜め息を吐き吐き、そして舌打ちをするのである。

「ねー、また来てたよ……」

先日のことだ。休憩がてらゲームをしている所で妻が出先から帰ってきた。その手にはすっかり見慣れた「某通信会社」定期郵便入りの袋。やれやれ。またゴミが来た。

「ああ、めんどくさいね。宛名ラベル剥がして棄てといてー」
「しかも今回二冊来てるよ……」
「二冊も? うわーダルいねぇそれは……。一冊ラベル剥がすの手伝うよ……」

普段の定期郵便よりもちょっと薄めの冊子。袋の色が同じだからてっきり某通信会社だと思ったけど、よく見るといつもとちょっと違う。あれ……。これは……。

「あ、はる。これテレボートからだよ」
「え? そうなの?」
「うん。ボートレースの冊子だ……! 『マクール』だって」
「え! めっちゃ面白そうじゃん! なにそれ!」
「うわ! 宮之原選手と大山選手の対談だって!」
「『あのレーサー、本音のコメント』とかあるよ。すっごい面白そう!」

テレボート会員限定特別冊子。マクール。季刊誌らしい。我々がテレボートに加入してから春・夏・秋とシーズンを超えたが、届いたのは初めてである。

「もしかしたら前にも来てたのかもねぇ……。わたし間違って捨てちゃったかな?」
「その可能性はあるねェ。某通信会社のゴミ冊子と似てるもんねェ」
「ホンット……。邪魔だねぇ某通信会社……。ねー。ピノコこっちおいで。ただいまァ。ママだよォ。ニャニャニャニャ……ニャニャニャニャ……! 某通信会社は邪魔だねェ! ピノコも思うよねェ! ニャニャニャニャ!」
「あ! ずるいぞ! オイラもピノコとニャニャニャニャする!」

『マクール』は神冊子であった。選手のパーソナリティにスポットをあてた読み物記事も興味深かったが、更に良かったのは選手・ボートレース場にまつわるあらゆるデータを網羅したランキングの記事。これはネット上では中々得難い情報だ。某通信会社のデカイだけのクソみたいな冊子との違いがエグい。値千金。有益な情報の塊である。

「平尾選手って面白い人だねぇ! こういう肩の力が抜けたお父さん渋いねェ……!」
「オイラは日高選手のカッコよさに惹かれたよ。女子レーサー全然分からないから、勉強になるなぁこれ……」
「ねぇねぇひろし、琵琶湖のレーサーが『グラッツェポーズ』ってのを流行らせてるらしいよ!」
「なにそれ……! グラッツェ?」

「うわ、すっごい、マジで流行ってるじゃん! おもしろ!」
「こういうの知ると、どんどんボートが好きになるねェ!」
「わかる。やっぱ選手だよね。選手が好きになると予想も違った感じになるだろうしさ。そもそも『予想』にプラスして『応援』ってのが出てくると、また面白さがアップするんだろうなぁ……」

応援。この発想は今の所あんまりなかった。ボートを初めて数ヶ月になるけど、その間に出来た贔屓の選手は4816の村松選手を筆頭に数名出来た。が「贔屓」であって「ファン」ではない。「好き」と「ラブ」の違いに近い。

「はる。じゃあちょっと早速、その観点からレースやってみようか」
「今から? 何やってるっけ」
「今は──。芦屋だね。第10回ジャパンネット銀行賞」
「ちょっと見てみる」

「あれ……。40歳のB2選手がいる……。どういう事だ? 怪我?」
「山口裕二選手だって。あ、長崎だよ。ひろしの仲間じゃん。しかも同い年」
「ちょっと調べてみよう……」

ブラウザを立ち上げ、選手名を入力。すぐにニュース記事の見出しが目に飛び込んできた。

「山口裕二、2度の大けがから復帰──。ああ、やっぱり怪我だ」
「2度……?」
「ええと、一回目が小指の粉砕骨折……。うわ、痛そう」
「ぼ、ボートって怪我するの?」
「するらしいよ。オイラもモンキーターンの知識くらいしかないけど……」

山口選手はその後、復帰戦で接触事故に遭い、なんと同じ左手を今度は脱臼。治療のために併せて5ヶ月の欠場を経て、先日復帰したそうな。

「うわー……。またドラマティックな怪我の仕方を……」
「あぁ、だからB2なんだ……」
「前はA1常連だったんだって。だから実力者なんだよ。可哀想だなぁ……」
「ねぇひろし、この人応援しちゃう?」
「ああ、長崎だし。同い年だし。そうだね。なんか凄く応援したくなってきた。じゃあオイラ、4号艇を頭に買ってみるよ。4-1-3。でも6もだよなぁ。そうなると6が後ろをついていきそうだからワンチャンあってもいいと思うし。じゃあ、穴狙い行っとくか!」

購入したのは4-6からの流し。オッズは軒並み1000倍だ。絶対当たらない。当たるわけはない。とはいえたったの400円。

「さあスタート! 山口選手いいスタート!」
「ひろし、6も悪くないよ?」
「ホントだ。意外にもいい形……だけど、んー!やっぱ1号艇の逃げが決まってるなぁ」
「まあ、当たり前だけどね!」
「そう。当たり前。当たり前。山口選手は現在2番手。いーねー! 長崎」
「がんばれー! 山口選手!」
「──がんばれ!」

頑張れ。これは今までなかった声援だった。我々はディスプレイの前で拳を握り。ただ、イケ。ソノママ。マクレ。サセ。それはなんと味気ない言葉だろう。

「頑張れ! 事故るな!」
「接触ダメよ! 山口選手!」
「安全第一! 最終コーナー!」
「よし! 完走! 大丈夫!? 腕折れてない!?」

それは、今までで一番暖かい観戦だった。予想が掠らずとも。ボートレースはこれだけ楽しめるのだと。オイラはまた一つ知ることができた。

 

【本日の結果】
第10回ジャパンネット銀行賞準優勝戦

(夫・妻)
10R
4-6-1
4-6-2
4-6-3
4-6-5

各100円

購入 400円
払戻 0円

 

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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