めおと舟 その16『人間の欲望がいかに判断を狂わすか』

連載
めおと舟

 

前回までのあらすじ──。
『ボートレースで一発ブチ当てて引っ越せばいいじゃない』という妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。当初はビギナーズラックで順調に勝っていた夫婦だったがその後夫だけ的中率が低下。いよいよ勝率で妻に負け始める。焦る夫。気にしない妻。果たして引っ越しの行方は──。

台風。大雨。たまに曇りとまた小雨。またドンと大雨。雨だ。都内は連日雨続きである。秋の長雨とは言うけれど、これだけ毎日雨だと流石に外出が億劫になる。妻も最初の方こそ「新しく買ったレインコートが着れる!」と喜んでたものだけど、最近は天気予報を見るたびにゲンナリした顔をしている。

だので、最近の我々の休日の過ごし方は、もっぱら部屋でのボートレースである。お昼頃から夕方まで。パソコン画面を睨みながらハイボールを片手に予想する。たまに猫を抱っこしたりコンビニに買い物に行く以外、ずっと二人でぐだぐだと過ごす。秋の長雨も案外、悪くないもんである。

「さて次のレース……。どれにしようかねぇ、はるちゃん」
「多摩川かなぁ? マンスリーBOAT RACE杯だって。簡単そうじゃない?」

10月26日多摩川9R。投票受付終了まで10分ほどだ。

「お。ほんとだ。これ橋本選手は絶対来るだろ」
「雨だけど水面もそんなに悪くないっぽいねぇ。これ猪木(※1-2-3)かなぁ」
「2号艇と3号艇がフライング持ってるよ。あと4号艇が東京の選手だ。F2の6号艇は攻めてくる事はないと思うけど、5号艇の窪田選手も悪くなさそうなんだよなぁ……」
「うーん。そうねぇ……。わたしは1-2=3だけでいいかな……500円ずつ」
「じゃあオイラは1-2=3、1-2=4、1-3=4でいこ。6点だな。じゃあ1-2=3は300円であと100円」
「トリガミならない?」
「えーと……ああ……。1-3-4だと駄目だ。ガミる」
「じゃあ、抜いたら? それ。その分1-2-3厚めにするとか……」
「そうだな。じゃあ1-2-3に400円。1-3-2が300円。あとは──……」

お互いの買った物をメモに残す。チケットは買わない。仮想投票だ。レース中継の窓を開いて待機しながら、ハイボールの缶のプルタブを引いて乾杯する。そして、レースまでの待ち時間で、選手について調べる。

「おっ。橋本選手はラーメンが好きらしいぜ」
「群馬でラーメンっていったら、ははぁん。さては佐野だなぁ?」
「佐野は栃木だよ、はるちゃん」
「へへ……」

「1-3-2だ。これ余裕だったなぁ……」
「オッズは720円。わたしは2,600円プラスだ!」
「累計が……。うわ、もうはるちゃん1万円超えてるじゃん」
「へへ。買っとけば良かった。へへ」
「オイラも何気に浮いてるわ……」

仮想投票。ルールは簡単だ。1レースに使う金額は1000円。これを必ず使い切る。金額の持ち越しはなし。10点はどう振り分けるかだけを考える。これをやると「人間の欲望が如何に判断を狂わすか」が良く分かる。もちろん実際に買うのに比べると楽しみは1/50くらいになるけども、それでも夫婦でハイボールをのみつつレースを観るのは面白い。

「そろそろ本番、行ってみるかい? 次のレース」
「お。実際に買っちゃう?」
「いっとこう!」

たまにこうやって実際に買うのもアリだ。というかずっと仮想だとひもじい気分になってイヤんなるので、5レースに1回くらい買うのことをオススメする。

「多摩川の次のやつでいいかい?」
「わかった!」
「金額は好きに買おうぜ」
「うん!」

「これは6枠でデカいの狙いたいなぁ……」
「だめよひろし。冷静に──」
「はるちゃんどう見る?」
「わたしはこれは順当に猪木絡でいこうかなぁ。んー……。3連複で1=2=3」
「3連複かぁ……。じゃあオイラは間嶋選手の大技に期待して……6から」
「ちょ……。6からいったら全部万舟にならないこれ?」
「でもこれ6絡みそうじゃない?」
「なんで実際に買うと大物狙いになるの……」
「いいやもう決めた。6-1=2と6-1=3で」
「いくら?」
「100円!」
「分かった。わたしは500円いれとこうかな」

「わお。新美選手キレイに差したなぁ……。良かった3連複にしといて!」
「んん。オイラ全然駄目だった。なんか来る気配したんだけどなぁ6号艇」
「来ないよ……。ていうか最初わたしひろしから『6は来ん!』って言われてたんだよ」
「そうだっけ」
「そうよ」
「記憶にないなぁ……。はるちゃんオッズは……280円だって。500円買ってた?」
「うん。900円勝ちだね」
「うらやましいなぁ……」
「当てればいいのよ」
「いや、当てるつもりで買ってるんだぜ毎回」
「当てるつもりで6は買わないでしょ……」

この日の結果。オイラの仮想投票での勝率は5割超え。実際の投票は2戦2敗だった。

「だめだな。実際に買うと全然当たんないわ」
「わたし両方獲ったよ」
「なんでだ……。仮想と現実、何が違うんだ……」

答えは簡単だ。欲望のせいである。両者を比べた時、意思決定のロジックがぜんぜん違う。仮想の場合は金額が関係ないから「当てる」ことをまず考えるけど、実際に買う場合は「デカい配当」を先に考える。万舟出そうだと思ったらそこを狙っちゃうのだ。今回の場合は大外6号艇の選手がA1だったこと。そこしか見てない。

「あーあ。だめだこりゃ……」
「わたし3,000円くらい浮いたよ。なんか食べに行く?」
「え、いいの?」
「うん。ロティサリーチキンごちそうする」
「ビールも?!」
「へへ。分かった。2杯だけだぞう」
「やったー! 行こうぜ! ちょっとオイラ着替える」
「わたしもちょっとメイクする」
「イエーイ!」
「へへ!」

まあなんだかんだ、家で一日ボートしたあとは、勝ったお金を二人で使うのだけどもね。秋の長雨というけれど。雨ばっかりなのも、案外悪くない。

 

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

人気記事

めおと舟 その32『おやこ舟 前編』

TERU 更新延期のお知らせ

TERU 休載のお知らせ

ナカキンが師匠になる日は来るのか。

めおと舟 その31『そういやお兄ちゃんもボートしてた件』

貧乏豆買い夢の万舟大作戦