めおと舟 その20『妻、人生初のボートレース場へ(4)』

連載
めおと舟

 

前回までのあらすじ──。
『ボートレースで一発ブチ当てて引っ越せばいいじゃない』という妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。当初はビギナーズラックで順調に勝っていた夫婦だったがその後夫だけ的中率が低下。いよいよ勝率で妻に負け始める。焦る夫。気にしない妻。そんな中『ナナテイ』編集部よりボートレース江戸川への取材の予定が組まれた。注目の第5レース6全全。惜しくも外すもボートレースの楽しさを改めて実感する夫婦だった。

ボートレース江戸川。川ッペリでハイボールを片手にレースを眺める。時刻はすでに14:30。第9レースだ。1号艇山田選手が第一ターンマークを抜けてトップに躍りる。続く二番手は4号艇増田選手。瞬間、妻が「よし」と小さく頷いた。

「獲った?」
「うん。複勝だけどね。ひろしは?」
「ダメかな……。3号艇がこないと……」

オイラの成績はこれで1勝8敗。いよいよ1万円以上の負けになった。一方妻はこれで4勝4敗。どうやら複勝メインで勝負しているようだが──。

「いま勝ってる?」
「いや、分かんない……。ちょっと計算してみないと。ええとね……。あ、ちょっと浮いてる。2,000円くらい」
「まじかよ……。勝つんだ……。すげえな……」
「たまたまだよう。へへ……」

初戦をふたりとも取ったとは言え、それっきりだった。理由は言うまでもない。オイラのせいである。当たらないのにも程がある。

「そろそろ良い時間だなぁ……。はる、次で最後にする?」
「いいよ。最後さぁ、二人で当てようよ。真面目にやろう」
「真面目にやってるよォ……。ええと10レース……。これか……」

「はる、これどう思う?」
「1-5……。からの流し?」

妻の言葉に頷き返す。キーになるのはやっぱり5号艇石倉選手だろう。平均スタートタームが飛び抜けている。内側の酒見選手との差は0.04秒。空いた内側を自由に使って全力で回れる。問題はどこまで伸びるかだ。

「5頭はどう思う?」
「んー。来たら万舟見えるけど……。どうだろう。モーターがそんなに良くなさそうなんだよねぇ……。でも3連にはまず絡むと思う」
「2着。かな」
「うん。やっぱり手堅く1-5から流した方がいいね」
「よし、俺もそれに乗ろう。1-5-全。あと5が1着まで伸びた時のために5-6-3も行っとく」
「5-6-1じゃなくて?」
「どうせならオッズ高い方がいいし……」
「コラッ! そういう所よひろし」
「まあまあ、いいじゃあないか。あたったら2万舟だぜ。一発逆転! へへ。はるも1-5-全?」
「いや、わたしはちょっと買い目を絞るね。もう勝ってるし。1-5-2と1-5-3。あとは猪木。あとガチガチで一番人気の1-3-5も抑えて……」
「6はいいのかい? 5が行くならついていきそうだけど……」
「んー。じゃあ複勝で1=5=6……」
「分かった。それでいこう。これはもう当たるだろ」
「うん。流石にひろし外しすぎだから、二人で当てよう」
「ね。そうしよう。ハイタッチしようぜハイタッチ」

こうして、ナナテイ編集部による第一回取材ツアー・イン・江戸川。最後のレースが幕を開けた。すでに他のメンツは別件の仕事のために帰路についている。ハイボールをぐびりと流し込む。いい感じに良いが回る。夕刻が近づく。かすかにオレンジ色に染まり始めた西の空。川のほうから流れる冷たい風が頬を撫でる。

「寒くない? 大丈夫?」

妻の言葉に首を振って答えた。

「大丈夫。はる、寒くない?」
「ちょっと寒い」
「帰ったら、鍋やろうか?」
「お。いいねぇ! 鍋たべたい!」

ファンファーレ。鳴り響くモーター音。ピットを離れた6つの船影が、引波を描きながら進む。待機行動。侵入順は枠なり、123/456だ。大時計の針を見る。モーター音が大きくなる。水音。波。スタートラインを一斉に通過する。

「4号艇遅い! ナイス! 内側開いてる!」

思わず声がでた。5号艇石倉選手が待ってましたと言わんばかりに鋭角に滑り込む。6号艇山口選手も続く。わずかに逃げる1号艇佐竹選手。1-5-6。続いて3だ。

「よっしゃ狙い通り!」
「うわ、ホントに6号艇続いていった……!」
「な! 言ったろ!? 買っといてよかったろ!?」
「うん! 複勝だけどね!」
「てかこれ、不思議な力で1号艇が消えたら5-6-3だよ! 2万舟!」
「消えなくていい消えなくていい! このままでいいよ……!」

一周目第2ターンマークで早くも大勢は決した。覆しようがないほど1-5-6。どうみても1-5-6だ。最後まで何が起きるか分からない……というのも分かっているけど、この「序盤でほぼ的中が決まってしまった」ときの安心感たら、他になかなかない。ボートレースならではの醍醐味だ。

余裕を持って周りを見渡す。同じく醍醐味を味わいながら笑顔で水面を眺める爺様。逆に暗澹たる顔で次のレースの予想を始める爺様。無表情の爺様。いろんな爺様がいた。やがてゴール。着順は変わらず。1-5-6だ。終わってみればなんてことはない。当たり前の展開だった。それでも──……。

「やった……当てたぞ……オイラは当てた……」
「よかったねぇ! わたしも獲ったよ!」
「やっと二人して当てたね……」
「うん。ありがとうひろし!」
「え……?」
「わたし1-5-6は買うつもり無かったもん。ひろしが言ったから買ったんだよ」
「あ、そうだっけ……。ああ、よかった。よかった……」

オッズは単勝で2,220円。複勝で1,050円だ。100円しか入れてないとは言え、これは大変意義のある的中だった。

「ああ、負けが一万円を切った……」
「ホント? よかった! 流石に一万円以上負けたらビンタしてたわよ!」
「な。危なかったよ……」

ベースキャンプに戻り。最後に一杯乾杯した。祝杯である。

「どうだった? 初めてのボートレース場は」
「うーん。めちゃ楽しかった! へへ。ねぇ、また来よう。取材とか関係なくさ。二人で遊びに来ようよ」

屈託なく笑う妻。なんだか感動した。ここまでオイラの仕事に協力的である妻に。そして、なし崩し的に発見した、夫婦共通の趣味に。アルコールで溶け始めた脳の奥に、喜びが染み渡った。ああ、と思った。

──ああ、ボートレースは、とても楽しい。

11月2日。夫婦揃って初めて訪れた、ボートレース江戸川での事だった。

 

ボートレース江戸川
BP習志野開設13周年記念(一般)初日

夫の戦績
的中 2/10
収支 -9,600円くらい

妻の戦績
的中 5/10
収支 +3,000円くらい

 

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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