めおと舟 その26『新春! 酒と舞台とボートレースと男と女』

連載
めおと舟

 

前回までのあらすじ──。
『ボートレースで一発ブチ当てて引っ越せばいいじゃない』という妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。順当に勝つ妻。負け続ける夫。いつしかすっかりハマった二人は実際のボートレース場での取材などを経ていよいよ順当に成長しているよるように見えた──。

2020年1月1日。年末の29日くらいからひたすらお酒を飲んでた影響でフラフラになりながら外に出ると、スカイツリーの向こうに新年の陽が見えた。清らかな快晴。一年の始まりに相応しい朝だった。

「うう……。頭が痛い」
「わたしも……」

口の中はカラカラだし脈拍に合わせて側頭部がズキズキと軋む感覚がする。絵に描いたような二日酔いだ。我々夫婦は普段から良くお酒を飲むけども、決してアルコールに強いほうじゃない。浴びるほど飲んでも翌日ケロッと仕事に向かうような酒豪とはちょっと種類が違って、えぅえぅとえづきながら、毎度決まって「しばらく酒は控えよう」と心に誓うタイプなのだ。そしてその誓いはだいたいこうやって、向かい酒によって打ち消される。

今年の初酒は「ロック座」で飲んだ振る舞い酒だった。琥珀色の液体が胃液に触れた瞬間、二日酔いの気配がスッと、体から抜けた。

「いやぁ……。この酒美味いな……」
「ね。元気になった! 次ハイボール飲む?」
「おぉ。行こうぜぇ。へへ。正月だからなぁ。へへ!」

浅草ロック座。名実ともに日本一かつ最古のストリップ劇場だ。前述の通り、我が家には「新年のルール」がある。お互いの趣味にとことんまで付き合う。というものだ。酒と猫。これはいい。両方好きだから。問題はオイラの趣味である「パチスロ」と、妻の趣味である「ストリップ」だ。普段はなかなか交差しないそれらが、元旦ばかりは「お互いの趣味」となるのである。宣言通り、まず我々は「ストリップ」を嗜んだ。

「あー! あしのくん。はるさん。あけましておめでとう」
「おォ。○○さん。やっぱり一番で見えてましたか。あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくね──」

○○さんは我々夫婦より十ばかり年上の兄ちゃんで、浅草界隈の事を良く知っている方だ。ロック座のつながりで顔見知りになり、かつ行きつけのバーやステーキ屋が一緒なのでここ一年は頻繁にお会いしている。しかもこの方は──……。

「あしのくん、めおと舟読んでるよ。面白いねぇ」
「わお。恐縮です──!」

こんな感じで、大変まめな方なのだ。なんせ氏はボートをやらない。それでも読んでくれてるというのは、周りの人によっぽど目を向け、アンテナを張っとられるのだと思う。きっと人そのものに、ばっちりしっかり興味がある方なのだろう。オイラなんかはその辺はかなり不精な方なので、それなりに仲の良いライターさんの連載やら著作すら「積ん読」状態がなかなか解消しない。よし。今年は○○さんを見習ってこの辺から直して行こう。と、気づいたら3杯目のハイボールを飲みつつ心に誓っていた。

そして当たり前だけど。浅草ロック座の姐さんたちは、たいへん美しかった。

続きまして、パチスロである。一旦○○さんと別れたあと、酒を抜くために散歩したあと近くのお店に入る。普段誘っても絶対首を縦に振らない妻も、この日ばかりは即席の博徒として腕をぐるんぐるんと回しながらついてきた。

「色々考えたのだけど、今年は1パチの甘デジを打とうと思います」
「……いちぱち? あま……あま?」
「えーと、とりあえず、遊びやすい奴にしようと思います」
「わかった! ついていく! へへ!」
「よぅし。楽しむぞォ。……入店入店ッ!」
「入店入店ー!」

──この日打ったのは「大海物語」と「ナナシー」そして「めぞん一刻」だ。とはいえオイラも普段は専らパチスロばかりでパチンコは素人も良い所。ボーダー行ってるのか行ってないのかも良く分からんままやってると、妻のビギナーズラックが炸裂した。お正月。しかも1パチの甘デジで、まさかの5000発。

「やだ! わたしここで運つかいたくないよぅ」
「まーまー! いいじゃあないか」
「ひろしどうだったの」
「オイラは一回も当たらなかったよ」
「へへ。ひろし口ほどにもないねぇ……!」
「ほんとだねぇ。はる、お菓子選んでいいよォ。大量に貰いなよォ!」
「え! いいの! ポッキーある? ポッキーある?」
「あるさぁ。ポッキーあるさぁ……! やまほどお食べよォ」
「やったー! へへ!」

妻に袋一杯のポッキーとクッキー類を渡し、不思議な景品をスッと懐に横領するオイラ。二人分の種銭はオイラが出していてマイナスで当たり前の腹積もりだったのだけど、まさかのトントンだった。というか毎年こんな感じで妻のヒキが炸裂してお菓子分がプラスになる展開が続いている。まったくもって、良い妻を持ったもんだと思う。滞在時間約一時間。楽しゅうございました。

そうして、夕刻少し前。いつもお世話になっている某定食屋さんへ。

浅草六区界隈ではかなり名の知れた名店だ。オイラはここのポークソテーが大好きでちょっと良い事があると行くようにしている。例えば原稿料が上がったりね。新しい連載が決まったり。一度嬉しい事に使うと、場所に良きイメージが定着するので、このお店は楽しい時とか、嬉しい時とか、あとはめでたい時にご飯を食べる場所になっている。

しばらくして○○さんも合流して、お酒を飲みながらご飯を食べ。そして──。

「さて。今年から我々夫婦の新年の儀式に新しく加わった、アレをやりたいと思います」
「ボートレース!」
「そう。初夢賞だねぇ。三国だっけな。えーと……あっ!」

前回予告したボートレース三国の『初夢賞』は、15時54分で終わってた。

「しまった! 終わってる!」
「え。ホントに? コラー! 事前に調べときなさい!」
「ご、ごめんよう。ちょっと別の奴を──あ、やべえ。結構すくねぇ!」

思い返せばオイラは年明け前の29日に、岡井編集長と会っていた。そしてその時しゃぶしゃぶを食いつつ氏から言われたのがこんな一言だった。

(元旦、気をつけないとレース本数少ないですよ)
(えー。マジすかー。へへ。大丈夫ッスよ。朝からやるし。へへへ)
(いやホントに。あしのさんが思ってるよりずっと少ないんで。ホントに)
(へへ──……)
(大丈夫かなぁ……)

例によってベロンベロンに酔っていたオイラはその事をすっかり忘れていた。

「えーと……えー……。あ。イケる。これどうだ。丸亀! の5R!」
「丸亀……と。市長杯争奪BOATRACEまるがめ大賞……? えーこれ新年関係なくない?」
「あるさァ。関係あるさァ!」
「……ないでしょ?」
「あるさァ! 『丸亀』ってなんか縁起良いじゃんよ。まるいし亀だぜ。正月だよ完全に」
「そうかなぁ……」

オイラの予想は近江選手と中村選手。以前T師匠より訓戒を受けて以来時折試している2連単で行くことにした。

「3=4の2連単2点買いにしよう」
「あら。2連単? 珍しい」
「今年はねぇ、勝率重視で行こうと思ってるんだよね。やっぱり当てないと面白くないしさぁ。はるはどうする?」
「わたしは……。1=3=4の3連複にしようかなぁ。あ、でもオッズ1.5だって」
「まーまーカタそうだもんなぁ。1外したら?」
「いやー、わたしは1は外さない。ひろし良いの? 外して」
「うん。3の近江選手はモーターに難ありだけど、スタートいいんだよね。もし頭につける展開になったら1号艇は落ちてくと思うんだ。そうなると内側4号艇の存在感が俄然増すよね。んでモーターもこれめっちゃいいじゃん。もし直線の叩き合いになったら4が抜けると思う。だから3-4と4-3。どっちもアリだねぇ」
「オッズは?」
「3-4が9倍。4-3が17倍。お買い得だと思うんだよなぁ」
「うん。近江選手は外せないよねぇ。どうしようかなぁ……」

結局、妻が買ったのは1-3-4の3連単。流石に1.5倍は捨てたっぽい。

「さあ。今年初レース。スカっと勝って良いスタートを切りたいねぇ」

スマホで中継を観ながらビールを煽る。ソースをひたひたにしたアジフライの食感。ああ。今年も良い正月だ。普段ボートをやらない○○さんも固唾を飲んで見守っている。

さあ。どうなる──!

「んがー! 5かぁ!」
「あー……。2連単で買っとけばよかったわたし」
「あ、はる、1-3は当ててんだ」
「そう。ひろしが2連単行くからさぁ……。じゃあわたし3連単いくもん! と思ったら……」
「やっぱこれ、4が来ない場合っていうのを考えた方が良いんだなぁ。とすると1-3か。そりゃそうだなぁ。1-3-全でいっとけば……。74倍。いやこれイージーだわ。これめっちゃイージーじゃないか。なんで買ってないんだオイラ……」
「1は来ない! って言ってたもんひろし。ほらぁ。意地張るから。絶対1-3-全買ってたでしょ」
「2連単でスカっと当てたかったんだよう……」

その後も、酒を飲みつつ雑談し、そうして5Rほどを消化した。その結果がこれである。

「ぐはぁ。オールハズレ。しまった。3連複まで外した……!」
「わたし2R当てたけど、トータル負け」
「うわ、当ててやがる……。うらやましい……」
「もうねぇ、ひろしブレ過ぎなのよ。最初だけ2連単であとはもう2連単どっかいったでしょう頭から」
「どっか行ってたねぇ……!」
「取り返さないと、取り返さないとって思うから、もう……」
「すいません──……」

結局、この日はパチンコを含めてオイラは良いところナシだった。妻はパチンコはプラス。ボートはちょい負け。トータルするとおそらく浮いてる。恐るべしだ。大将に挨拶しお店の外に出ると、もう真っ暗になっていた。浅草寺の方から初詣の参拝客が溢れ出すように六区の大通りを練り歩いていた。今年もよろしくお願いします。○○さんに挨拶をして別れる。もう一回パチンコ行かない? という言葉をグッと飲み込んで、我々は家路についた。

「楽しかったねぇ。今日」
「うん、楽しかった」
「良い年になるといいねぇ」
「ホントだねぇ──」

手をつないで国道沿いを歩く。満ち足りた、元日の夜だった──。

引っ越しまであと65日。

 

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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