めおと舟 その42『ホーム・スウィート・ホーム』

連載
めおと舟

 

前回までのあらすじ──。
『ボートレースで一発ブチ当てて引っ越せばいいじゃない』という妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。順調にハマる夫婦だったが肝心の引っ越しに関しては夫の職業がボトルネックになり暗雲が垂れこめる。さらに本格的なコロナ禍が世界に到来する中で妻は転職。なんと1Kの自宅にて夫婦二人での在宅勤務が始まった。

妻のテレワークが始まって二週間。すげえ狭い部屋で二人と一匹、肩を寄せ合ってひたすら仕事をしているのだけども流石にストレスが溜まってきた。最初こそ激変した環境にテンションが上っておった様子の妻も、この頃はダルそうに黙々と作業をしておる。オイラもまたしかり。今までは気分転換にパチンコに行ったり一蘭を食べに行ったり好き放題しておったのだけども、今はもうどこも開いてないし開いてたとしても気軽に外出できるような雰囲気じゃない。

「なぁ、はるちゃんよ」
「ンー。なに?」
「いいかげんステイ・ホームも飽きてこない?」
「とっくに飽きてるよぅ……」
「どっか行きたいねぇ……」
「しょうがないよ今は。大人しく仕事しよう……」

四六時中ずっと二人でおるので話題も尽きる。必定、ボートばっかりやる羽目になる。ただ、平日は大概、お互い家と会社あるいはパチスロと会社という風に遠隔地で予想しつつ結果をLINEで報告しあっておったのだけども、横に居るとなまじ物理的な距離が近い分、いちいち連絡を取り合いながら何買うか決めたりしないので、同じレースを買う事があんまりなくなった。ゆえにもはやオイラは彼女が何を買ってるか分からんし、彼女もオイラが何を買ってるか分からぬ。ただ結果のみすり合わせるだけだ。

「どう? 今日」
「マイナス3,000円くらい。はるちゃんは?」
「マイナス500円くらい」

そして、二人とも大体マイナスである。

「なんか勝率下がってない? はるちゃん」
「仕事しながらだからねぇ……。あんまりしっかり予想できないからね」
「会社で仕事してる時はもうちょい当たってない?」
「うん。それなのよ」

曰く。彼女は会社で働いてる時の方がより「サボっていた」そうな。何か知らんがテレワークになった途端、逆に真面目に作業するようになったとの事。かくいうオイラもはるちゃんがテレワークになってから監視の目が入るようになったので、やたら仕事をしておる。

「ニュースでやってたんだけども、テレワークの方が過労状態なりやすいらしいよ」
「あー。話かる。なんか休憩も休憩って感じじゃなくなるし、ダラダラずっと作業しちゃうわよね」

かくいうはるちゃんも、その日は休憩を取ってなかった。あと一時間。これが終わったら休憩、これが終わったら──と言い続けるうちに、なんかどうでもよくなってしまうらしい。この現象は根っ子の部分が働き者だから起きるものだと思う。つまり、休憩の時間、というのが厳密にルールで決められていない限り、ついダラダラと働き続けてしまうのだ。

一方、オイラなんかは独りで在宅ワークしてるとクソほどサボる。びっくりするくらいサボる。ちょっと一本だけ海外ドラマ観てから仕事しよう! とか思ってたら平気で8時間とか経ってる。これはすなわち、オイラの根っ子の部分が怠惰であるからだと思う。それを告げると、はるちゃんは少し驚いたようだった。

「8時間もよくドラマ見れるねぇ! それって、わたしがいってきま~すって家を出てから、ただいまァって帰ってくるまで、ほぼ観てたって事でしょう?」
「余裕だね」
「あ! ひろしたまにわたしが出かける時と全く同じ体勢でベッドに寝っ転がったままの時あるけど、あれドラマ観てたの?」
「観てたね」
「え、凄くないそれ。逆に凄いよ」
「あのねぇ……。働きアリっているじゃん?」
「うん」
「あれ、二割は働いてないんだぜ? 知ってるかい」
「……何か読んだことあるけども」
「あれはねぇ、実はサボってるわけじゃないんだぜ。みんなが一斉に働くと、アリクイとかに見つかった時に全部死んじゃうじゃん。だから、二割は働くタイミングをずらしてるのさ。誰も働くやつが居なくなった時にスイッチが入って、モリモリ働き始めるの。そういうアリになりたいと、オイラは思う」
「おバカ! 仕事しなさい!」

へいへい、と曖昧に返事をしながらパソコンに向かう。イヤフォンを耳に付けてしばし作業、と見せかけてゲームを起動。文明を発展させながら他の文明を蹴落とすゲームだ。一回やり始めるとまあ5時間くらいは吹っ飛ぶ。恐ろしく中毒性が高いシミュレーションなのだけども、それと並行してサブ画面でボートをやりつつサミータウンのイベントをこなし、更にスマホで周回クエストのノルマをモクモクとこなす。30分ほど忙しく遊んだ所で、ふと気づくとはるちゃんがあっけに取られたような顔でこちらを見てるのに気づいた。

「……ひろし、すごいわね」
「なにが」
「めちゃくちゃ真剣に色々作業してたから、いよいよ筆がノッて来たわねと思ったんだけど。それ何やってんの」
「ええとねぇ、『シヴィライゼーション』と『スポーツニッポン新聞社杯争奪』と『アナザーエデン』だね。あとサミタで『ゼーガペイン』回してる」
「面白いのそれ。4つ同時に」
「なかなか忙しくて面白いよ。それにしても、流石にいやぁ……。ちょっと疲れたな。オイラ休憩入るわ。一時間」

言いながらベッドに寝っ転がりプレステを起動する。

「またゲームするの!?」
「まあ、これはほら、おやつみたいなもんだから」
「おやつ……」

平日の午後。夫は遊んでばっかり居るように見えて、実は煮詰まっておるのである。妻のテレワーク開始前後に関係がある媒体に営業をかけまくった所、トントン拍子色々決まった。これにより「仕事がない!」という危機的状況は回避できたものの、今度はネタがなくなった。なんせ夫に書けるのはゆるいコラムが関の山だし、そのゆるいコラムの仕事が一斉に入ってきたもので、流石に何も書くことが無くなってきたのである。

でもまあ、言っても40歳だし。今までの人生を芋掘りの如く掘じくり返せば何かしらある。ただ、その「掘り返す」という作業は往々にして宝探しみたいな作業になりがちだ。無い時はなんも見つからない。しかし締め切りは迫る。焦るばっかりでなんも進まない息苦しさは、この仕事ならではだと思う。普段であればこういう時、外に出かけて気持ちのリセットをはかる。立ち飲み屋でもいい。ストリップでも。パチスロでも。映画でも。しかし今はそれらが全部封じられているので、単純に「ネタが全然出てこない」のである。

ベッドに寝っ転がってコントローラーを握りながら、はふうと大きく息を吐いた。

「……よし、獲った」

はるが小さくガッツポーズを取っている。何事かと顔を向けると、スマホに映し出された画面をこちらにむけてきた。ボートレースびわこ。スポーツニッポン新聞社杯争奪最終日9Rだ。

「お。3連複?」
「3連単。へへ」
「おお、珍しい。いくら?」
「5100円くらい」
「マジか! 久々にデカいじゃん!」
「へへ。ありがとうございます──」
「やるなぁはるちゃん……」

言いながらまたゲームに目を向けた所で、はい、という声が聴こえた。

「はい! 提案です。これさ、今晩ウーバーイーツで何か豪華に食べない?」
「え、いいの。マジで」
「うん。買い物行くのも今は結構怖いしさ。折角勝ったし」

それに、と言いながら、はるちゃんは笑った。

「お互いストレス溜まってるみたいだしさ」

妻のテレワークはあと二週間。まだまだ伸びるかもしれないけれど、まあ何とか上手くやっていけそうな、そんな予感がした平日の午後だった。

……引っ越し予定まであと-56日

 

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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