めおと舟 その44『第一回!チキチキ!全レースぶち込み対決! 前編』

連載
めおと舟

 

前回までのあらすじ──。
『ボートレースで一発ブチ当てて引っ越せばいいじゃない』という妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。順調にハマる夫婦だったが肝心の引っ越しに関しては夫の職業がボトルネックになり暗雲が垂れこめる。さらに本格的なコロナ禍が世界に到来する中で妻は転職。なんと1Kの自宅にて夫婦二人での在宅勤務が始まった。

我々夫婦は共にボートレースを始め、そして共に成長する仲間である。夫婦ふたりで二人三脚。えっちらおっちらと高みを目指して研鑽中……であると思っておったのだけども、どうも最近、二人のボートレース力に差が出てきている気がする。その気配はちょっと前から気づいていたのだけども、外出自粛期間になって自宅で一緒にボートをする機会が激増してから「おいこれちょっと洒落にならんレベルになってね」みたいな感じになってきた。

まだまだ初心者とはいえ、オイラはこうみえて一応ギャンブル系の記事で飯を食ってるライターなわけだし、コスメ業界でがんばるキラキラ女子に、そっちの成績で負ける訳にはいかんのだ。

沽券に関わる。

「というわけで、今日オイラははるちゃんをギャフンと言わす事にした」
「……なに、いきなり」
「勝負じゃ! はる! 今日はきみとオイラは夫婦じゃない。宿敵だ!」
「別にいいけど、絶対勝てないわよひろし」
「ぬあッ!? 歯牙にもかけてねぇ……!」
「……勝敗はどうやって決めるの?」
「そうだな……。じゃあ、全レースぶち込み言っとく? ちょうど面白そうなやつやってるし……」
「どれ……? あ、若松」
「そう。若松の『ひめちゃん杯』いこうぜ」
「ひめちゃん杯──……」

はるちゃんは女子レースが苦手だ。厳密に言うと、あまりチャレンジしたことがない。いっこいっこ地道に覚えていくタイプの彼女は、まずは男子のルーキーから少しずつ覚えていくというスタイルで修練を積んでいるので、今の所女子は後回しにしてる。一方オイラはスパイラル学習法でもって同時進行で覚えて行ってるので、地力に差があるとはいえ女子レースであればオイラに有利。戦はまず地の利を取る所から始まるのだ。

「……うーん。別の所がいいなぁ」
「卑怯者! 逃げるのか!」
「卑怯者て……。じゃあ、こうしよう。トータルでわたしが買ったら、お米10キロ買ってよ。無くなりそうだし」
「米10キロて幾らだっけ」
「5,000円くらい。そしたらひめちゃん杯でもいいわよ」
「よかろう! その提案、乗った──!」
「うん。じゃあわたしもそれでいい」
「フハハ! かかったな! はるめ! この勝負、頂いたッ! 米10キロで地の利を失うとはまこと愚かの極みッ!」

というわけでルールはこちら。

・2020年5月10日、ボートレース若松の全レースを購入して対決する。
・購入金額は500円まで。どういう風に使ってもよい。
・勝敗は的中率ではなく、総合収支で決める。

なお、当日のバトルの模様はこっそりTwitterでも実況してたんだけども、ここでは各レースの模様をじっくり見ていくことにしよう。まず第1レース。ここで色々と波乱が起きた。

【ボートレース若松ひめちゃん杯二日目1R】

「ねぇはる」
「ん? どうしたの」
「男子レースじゃん」
「そうねえ」
「男子レースだよ?」
「うん。そうだね」
「知ってた?」
「うん」

ひめちゃん杯。ひめであり、ちゃんである。こんなもん誰が聞いても女子レースだと思うのだけども、実際は男子レース。繰り返そう。ひめであり、ちゃんなのだ。これはボートレース若松が仕掛けた壮大な罠だ。

「ねぇねぇ。米10キロ無しにしていい?」
「……駄目」
「ですよね……。なるほど。うーん。そうかぁ……。これあれだな。罠に掛けたと思ったら掛かってた系の。綺麗ェな虚誘掩殺の計だなァ。さすが戦上手だぜ、はるちゃん……」
「これ、予想どうする? お互い隠しとく?」
「んー。せーので見せるようにする?」
「わかった。そうしようか」

というわけでオイラの予想。ここは結構イージー。まず若松は内側が強い場だしスタートタイムを見ても1号艇森選手は軸にしていいと思う。時点で枠なりに2-3。普通に考えてこの辺だろう。

6号艇長谷川選手は比較的自由に動けそうな感じではあるんだけども上位に食い込むほどかというとそうでもない。しかも「電気一式」「キャブレタ」「ボデー」と部品を交換しまくりなんでここは切っても大丈夫だろう。それよりむしろデビューしたばっかりの5号艇富田選手の動きがちょっと気になる。スタート展示での侵入順は当たり前のように123/465。本番もたぶんこうなるんで、考えられるとしたら大外からのはマクリなんだけども、果たして綺麗に決まるかというと可能性はごく薄い気がする。とはいえ、新人選手だっていつかは必ず3連対に絡む日が来るんだし、来るとしたらこういう番組の時しかないと思うんだよなァ。

「よし決めた」
「わたしも決めた! せーの!」

【夫の予想】
1-2-35
1-3-25
1-5-2

【妻の予想】
1=2=3
1=5
(単勝)2 3
(複勝)5

まあ似たような予想ではあるけども妻の買い方がわけわかめ。でもこれ妻からすると理にかなっておるらしい。

「ほう。やっぱ5号艇富田選手に目をつけたかはるちゃん」
「動きが予想つかないのよね。そろそろ上位に来てもいい気がするんだけども……。でもまあ、普通に考えて猪木系じゃない? ここは」

猪木とは上位が「1-2-3」になる形だ。というかまあこのレースに関してはまともに予想するとそれしかない。オイラはその中で3連単で振って、妻は連複と単勝の重複的中を狙った形なんだろう。

「よし、そろそろ始まるな」
「うん。見よう。ピノコ! こっちおいで」
「ホマーン……!」

妻がピノコを膝に乗っけてブラッシングする横で、ビールのプルタブを引く。プシュっと良い音がした。

「さあ、ピットアウト……。あー、やっぱ富田選手6枠に行ってるなぁ」
「うん。新人だし。……でもすぐ内側の長谷川選手は部品交換しまくりだし。そんな握っていかないと思うのよね。つけ入るスキは全然あると思うけど──」
「さあスタート……。とりあえず1号艇がトップにならんと話にならんから、頼むぜー森選手──!」

6挺が一列になり弾丸のよう推進する。大時計の針が頂点を切った瞬間、一斉にラインを切った。2号艇深山選手が僅かに遅れてる。トップスタートは1号艇だ。が。

「あれ、今入ってた?」
「いや、際どいわよ今の……。あ、やっぱり。判定ついてる」
「うそん。マジで。フライング?」
「フライングだわね。あいたたた……。結構硬かったのにこのレース……」
「まじかよ。ねぇ、オイラ気合い入れて買ったレースだいたいフライングなんだけども。オイラ呪われてんのかなァ?! 呪われてんのかなァ?!」
「(笑)」

この時点でオイラの買い目は全額返還確定。そして妻は単勝に散らしてる分まだ可能性が残ってる。

結果!

夫……返還(500円)
妻……返還(200円)+単勝330円

「30円勝った!」
「ぐはぁ! 当ててやがる。なんじゃそりゃ!」
「へへ。ありがとうございます。お米ありがとうございます……」
「まだわからん! これ痛いぜぇ……」
「へへ……!」
「あー、腑に落ちねぇ。今のは腑に落ちねぇ……!」

ともあれ現在までの結果は30円差で妻がリード。たかが30円とはいえ総合収支が1円でも小さいほうが5000円の米を買うペナルティを負うというルール上、決して馬鹿にはできない。

「さあ、次いこう、次!」

【ボートレース若松ひめちゃん杯二日目2R】

【夫の予想】
2-4-3
4-1-23
4-2=3

【妻の予想】
1=4
1-4-2
(複勝)2 3 5

このレースの見どころは4号艇野澤選手のマクリが決まるか否かだろう。ここで「決まる」と予想したのがオイラ。しなかったのが妻だ。

「複勝好きだなぁはるちゃん」
「へへ。テレボートの的中率の所下げたくないのよ。ひろし3連単好きねぇ」
「まだまだ序盤だからなぁ。先にアドバンテージ欲しいのさ」

ファンファーレが鳴り響き、定刻通りにレースが始まった。侵入は枠なり。一番のスタートを切ったのは──!

「4号艇! 上手い! これは行くだろ──! 先に回れェ!」
「イヤァ! 逃げて1号艇! 内田選手!」
「ぐはー! いい勝負! 競ってるね! 今どっち……! んあー! ギリギリで逃げてる。4号艇! がんばれ! 4号艇! 追いつけ!」

逃げる1号艇。追う4号艇。1週第2ターンマークまでは予断を許さぬ状況だったものの、やがて引波の影響を受けて徐々に差が開き始める。ボートレースの残酷かつ面白いところがこれだ。最初のターンマークを0.01秒でも先に回った挺は、他よりも圧倒的に有利なのである。

結果!

夫……的中なし
妻……1=4(240円)

「ガミっちゃった……けど、想定内!」
「うーん。当たるだけ羨ましい……」
「あれ? ひろしまだ的中なし? プークスクス……!」
「くっ……。みてろよ。んなちまちま複勝ばっかり当ておって。一発でズドンと突き放してくれる……!」

ただいまの収支。

夫……▲500円
妻……▲230円

こうして、我々夫婦の凄惨極まるガチバトルの火蓋は、切って落とされたのだった。

──引っ越し予定日まで-70日。

 

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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