めおと舟 その46『第一回!チキチキ!全レースぶち込み対決! 後編』

連載
めおと舟

 

前回までのあらすじ──。
『ボートレースで一発ブチ当てて引っ越せばいいじゃない』という妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。順調にハマる夫婦だったが肝心の引っ越しに関しては夫の職業がボトルネックになり暗雲が垂れこめる。さらに本格的なコロナ禍が世界に到来する中で妻は転職。なんと1Kの自宅にて夫婦二人での在宅勤務が始まった。

【全レースぶち込み対決・8Rまでの結果】
夫……▲3,500円
妻……▲980円

プライドとお米購入をかけた夫婦の対決も残り4R。金額的な差はそこまで大きくないものの、問題は夫の的中率の低さだ。低さというよりも全く当たってない。ここまで的中舟券ゼロである。逆転するためには最低限当てなければいけないが、当然堅い狙いで5点買うとオッズ負けする。

そこで目をつけたのがこの一文だ。ルール2の所に「点数は問わない」とある。ルール決めの際にはあんまり気にしてなかった項目だけど、ここに光の道がある。

「よし、次のレースだ!」
「次は……9R。これは……」

 

【ボートレース若松ひめちゃん杯二日目9R】

注目は2号艇原選手と5号艇野澤選手。編成からみて1号艇藤田選手も3連に絡んでくるハズだけど、問題はどこまで粘れるか。言い換えるなら藤田選手が逃げ切れるかどうかにかかってると思う。

堅く。ここは只管に堅く──。

「よし、決めた」
「わたしも!」
「せーの!」
「ドン!」

【夫の予想】
1=2 500円

【妻の予想】
1-5-23
2-5-1
5-1-6
5-2-1

「どうだ! これ」
「わ、一点張りしてる!」
「しかも2連複だぜ!」
「オッズは……? おお、2.3倍ついてる。くッ。考えたわね!」
「へへ。てかはるちゃんはこの局面で3連単かよ……甘ェなぁ……! スニッカーズより甘ェ!」
「いや、わたしこれ普通に当てに行ってるんだけども……」
「ハーン。当たんねェ当たんねェ……。3連単は当たんねェ……! はるちゃんが大物狙いしてる間に、オイラは刻んで詰めていくぜェ。堅ェぜこの1=2は! 芋けんぴより堅ェぜ! スニッカーズと芋けんぴィ? 芋けんぴの勝ちィ! ハハハ!」
「なんかそのキャラ腹立つなぁ……」

この際、しみったれてようがセコかろうが形振りは構ってられない。なんせオイラは業界は違えど一応ギャンブルライターなわけで。互いに初心者とはいえ嫁さんに負けるようでは話にならぬのだ。

「さあ、レース開始だ。たのむぞ。芋けんぴこい! 芋けんぴこい!」
「スニッカーズ! スニッカーズ!」

「2-5-1! スニッカーズ!! まじかよ3連単当てやがった!」
「やった! 当たったー! わたし3連単久しぶりかも」
「ぐはー! この局面で久々を出しおって。マジかよ!」
「イエーイ! イーーエーーイ! 3・連・単! 3・連・単!」
「うわ、すげえはらたつ」
「何が芋けんぴですかっての!へへ」

【9Rの結果】
夫……的中なし
妻……2-5-1 1,900円

ぶっちゃけかなり惜しかった。ていうか途中まで全然2-1だった。余裕ぶちこいて見てたらサクッと5号艇が来てこの形になった感じ。とはいえ、この作戦は結構使える。この局面でさらに差がつくのはめちゃ痛いもののまだ3Rあるし、まだまだ諦める段階じゃない。

「もういい! 次行こう。次は……。これか」
「うわ、これは──!」

 

【ボートレース若松ひめちゃん杯二日目10R】

これはもう4号艇上野選手の差しが決まるかどうかに全部かかってる。決まるなら4-1が濃いし、1がギリギリで耐えるならそのまま逃げ切ると思われる。正直2連複で1=4買っとけば良いと思うんだけども、オッズが2倍を切ってるんではるちゃんに追いつけない。となると……。

「決めた!」
「わたしもこれでいこう」
「せーの!」
「ドン!」

【夫の予想】
4-5 500円

【妻の予想】
1-2-3
2-1-5
(複勝)345

「あ、また複勝買ってやがる! すっかり味しめやがって……」
「へへ。ありがとうございます。……ひろし2連単だ。複にしなかったの?」
「オッズ負けするんだよ……」
「いや、そうでもなくない? 複でも単でも変わらないわよ」
「え、マジで? あほんとだ。4-5が11倍。4=5が10倍。ウソん!」
「……しかもこれ、どうせ買うならこれ4-1じゃない? なんで5号艇……」
「いやもうオイラは当たらなすぎるからコンピューター予想さんを信じる事にしたのだ。これはオイラというよりもコンピューターさんがはじき出した答えだよ」
「でた! 予想放棄……!」
「コンピューターさんの的中率すげーんだぜ。ナメたら駄目よ。このレースはコンピューターさん対はるちゃんとする!」
「んー。まぁ確かにこれは4を買いたくなるわよねぇ」
「はるちゃんも4頭で買ってないね」
「まあね。スタ展見た感じ上野選手あんまり良さそうな感じしなくて……」
「スタ展……」

はるちゃんは最近スタ展(スタート展示)をやたら見始めた。

「こないだ九州行った時にさ、お義父さんがやたらスタート展示についてアツく語っててね」
「あー、なんかレクチャー受けてたね」

親父はボートレースをやったことがない。のにも関わらず3連単を当てるという奇跡を見せてくれた(但しチェックマークを間違えた)。競輪歴50年。剛の者の観察力が発揮されたのはスタ展であり、その情報のみで勝ち取った勝利であった。展示走行の大切さ。妻にそれを説いたのは正しく彼だ。

「それからなるべく見るようにしてるんだけども、良し悪しは何となく分かってきたような……」
「マジかよ。オイラ全然分かんねーよ……」

分かってきた、という妻が見る限り上野選手はこない。コンピューターさんはスタ展見てないんでもしかしたらその辺は加味してないのかもしれない。コンピューターさんとはるちゃんの勝負の結果は果たして。

「ウアアア! 4-1やんけぇ!! いちばん嫌なハズし方だよクソッ! コンピュータークソだな! あと、なんやさっきの『スタ展見る限り上野選手は……』みたいなフラグ。全然やんけ! キレイに差しとる! 教科書通りの差しや! そこはコンピューターさんありがとう!」
「まあまあ、落ち着いてひろし。ほら。ほら──」

そういいながら、ノートにとったメモを指差す。そこには「複勝1」「複勝4」と書かれていた。

「70円勝った!」
「……クソがッ!」

【10Rの結果】
夫……的中なし
妻……(複勝)1 100円 4 170円

 

【ボートレース若松ひめちゃん杯二日目11R】

さあ、泣いても笑っても残り2R。これは堅く行くなら1号艇と2号艇だ。どう考えてもこれ。よっぽど転覆とかフライングとか無い限りはこれだろう。オッズ的には5倍は欲しいので、2-1で行こう。てかもうこれしかねぇ。

「決めた?」
「決めた!」
「じゃあ、せーの!」
「ドン!」

【夫の予想】
2-1 500円

【妻の予想】
全=5

「うそん! 5号艇で流す!?」
「うん」
「ナンデ!? ナンデナンデ!?」
「ンー。スタ展見たらイケそうな感じが……」
「またスタ展かよォ……。見てもわからんてスタ展は。ジュン(親父)の言う事とか8割くらい適当だから。オイラの親父ぞ。真面目な事いうわけないでしょう」
「(笑)でもね。5号艇地元っ子だしさ。モーターもダントツじゃない?」
「マジでェ……?」
「それにほら、これどうみても1号艇2号艇で人気さらってるから、5とか悪くないのに2連複でもオッズ跳ねるわよ」
「それもう勝者の発想だよ……。お米買わなくていい安全圏の人間の発言だからな。なんだよオッズ跳ねるって。言ってみてぇ……」

ともあれはるちゃんがここで遊んだのはオイラ的にはありがたい。それなりにガチガチの2-1。5倍とはいえはるちゃんがハズせば一気に2,000円の差を詰める事ができる。

「よし、レース開始だ! いけ……。フライングやめてよォ……フライングは駄目だよォ……。オーケースタート正常! あとは2が普通に回ってくれればいいからねー。普通に……。そう、普通に……普通に……ふつッ……オイィ!?」
「うわ! 転覆!!」
「ちょっとォ! なんかもう一艇……4号艇も! うそだろ! マジで!?」

結果!

「1=5! うわ! マジで5号艇の2連複じゃん!」
「うわー。どうせ荒れるなら3=5か5=6だったら万舟見えてたのに……!」
「2連複で万舟狙うなし! えー、1=5のオッズ……ウソ、2,520円ついてる……」

【11Rの結果】
夫……的中なし
妻……1=5 2,520円

「イエーイ! もう勝った。わたしもう勝ったわね。お米ありがとうございます……! お米ありがとうございます……! へへ……!」
「まだァ! まだだぜ! まだラストレースが残っておる!」
「いままでの収支出してみる?」
「あ、そうだね! 見てみよう!」

【全レースぶち込み対決・11Rまでの結果】
夫……▲5,000円
妻……2,710円

「おおうふ。7,710円差……!」
「まー、まだ逆転の可能性はゼロじゃないわね」
「次すげー堅いの来たら500円ぶっ込んでも逆転不可能じゃないこれ?」
「荒れる可能性もあるし。大丈夫……!」
「てかオイラ全部ハズしてるんだけど」
「ねーねーひろし、ふざけてる?」
「いや、至極真面目にやってるんだけども……」

 

【ボートレース若松ひめちゃん杯二日目12R】

「1……だろうな。うん。1だよねこれ。次なに? 4? 6?」
「なんでわたしに訊くのよ……」
「うわもうだめだ。何買ってもハズれる気がする」
「(笑)」

しかも今回はオッズが重要。500円一点張りするにしても、3連単でも怪しい買い目が出てくる。

「えーと……これ1-4-6とかだともう獲っても負けるよな……」
「わたし決ーめた」
「早いなオイ……。ちょっと待ってて……。ええと、最低でも1-6……2連単だと駄目で、そうなると……」
「まーだー。早くゥ」
「クッ……焦らしやがる……」
「1-6-4……13倍か。これも駄目。ええと、1-6-2で16.7倍。電卓どこいった……? これだと7,850円。あ! ギリギリだ! よし! これで! 決めた!」
「せーの!」
「ドン!」

【夫の予想】
1-6-2 500円

【妻の予想】
1=4=6 300円
1=3=4
3=4=6

「やっぱ1=4=6買うよね。そうだよね。わかってた。オイラ分かってた」
「へへ。逃げ切りの体勢。へへ……」

正真正銘最後のレースだ。これで全部決まる。幸いにも(?)買い目はかぶってない。1-6-2がくれば一気にオイラのマクリ勝ち。ド本命の1=4=6だとはるちゃんの勝利。両者ハズレでもはるちゃんの勝利だ。最低でも第一ターンマークで1-6の形になっていないとオイラに勝機はない。

「さあ、レース始まるぞ……」
「1-6-2ワンチャンあるもんねコレ。わたしもちょっと余裕ぶってられないから、真剣に見よう……」
「ピットアウト……。進入は枠なりだな。向かい風5m。6枠に有利だ。たのむよ一気に回っていってね……!」

フライングは無し。ごく僅かに2号艇と6号艇が遅れるもほぼ一直線のスタート。フルスロットルのままターンマークに向かって驀進するボートが、水面に複雑な波紋を形作る。最初に回ったのは──……。

「1だ! よし。次……うまい! 6号艇きた! うわ、2も来てる!」
「やばい! 1-6-2じゃん!」
「うわ! まじかよ! 大逆転じゃんオイラ! ちょっとそのまま! そのまま頼む! あ、やべえ5来てる! おいマジで辞めて──!」

一進一退の攻防。1-6の体勢は決したが、3番手が激しく入れ替わる。そして30秒後。勝負は決した。

結果!

【12Rの結果】
夫……的中なし
妻……的中なし

「死んだ! オイラ死んだ! 全レース見事にハズした!」
「今のレースめちゃ惜しかったね。ひろし。ぷーくすくす」
「マジやめて……。ホント駄目。あ、もうイヤだ。ストレスが物凄いこれ。天井ないの? ボートレース。11レースハズしたら次絶対当たるとか」
「ないわよそんなの」
「ホントに痛いこれ……。あいたたた……。腰痛い……」

ハズしすぎて身体に不調をきたす夫。指をさして笑う妻。かくして、『第一回!チキチキ!めおと舟全レースぶち込み対決!』は集結を迎えた。

【最終結果】
夫……▲5,500円
妻……2,210円
収支差 7,710円

夫の的中レース 0/12(0%)
妻の的中レース 9/12(75%)
(返還レース1)

夫のペイアウト 0%
妻のペイアウト 146.8%

「はるちゃん、これまあまあ凄い結果じゃん?」
「そう?」
「うん。まあオイラもある意味すごくない?」
「うん。すごい。てか適当に買ってももうちょっと当たると思うわよ」
「オイラもそう思う」

まあ、しかし楽しかった。全レースぶち込みは初めての経験だったけども、色々と勉強になったし、何より夫婦の愛が深まった気がする。めおと舟。長い人生、二人で協力するのが本道ではあるとはいえ、たまにはこうやって、互いに切磋琢磨するのもまた、大切なことなのかも知れない。お互いの考え方や生き方を、深く知り合う為に……!

オイラたちの戦いはまだまだこれから。次は人生という名の強敵に、手を取り合って助け合いながら! そう! それこそが本当のめおと舟! 船長はぼくだ! 一等航海士はきみだ! ピノコは乗客! かわいいねぇ! 以上! また来週ッ! チャオ!

「……何をキレイにまとめようとしてるのよ」
「……え?」
「お米代ちょうだい!」
「それよ。それがあるんだよな……。5,000円でいいの?」
「うん! ……ありがとう! へへ。儲かった!」

夫の収支……▲10,500円(お米代含む)

「またこれやりましょう」
「……うん」
「なんかね」
「うん」

ひろしには負ける気がしない。と妻はすごくいい笑顔でいいましたとさ。

 

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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