めおと舟 その47『それゆけ! 6全全!』

連載
めおと舟

 

前回までのあらすじ──。
『ボートレースで一発ブチ当てて引っ越せばいいじゃない』という妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。順調にハマる夫婦だったが肝心の引っ越しに関しては夫の職業がボトルネックになり暗雲が垂れこめる。さらに本格的なコロナ禍が世界に到来する中で妻は転職。なんと1Kの自宅にて夫婦二人での在宅勤務が始まった。

2月3月でガッツリ仕事が減ったおかげ(?)で、国から持続化給付金というのが入ってきた。とはいえこれは個人事業の運転資金の穴埋めゆえ、オイラがそのまま使って良い訳じゃない。とりあえず穴埋め分で半分以上が消え、残る半額も妻にコントロールされているんで、個人的に使えるお金というのはびっくりするくらい何もなかった。まあ給付目的とか意図を考えるとこれはこれで非常に正しいのだけども。

ただまあ、運転資金に余裕が出来たのは確か。当座の家賃や税金に怯えなくて済んだだけでもめちゃくちゃ助かった。んで人というのは危機的状況を脱するといきなり気がデカくなる生き物でして──。

ある日の事。

例によって仕事をしながらボートレースをやってる時にちょっと気になるレースを見つけた。

【ボートレース桐生マクール杯3日目4R】

「おお、このレースはぜひ買いたいナァ……」
「どうしたの?」
「これ見て。……どう思う?」
「どう思うって……。そうねぇ……4をアタマにして──」
「6号艇買いたくないこれ?」
「出た! ひろし。6は来ないよ。6は買っちゃだめ! あーもうこれひろしが何考えてるか手に取るようにわかるわ。すんごいわかる」

このレース、A1選手は6号艇深井選手のみ。モーターにやや難があるもののなにより当地勝率がエグい。内側にスタートが遅い選手がいればもうちょい分かりやすいんだけど、調べて見た所深井選手はスタート巧者との事。つまり。

「これワンチャンあると思わない? 6アタマ」
「ない!」
「でもねでもね、コンピューターさんの予想によると6がアツいんだよ」
「わたしこないだの全レース勝負でコンピューターさんより勝率良かったわよ」
「えー。ンー。でもさぁでもさぁ」
「デモもストもない!」
「おッ。古いねそのツッコミ。いいね」
「へへ。ありがとうございます……」

照れるはるちゃんに、次の画面を見せた。6を軸にした3連単のオッズだ。

「ほら? な?」
「……あら。結構ついてるわね」
「だろ? 34がケツに来ない限り全部万舟よ」
「確かに。そういわれると確かに買いたくなるけども……」
「単勝でも6号艇に11倍ついてるんだよね。6はこれホントに可能性あると思うし、単勝に100円入れとくだけでも期待値はまあまあ高い気がする」
「期待値……?」

期待値。本来は数学の確率論で使われる「加重平均」と同義なんだけども、ギャンブルにおいては「勝率とゲイン(獲得報酬)を比べた際の損益分岐」みたいな意味で使われる。パチンコに於いては1,000円あたりの回転数を基本に「その台が確率通りに当たった場合」の期待収支を指し、パチスロでは推察される設定を打ち続けた場合か、あるいは天井到達時の平均獲得枚数から割り出した期待収支を指す。そしてこれらを重視した立ち回りを「期待値稼働」という。

パチンコやパチスロを打たない人には分かりづらいと思うけども、期待値稼働の場合は、実際に得られた報酬(メダルか玉)以外にも「期待値」という架空にして謎の報酬を想定して立ち回る。期待値稼働はあくまで大当りや天井時の獲得枚数を「平均通り貰えるもの」として計算するのだけども、当然平均を下回る事もある。だから普通に負ける。だが理論上、平均を下回らない限りは勝てるのである。

まあ最強にして最大の難敵は「そもそも期待値が高い台が落ちてない」ことなんだけども、ゆえに期待値稼働をモットーにするパチンカーやスロッターは往々にしてそういう台が空くまでひたすら待つことが多い。んで空いたら座って期待値を稼ぐ。これは「ハイエナ」と呼ばれていて、主にプロの人や大学生や無職の人──要するに時間がめっちゃある人にとっては最強の立ち回り方法とされている。逆に期待値を一切無視して打ちたい台に全力で突っ込むスタイルは「全ツ」などと呼ばれており、一部のマゾに人気を博しているけども、まあ普通に考えたら全ツよりはハイエナのほうが勝率が高くてあたりまえでして。その辺からも期待値稼働の強さが分かるだろう。(ちなみにオイラもパチスロ打つときは基本的に全ツなのですげー負ける)

パチンコとパチスロで期待値稼働が一般化してるのは「得られる報酬の平均」が計算可能だからだ。ボートや競馬のようなオッズ式のギャンブルの場合、果たしてこの「期待値」という言葉が成立するのか分からんのだけども、オイラとしては今回6号艇深井選手が1着に来る可能性とオッズの高さは、良い意味でアンバランスに見えたわけだ。これをして「期待値が高い」と表現したのである。というのを、妻に説明した。

「わあ! めっちゃ早口!」
「……ぜぇぜぇ。期待値、分かったかい? ぜぇぜぇ」
「ンー。でもさぁ、今の説明だと期待値ってそもそも当たんないと意味ないじゃん。期待値っていう謎の報酬とか稼いでも嬉しくないし」
「そう。だからやるなら継続してやんないとだめなんだよね。同じレースで同じオッズで同じ買い方を繰り返して……って。パチスロだと同じ機種の同じ設定を打ち続ければちゃんと機械割通りになっていくハズなんだけども、ボートの場合はそれが無理だから厳密に言うと期待値稼働は無理だと思う。でもな!」
「……うん」
「オイラはこのレースで6全全買おうと思ってる!」
「……買いたいだけ! 結局買いたいだけ──!」

6全全。それは以前ナナテイメンバーでボートレース江戸川の取材に行った時に覚えた悪しきぶち込み方だ。やり方は簡単。まず3連単のフォーメーション買いを選択し、6をアタマに「全通り」「全通り」を選ぶだけ。これにより5通りかける4通りで20点。つまり2,000円で「夢が買える」。なんせ6がアタマにくればだいたいのレースで高配当が見込めるから。

ちなみに以前、プライベートで仲良くさせて頂いてるパチンコ・パチスロ業界ジャーナリストのPOKKA吉田さんとボートレースについて語りあった際、オイラが6全全をたまに買うという話を聞くや氏は眉をしかめこう言われたものだった。

あのな、そんなん思考停止やで! と。

というわけで今回の予想!

【夫の予想】
6-全-全(100円 20点)

【妻の予想】
34-34-123(100円 4点)
1 6(単)

「うわ、ホントに6全全行ってる! おばか!」
「おばかとは何だ! 失敬な!」
「ちゃんと予想しなさい! もーほらー! おばか! おばかおばかおばか!」
「クッ! 違うもん! これ当たるもん!」
「当たらない! ひろし定期的に6全全入れてるけど、当たったことは?」
「ない!」
「自信満々に言わない! おばかおばかおばか!」
「失敬な失敬な失敬な──!」

というわけで、結果。

「ギャース! 4だった!」
「何かわたしも道連れで外したし! おばか! これ完全にひろしのせい!」
「なんでオイラのせいよ!」
「あー。これめっちゃ惜しかった。1の2着は見えてたなぁこれ……。6の単勝入れてなかったら絶対2着に1も入れてたよーこれ。うわ、オッズ49倍。もー! おばか!」
「まあいいじゃないか」
「なにが!」
「……だって、期待値は稼いだろう?」
「うわ、腹たつ! なによ期待値って! 期待値がピノコのご飯になりますかっての! プンスカ! 二度と言わないで期待値とか!」

──引っ越し予定日まで -91日

 

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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