めおと舟 その51『引っ越し舟 後編』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
『ボートレースで一発ブチ当てて引っ越せばいいじゃない』という妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。順調にハマる夫婦だったが肝心の引っ越しに関しては夫の職業がボトルネックになり暗雲が垂れこめる。さらに本格的なコロナ禍が世界に到来する中で妻は転職。なんと1Kの自宅にて夫婦二人での在宅勤務が始まり、そしていよいよ迎えた引っ越し当日……!

──引っ越し完了予定日。再度来たる。

連載開始51週目。ゼロ回を含めると52週目の快挙(?)だ。思えばオイラは今までの人生で恐らく市井の人々の平均値以上には引っ越ししまくっておる。単純に「お引越しが好きだから」である。何か「リスタート」とか「心機一転」みたいなのに強く惹かれるタチなのだ。下手したら一年に一回とか平気で越してた時期もあったし、長崎時代から換算するとちょっと良く分からんくらい越しておる。

なんでそんなにホイホイ引っ越す事が出来たのか?

これもまた単純な理由だ。要するに「ほぼ身一つでサクッと移動してた」からである。引っ越し屋さんとか使わない。ダンボール2つくらいを郵送して終了。立って半畳寝て一畳。いつだってオイラの引っ越しは「現地調達」を最上としており、常にそれが頭の片隅にあったので必定、「余計な物は買わない」「思い出のものは作らない」「コレクションしない」というミニマリスト寄りの生活になっていた。(余談だけど、10日間滞在する海外旅行もコンビニ袋いっこだけで向かったことがある)

そんなんだから、いつしかオイラは引っ越しをナメていた。

新居は直線距離で前の所から200メートル程。いつもの感じで「楽勝!」とか思ってたのだけども、今回の引っ越しは今までの引っ越しとは様子が違う。そう。断捨離出来ない系女子代表の妻・はるかと、そしてわがままボディ系またたび大好き猫・ピノコが居るのである。オイラはこれを甘く見ていた。

6月某日。午前。

場所は浅草。元々住んでた家から直線距離で200メートル程度しか離れていない為今回も引っ越し屋さんは使わない。(ネットが使えなかったりとかの)不測の事態に備え、新旧の居をダブって借りてる期間が2週間ほどあったので、この間に簡単な荷物を夫婦で運んでしまい、大型のものはタイミングをみて友達を呼び、みんなでいっせいのせで運んじまおうと決め、そして実際その予定通りにちょこちょこ荷物を運んでいたのだけど、ここで早くもオイラの腰は終わりを迎えた。

あしの、引っ越し作業の準備段階で腰をやるの巻。

これにより実際の引っ越し作業が始まる前に大きな不安材料が出来てしまったので、急遽お手伝いして頂く友達の数を増員する事になり調整に奔走する事になったのだけども、ありがたいことに前日になって一人都合がついた人がおり、これにて六艇が出揃った形になる。

そして迎えた引っ越し当日。番組表がこちらだ。

腰をイワしたオイラと大物運搬に参加しない妻。イン側に戦力外選手が2名いるという波乱が予想されるレースだ。3号艇のマスターはこの連載にも度々登場してる文字通りバーのマスター。機力・技術ともに申し分ないがほぼ徹夜明けなのがネック。

4号艇コダは旧居においてオイラの家と「徒歩30秒」の場所に住んでた男で、引っ越しにやたら慣れているらしく今回の作業に関しては「台車すら要らない」と豪語していた台風の目。

5号艇はパチ7という媒体が縁で仲良くさせて貰っているセリポン君。先日飲んだ際になんと彼の方から「引っ越し手伝いましょうか?」と申し出てくれ、それにより今回の作業を「ノー・引っ越し屋で行う」事が決定したというバックグラウンドがある今回の戦闘の立役者だ。

6号艇はオイラの友達のIくん。腰をイワしたオイラの影武者として急遽参戦が決定した。本人曰くフィジカルに自信がないとの事だが、実は以前オイラのPC(クソ重い)をアキバから浅草まで運んだ時には「二人で運ぼう!」といいつつほぼ彼に丸投げした過去があるので最低でもオイラより力持ちなのは確定している。

以上6艇。戦場は浅草近辺のほぼ直線300メートル。とはいえ途中で横断歩道を二度渡りゴール近辺で商店街の人混み内を突っ切る必要がある(!)という、体力と精神をバランス良く削られる難関コースだ。

「実況はわたくしあしの、解説は妻のはるちゃんです」
「どうも。はるちゃんです」
「どうでしょうはるちゃん。今回のレースの見どころは……」
「そうですね。やはり故障しているあしの選手の存在が気にかかります。あと唯一の女子レーサーであるわたしが新居で荷受けとベッド組み立ての作業に回っているので、実質レースに絡むのは外側の4艇のみになります」
「ずばり、はるちゃんの予想は」
「そうですね。5号艇セリポン選手を軸に5-34-34。ただしマスターが寝ていないということで途中離脱の危険があり、そうなると6号艇Iくんの存在感が増すと思います。したがって5-34-346。以上4点を基本に予想するのが良いと思います」
「ホミャーン……!」
「おっと、ピノコ選手の存在を忘れていました。どうでしょう、ピノコ選手の様子は」
「ピノコ選手は案の定下痢してますね。新居に慣れるまで暫くは体調不良で出走停止だと思います」
「ということは、あしの家からの人員は全員……」
「はい、全員戦力外ですね」

イエス! 自分ちの引っ越しの大物搬送、全部他人にブン投げるスタイル──!

「さあ、旧居に選手が到着した模様です。まず先頭はあしの、次にマスター、セリポン君。おっと3人だけだ! なぜ3人しかいない!」
「コダはこの時わたしと一緒にベッド組み立ててますね!」
「ンー、4号艇コダ選手、まさかの出遅れ……スタート判定は……ギリギリ入ってます! ちなみにI選手は……!?」
「I選手はこの時、降りる駅を間違って遅れてますね」
「なんということだ! 判定は……正常だ! ギリギリ入ってます。しかし際どかった!」

(なんでコダいねぇんだよ……! え、ベッド作ってんの!? 運ぼうぜ!)

「おっとマスターがちょっと怒ってますね!」
「徹夜明けで荷物運ばされてカリカリしてるようです」
「これはどう見ますかはるちゃん」
「そうですね。レース展開に影響がなければいいのですが……」
「なるほど。ともあれスタートはなんとか正常判定。まずは大事な大事な一周目、運ぶものは……おっとマスター、オフィスチェアをチョイス!」
「地味に重いですねェ」
「しかしはるちゃん、椅子にはキャスターが付いてますが、これは使って良いのですか」
「駄目です。キャスターはお外でゴロゴロしないこと。その辺りは事前に口を酸っぱくして注意してます」
「なるほどォ! マスターがちょっとイラっとした様子で担いでますねぇ! 続いてセリポン選手……こちらも椅子をチョイス。引かない! 挑戦的な選択だァ!」
「しかもセリポン選手の椅子はマスターの椅子より多分重いです」
「続いてあしの選手。なんかちっちゃい袋持ってますねぇ!」
「ケーブル類ですね」
「果たしてあしの選手は要るんでしょうかコレは……!」
「一応重そうなフリをする演技はしてるようです」

照りつける太陽。国道の信号待ち時間。そして商店街のひといきれ。衆人環視の中で家具を運ぶ屈辱を味わいながら、新居到着。一周目時点での到着タイミングはセリポン、マスター、あしのだった。

「あしの選手、ほぼノー荷物でも一番遅い! 我ながらなんという事だ!」
「彼は実は腰イワしてるのもそうですけど、まあまあ二日酔いですね」
「なんだと! 飲んだのか1号艇あしの選手。前日に!」

(あ、マスター。おつかれぇ!)
(はるちゃんお疲れ。てかコダ! ベッド作ってる場合じゃないよ!)
(えー、だって俺めっちゃ作ってましたよ)
(だってじゃないよ! 運ぶよ!)

「ここでコダが参戦したようです。Iくんはどうなったんでしょう」
「Iくん道に迷ってるようですね」
「おっと、1号艇あしの選手、なにやら嬉しそうだ。おや! カギをマスターに預けているぞ! はるちゃん、これは一体……?」
「どうやら彼はIくんを迎えに駅近くまで行くつもりですね」
「大技だァ! なんという事でしょう! あしの選手まさかの戦線離脱! 現場にあしの家側の人間が誰もいなくなった!」
「マスターはわたしたちの部屋に何度も来たことがあるし、道に迷う恐れはないと判断したんでしょうね……。余談ですが結婚して四年くらいの間でしみじみわかった事があります。あしの選手の座右の銘は『オイラは肉体労働絶対にしないからな』らしく、その点は有言実行でずっときてますね」
「なんと……ということは今回の荷造りなどは……?」
「ほぼわたしがやりました。それについてわたしが文句を言うと『ライオンのオスは狩りをしない』とか良くわからない事を言って逃げてましたね」
「なるほど! すいません! さあ気を取り直して2週目のチョイスです……。おっと、どうやらコダとセリポン君がペアを組んで猫用のケージを運ぶようです」
「二人はこの時初対面ですね」
「初めて会う人間とケージを運ばされる気分は果たしてどうなのでしょう! マスターは……。重そうな袋を2つ抱えている……! あれはなんでしょう」
「猫用の砂とかですね。地味に重いです」
「さあ随分経ってからあしの選手と、そしてI選手が旧居に到着しました。二人は……おっと! パチスロの話をしながらタバコを吸っている! まさかの開幕休憩だ!」
「あしの選手が無理やり誘ったようですね」

「やってることが家電量販店時代と変わらない! 人間はここまで成長しない生き物なのか!」
「おや、ようやく運ぶようですよ……?」
「おっと、重そうな棚をチョイスした。あれはどうなんですかはるちゃん」
「あれは悪手ですね。あしの選手、荷物を運んだ経験がなさすぎて判断が鈍ったようですが、実は今回の荷物の中であれが一番重いです」
「I選手、あしの選手。二人してカラーボックスを運びながら……。おや、台車を使ってませんね?」
「たぶんバカなんだと思います」
「歩いて……立ち止まって……歩いて……立ち止まって。おおっと! あしの・Iくんペア、日陰の度に休憩しているぞ!」
「肩に担ぐようにすればいいんですよアレ。なんで二人してモンハンのタル爆弾みたいな妊婦さん持ちで向かい合って運んでるんでしょう」
「Iくんずっと半笑いだ……!」
「おそらく『一人で運んだ方が早えーよ』と思ってるんだと思います」

ともあれ。なんだかんだと引っ越し作業は進み、終わってみれば荷物の量に対して人員的にはあまりがでるほどのオーバーキルで、一時間程度ですっかり運び終えてしまった。着順はよく分からんが、まあその後の洗濯機の設置やらベッドの設置やらで考えるとコダとセリポンくんがMVPだと思う(マスター途中で店の準備のために帰った)。

はるちゃんから貰った軍資金でみんなに焼き肉を食わし、その後マスターの店で打ち上げ。これにて、あしの家の引っ越しは一旦の幕引きとなった。

夜。初めての新居で寝っ転がる二人。昼間はビビってケージから出てこなかったピノコも、ようやく慣れ始めたらしく部屋中を探検したのち、いよいよ落ち着いてベッドに飛び乗ってきた。

「ベッド広くなったねえ」
「今までセミシングルで二人で寝てたもんな」
「二人でも狭いのにピノコもいるから、寝返り打てなかったもんね」

胸に乗ったピノコがゴロゴロと喉を鳴らす。カーテンの隙間から見える浅草の夜空。梅雨時だというのに、嫌味なくらいきれいな星霜が透けて見えていた。

「新生活だねぇ」
「そうだねぇ」
「あした何しよう?」
「なにしようかねぇ……」
「何でもできるねぇ」
「何でもね……」

広いベッドに慣れない二人は、いつものようにぴったりとくっついた状態で仰向けになって。そのうちすっかり眠ってしまった。

……これにて連載の第一目標だった「引っ越し」完了だ。

ついでに、これまでの「めおと舟」成績発表! ただし抜け多数あり。

・夫の成績
購入舟券数 193R
的中舟券数 28R
的中率 約14.5%
回収率 約84%
最高的中倍率 249.5倍

・妻の成績
購入舟券数 277R
的中舟券数 99R
的中率 約35.7%
回収率 約96%
最高的中倍率 81倍

連載序盤は二人共妻のテレボートでやってた事。その後もお出かけの際や旅行の際など、オイラのスマホの電池がヤバい時ははるちゃんに代わりに買って貰ってた事。また実際に場に行った場合は券売機で買ってた事などにより実際の数字はかなりズレる。オイラの的中率と回収率が意外に高いのもその辺の影響だと思う(ということははるちゃんの的中率は実際はもうちょい高いのかもしれない)。

この結果を分析するに二人の買い方のクセは明らかで「オイラは大物狙いなのに小物しか当ててない」ので低的中率で低回収。またはるちゃんは「小物狙いの傾向が強すぎる」ので超高的中率なのに低回収になっている感じだ。実際はるちゃんは横で見ててもまあまあガミってるし、回収率96%というのは納得の数字だと思う。

というわけで今後の課題としては

・夫は的中率の底上げを狙う。
・妻はトリガミを減らす。

この辺りになるかと思われる。そしてそれを踏まえ、引っ越しが終了した今我々には新たな目標が必要だ。何を目指すかは既に決まっているのだけども、それは次回から始まる新章にて発表したいと思う。まあそんなに大した事じゃないけども、ね。

というわけで、これからもナナテイ、ならびにめおと舟を宜しくお願いします。
次回をお楽しみに!

 

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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