めおと舟 その52『楽しみながら勝つのです!』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。当初の目的である引っ越しを終え、いよいよ満一年を迎えためおと舟は新展開を迎える……!

「ねぇねぇひろし」
「ンー? なんだいはるちゃん」

引っ越しにまつわるあれやこれやも順調に片付き始めたけだるい午後。セミダブルのベッドに寝っ転がりながらスマホを弄っていると、妻のはるちゃんがちょっとむずかしい顔をして口を開いた。

「これみて、これ」
「通帳?」

我々夫婦は共通の口座を持っている。中には結婚してから地道にため続けたお金が入ってて、例えば旅行やら里帰りやらで交通費に使ったり、または急にまとまった現金が必要になった時なんかに使ったりするためだ。もちろん今回の引っ越し費用もここから捻出してるのだけども、渡された通帳を見てつい声が漏れた。

うちは家計全般を完全に妻に任せている。お金に関してはオイラは全く関知していない。なので口座にいくらあるかも知らんし引っ越しにいくら掛かったかも知らない。最近は仕事上の請求関連も妻に投げてるんで、もはや自分の稼ぎが幾らなのかも良くわかってない。一見すると窮屈そうだけども、こと管財に関しては小学校低学年レベルの能力しかないオイラとしては、これはかなり助かってたりする。独り身の時はよくガスやら電気が停まってたしね。

そんなわけでオイラは自分ちの財政がどんな具合なのか知らぬ。中途半端に関わって口出すのも潔くないしイラつくだろうから、いっそ一切関知しないというスタンスでいる。なので渡された通帳を見た時「ありゃ!」と思ったわけだ。ぼんやりとした予想よりだいぶお金がなかったんである。

「引っ越しってお金掛かるんだなぁ」
「家財道具も新調したしねぇ……。というわけで、今日から我が家は倹約期間に入ります!」
「倹約かぁ……。やだなぁ……」
「まずはしばらく外食を控えます」
「しょうがないね。お酒は?」
「お酒も少し控えよ? あとは……ゲーム課金禁止ね」
「えー……」
「えーじゃない! ひろし先月めっちゃ課金してたでしょ!」
「ちぇ。仕方ねぇなぁ……」
「あとは……。パチンコ・パチスロは仕事だからしょうがないけど、やるからには勝ってね」

あとは……と言ってから妻が言った。

「ボートレース。これも今後は【やるからには勝つ】スタイルでやろうよ」
「えー、マジで言ってる?」
「うん。マジだわよ」
「オイラ自信ねぇなぁ……」
「わたしはあるもん」

個人的な所感だけども、ボートはパチスロよりは遥かに難しい。正直パチスロで勝つのはそんなに難しくないのだ。んなバカなと思われるかもしれんが、大マジである。パチスロには勝ち方というのがちゃんとあって、それさえ外さなきゃトータルでちゃんとプラスになるようにできてる。ただ時間がめちゃくちゃかかるし面倒なだけで。一方で、ボートの「勝ち方」というのがオイラにはとんと見えていない。T師匠みたく結果を出してる人も実際に存在するので「勝率の上げ方」みたいなのはあってしかるべきなんだけども、それは多分理解すれば模倣可能なテクニカルな部分じゃなくて、もっとナレッジ的な、習得するのに膨大な時間がかかるものな気がする。

「ボートで勝つ。難しいなぁ……」
「ンー。でもさぁ、わたしたちもこのまま漫然とボートやってても、たぶん駄目だと思うのよね。今はわたしたち『楽しさ』優先で来てるじゃん?」
「間違いないね。面白いからやってるもの」
「特にひろしはそうよね。万舟ばっかり狙ってるし……。それはそれで趣味としては面白いけども、より楽しむという意味でワンステップ上を目指すのも悪くないと思うのね。つまり、『楽しみながら勝つ』みたいな」

実際、「引っ越し費用をボートで稼ぐ!」という当初の目的は、結構早い段階でどっかに行ってた。夫婦でボートを楽しむ。それ自体が目的化してたからだ。ぶっちゃけ勝敗は二の次で、楽しめれば全然良くなってた。

「というわけで、今後はボートをやる際に幾つかルールを決めたいと思います!」

はるちゃんが右手をあげて高らかに宣言する。オイラもようやくベッドから身体を起こした。二日酔いでフラフラする。

「ひとつ! 楽しみながら勝つべし!」
「……」
「復唱!」
「え、復唱しなきゃだめ……? ええと、ひとつ、楽しみながら勝つべし」
「お互いの収支はちゃんと報告!」
「お互いの収支はちゃんと報告……」
「ボートのお金と生活費は分けて管理すべし!」
「え、マジで?」
「マジよ。わたしが管理する」
「うわー、本気ってことか。トホホ……ボートのお金と生活費は分けて管理すべし」
「めざせ、夫婦の年内収支プラス30万!」
「無理じゃね?」
「無理じゃない! 復唱!」
「めざせ、夫婦の年内収支プラス30万……!」
「よしゃ! へへ……」

【めおと舟・新ルール】
・楽しみながら勝つべし!
・収支報告を確実に
・ボートのお金と生活費は分けて管理
・年内収支30万を目指す

ドーン。こうなりました。とりあえず最初の「楽しみながら勝つ」は鉄板というか。これは凄く良いと思う。んで収支報告。これも今までがなぁなぁ過ぎたんで家庭内の綱紀粛正を図る意味でも良いかと思う。次の「生活費と分けて管理」だけども、これが問題だ。一見すると当たり前だけども、要するに「管理」という言葉がある以上、マイナスを叩いた時に自分の小遣いから補充しなきゃイカンということでありまして、今までみたいに「へへ負けちゃった。はるちゃんお小遣いちょうらい!」みたいなゆるいノリが通じなくなった事を意味する(実は今まで負けても全然痛くなかった)。

最後の「年内収支30万」も良く考えたら結構絶妙な設定で、一人頭15万。今年の残りは6ヶ月だから、月あたり3万プラスだせば余裕をもってクリアできる。

「そもそも勝てるかどうか……だなぁこれは」
「これくらいだったら、わたしまあまあ自信あるんだよねぇ……」
「マジかよ……。すげえなうちの奥さん……。じゃあコレ、とりあえずはやってみようか」

というわけで、今後のめおと舟にはその週の収支をつけていきます。今週はちと引っ越しのドタバタで全然実戦出来てないんで次週にまとめて持ち越し!

【今週の収支】

・夫の成績
収支 0円
購入舟券数 0R
的中舟券数 0R
的中率 0%
回収率 0%

・妻の成績
収支 0円
購入舟券数 0R
的中舟券数 0R
的中率 0%
回収率 0%

こんな感じですな。正直全く自信がないんだけども、果たしてどうなることやら……!

「ちなみにこれ、30万溜まったら何すんの?」
「ンー。何しよう。確かに目標があったほうがいいわね……」
「旅行は?」
「ちょっとありきたりかなぁ……」
「次の引っ越し費用に充てるとか……」
「暫く引っ越しのことは考えたくないわねェ」
「んだよなぁ……。じゃあさ、じゃあさ……」

いつの間にかボートの話から「30万あったら何するか」に話題がとんだあたりで、部屋には缶ビールのプルタブが空ける音が響いた。新しい部屋で新しい家具に囲まれつつ、何となく浮ついた気持ちではあるけども、やってることは以前と変わらず。普段通りで……。

──年内の目標金額まで、あと300,000円

 

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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