めおと舟 その53『新生活に慣れてゆく』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。当初の目的である引っ越しを終え、次なる目標は『楽しみながら勝つ事』。夫婦合算で年間収支プラス30万円を目指し始めた。タイムリミットは年末。果たして結果は……?

我が家にはピノコという猫がいる。4歳のミックスだ。特徴はシッポが親指くらいしかない事と、身体が小さい事。非常に人懐っこくて超バカな、大変可愛らしいヤツである。元野良で、生まれたばかりの時に施設に保護されてから1年くらい我々の事を待ってくれていた。ちとお腹が弱くて何かあるとすぐ下痢するのが玉に瑕だけども、主に我が妻・はるちゃんの大いなる愛によって最近はよっぽどじゃないと粗相しなくなった。

今から3年前の話だ。

保護施設から浅草のマンションに帰って来た我々は、予め設置しておいた猫用ケージを前にゆっくりとバッグをおいた。ジッパーを開くと、不安そうな目の猫と目が合う。ニー。と小さく鳴いた。

「やっぱ出てこないねぇ。どうしよう」
「最初は狭い所がいいらしいから、トイレに居て貰おうか」
「そうだね。それがいいね」

ジッパーを開いたままのペット用バッグを再度抱えてトイレへ向かう。便器と壁の間のスペースにバッグを置いて、ドアを半開きにしたままそっとその場を離れた。着替えたり食事を摂ったりしている間、定期的に「ニー」という声が聴こえてきた。

「大丈夫かなぁ、猫」
「早く慣れてくれればいいけど……」

1歳の猫は人間でいうと18歳程度らしい。青春真っ只中。まだ多感な時期なので、いきなり環境が激変するのは不安しかないだろう。我々も互いに猫を飼った経験は無い事はないけども、そんなに長期間じゃないしオイラに至ってはかなり昔の話だ。ピノコも不安だったろうけど、我々も不安だった。

翌日。オイラが仕事から帰ると猫用ケージの一番上の所にピノコがいた。

「……これ、自分で登ったの?」
「うん。自分で。さっき登ったよ」
「マジか。慣れてきてんな……」
「ね。ご飯も食べたよ」
「ああ、よかった……。ちょっと触っていいかな?」
「いいんじゃない?」
「よし、失礼して──……」
「シャーッ!」
「うわァッ。シャーされた……!」
「あはは……!」

ピノコはケージを自分の棲家として認定したらしく、暫くそこから動かなくなった。食事はする。たまにおりてきて運動する。ただしウンコしない。次なる悩みのたねは「便秘」だった。はるが仕事に行ってる間にオイラは近所のペットショップのオヤジに相談に行くことにした。

「オヤジさん、猫がウンコしないんですけど、どうしたらいいと思います?」
「何日くらいしてないんですか?」
「今日で三日? くらい」
「あー、そろそろするんじゃないんですかね」
「そんなもんですか」
「ほっとけばウンコするんですよ猫なんて」
「なるほど……」

オヤジの言う通り、翌日にピノコは我が家に来て初の便をした。オイラは仕事中だったけど、喜んだはるが「初ウンコ」という文字と共にラインで写真を送ってきてくれた。当時電気屋でしゃせーしゃせー言ってたオイラはそれを大変喜び、周りの人に見せまくったものだけども、猫のウンコの写真を見せられた方はおそらくオイラのことを危ないヤツだと思ったはずだ。

これにて順風満帆! 快適な愛猫生活! になるはずだったけど、そうは問屋が卸しゃせず。次なる問題がすぐにやってきた。オイラの猫アレルギーだ。

アレルギーというとくしゃみやら鼻水やら目の痒みやらが一般的だろうけども、オイラの場合はアレルギー性鼻炎の重いヤツで、とにかく頭痛が酷かった。痛すぎてうずくまるレベル。薬を飲んで何度かやり過ごしてたけど、いよいよどうにもならなくなって仕事を早退した。当時オイラは日本中の家電量販店に行っては色んなミッションをこなしてたのだけど、その日はちょうど錦糸町にいた。自宅まで20分ほど歩けばすぐの所だけども、頭が痛すぎて帰るのに1時間くらいかかったのを憶えてる。

流石にこのままずっと痛いとちょっとマズイぞ……!

とめちゃくちゃ心配してたけども、およそ二週間ほどで激しい症状は消えた。今でも慢性的に鼻水が出るしくしゃみもでるけども、頭痛が収まった事で「このくらい猫の可愛さの代償としては余裕っしょ」くらいのレベルになった。

その後、我々夫婦と一匹は激動の日常をサーフボードでノリノリに乗りこなすようにして過ごし、入籍やらオイラの脱サラやらはるちゃんの鬼嫁化などの変化に対応しつつ現在において新たな局面を迎えたわけだ。引っ越しである。

ワンルームで夫婦生活をこなしていた今までが良く考えるとイカれていただけかもしれんが、新しい部屋の快適度はそれはそれは衝撃的なレベルだ。広い、というのはやっぱり正義だと思う。まず目に入る情報量が圧倒的に少なくなった。収納が広いのでゴチャゴチャしてない。人間というのは散らかってるとそれだけで脳が疲れる生き物なのである。これは結構大事な事で、例えば散らかった部屋にいてもストレスを感じない人というのは、単に視力が悪い場合が多い。狭い部屋だとどうしても収納に限界があるので机や棚の上にまでものを置き始める故、どうしても視覚情報量が増える。これは整頓してたとしても散らかった状態と同じなので、疲れちゃう。

引っ越してからまず感じたのが、この部分の疲れが無いことだ。ノーストレス。過ごしやすい。

次にベッドが広くなったのも劇的な変化である。今までひとり用のセミシングルに二人と一匹で寝ておったので、正直クソ狭かった。寝返りで肘鉄を食らったり食らわしたりすることも多く、これは安眠的な意味でも大変な阻害要素であった。今はベッドが二倍くらいの広さになったので全然余裕。安眠である。

ただ、今まで狭かったのが広くなるというのは、場所を持て余すというか、ちょっと落ち着かない感じがするのも事実。ゆえになんだかんだ我々のパーソナルスペースはワンルーム時代とそんなに変わってなく、折角複数の部屋があるのに何だかんだ一緒の部屋にいて過ごしてるし、夜もベッドの中央の部分で「きをつけ」の状態でピタッと横にくっついて省スペースな寝方をしておる。広さに対応出来てないのだ。

そこでいの一番に、この広さを満喫しておるのがピノコだ。

きゃつはこの所異様にテンションが高い。「ウォォ! やべえぜ広いぜぇ! どけどけェ!」みたいな感じで部屋中を走り回り、タイムアタックでも狙ってるかの如くドリフト気味にコーナーを曲がっておる。あと「オラオラかかってコイおらァ!」みたいな感じですげー噛んでくる。多分「この広さだったら逃げ切れる」と思ってるんだと思うけど、もちろん噛んだらその後、オイラに端っこまで追い詰められてあっさり捕まり、ハーモニカの刑(猫を水平に持ち上げて脇腹で虎舞竜のロードを吹く)に処される。あと、運動量が増えたせいか快食・快便が進んでる。今の所体重2.5キロの小型猫なのだけども、もしかしたらちょっと大きくなるかもしれない。

「なあはるちゃん」
「なに?」
「ピノコが一番慣れてない? この部屋」
「最初全然ケージから出てこなかった癖にねぇ……」
「2日で慣れたねコイツ……」

一般的に引っ越しは「物質的な引っ越し」と「精神的な引っ越し」が2度行われるといわれておる。いわれておるというかオイラが言ってるだけだけども、要するに荷物を運んでそれで終わりの「物質的な引っ越し」と、そこが本当の意味で我が家だと思えるようになる「精神的な引っ越し」の2つだ。んで実は後者の方が大変というか、時間がかかるものなのである。下手したら1年くらいかかる人もいるし、どうしてもこれが出来ずにすぐまた引っ越す人もいる。ぶっちゃけオイラもはるもまだコレは終わってないと思う。が、ピノコは別だ。新生活を堪能しとる。

ベッドに寝っ転がって、走り回るピノコを眺めながら。何かその顔がキラキラ輝いているように見えた。

──さて、慣れるといえばもうひとつ。

この連載のキモである「楽しみながらボートレースに勝つ」事だ。前回決めたルールとしては夫婦ふたりで年末までの収支をプラス30万円出す! というものだけど、果たして今週の結果は! と勢い良く発表したい所だけども、実は今週、引っ越し作業に罹りっきりであったため、はるちゃんはボートをやってないらしい。まあ家具を作ったりカッティングシート貼ったり配線を整えたりと何だかんだ忙しかったので、オイラも結局2Rしか買えなかった。いっそ翌週と合算にしちゃうか! とも思ったんだけどもその週の結果はその週に出しとくに越したこたァないので、ぶち上げときましょう。

というわけで、オイラが買ったのは7月11日・ボートレース若松『中間市行橋市競艇組合施行51周年記念競走』の7Rと8R。

今までのデータからみてオイラに足りないのは「的中率」なのは間違いない。なので鉄板レースを中心に本命をフォローしつつ対抗の展開をおさえていくという作戦で行きたいと思う。今回のレースの場合は1-4-2が鉄板の1番人気だ。ただ、4号艇の林選手が1着の展開も充分に考えられるしその場合はオッズも跳ね上がるんでココが狙い目のハズ。というわけでガミ覚悟で10点買いしてみた。

12=4-12
4-6-12
1=4-6
1=2-4

124を中心に、特に林選手が1着の場合と3着の場合を想定して手広く買ってみた。この場合、1-4-2と1-2-4だとガミ。それ以外だったら浮き。まあまあ現実的な買い方だと思うけども果たして……。

普通にガミった。ド鉄板の1-4-2。3連単のオッズは5.7倍だ。ガミ食らったの結構久々なんだけども、とりあえずこういうのは嫁がいつも食らってる道ゆえ、なんだろう。慣れていくしかアルマーニ。とりあえずはオイラの目標である「的中率をあげる」というのには初手から一歩近づいた感じなので良しとしよう。(続く8Rは普通にハズした)

はいというわけで結果!

【今週の収支】

・夫の成績
収支 -930円
購入舟券数 2R
的中舟券数 1R
現在の的中率 50%
現在の回収率 38%

・妻の成績(ノー実戦)
収支 0円
購入舟券数 0R
的中舟券数 0R
的中率 0%
回収率 0%

目標金額まで……300,930円

ンー。まだ2Rしかやってねぇから何とも言えないけども、まあこの買い方は悪くない気がしないでもない。本命をフォローしつつ対抗をおさえる。今回はそのまんまストレートにド本命が来たんでこういう感じだけども、ちょっと結果がズレてれば回収率はバチっとついてきてたわけだし。これで回数を重ねていけば回収率も安定してくるハズ。

あとははるちゃんがどういう戦略でいくのかだけども……そこは来週の結果とあわせてみてみましょう。

というわけで今回はここまで! また来週ゥ……!

 

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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