めおと舟 その55『犬猫論争』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。当初の目的である引っ越しを終え、次なる目標は『楽しみながら勝つ事』。夫婦合算で年間収支プラス30万円を目指し始めた。タイムリミットは年末。果たして結果は……?

(あしのさん、良かったら今度ボートレース場いきません?)
(お。どうしたいきなり)
(実はもう場内に入れるようになってるんですよ。奥さんも一緒にどうですか)
(おお! それいいね。じゃあ行こうか!)
(車出しますよ! シャス!)

引っ越しを手伝ってくれたセリポンくんから少し前に誘われて、25日に某ボートレース場へと向かう予定を組んでおって夫婦して楽しみにしていたのだけども、新型コロナの都内での感染者数が再び増えたのを受けて再度都知事よりこの4連休の外出自粛要請が出た結果、残念ながら見送りとなってしまった。

「んあー。なんだよコロナァ……。いちいち予定狂わせてくれるなァ……」
「仕方ないよ、これはもう天災だし」

はるちゃんと部屋でダラダラ水割りを飲みつつ、テレビを観ながら時間をつぶす。都内はすげー大雨だったけども、行く予定だった場はそんなに悪天候じゃないらしく普通にレースも開催されてるらしい。場でレースを観ながら買う予定だった舟券も、なんか家から買うと悔しいのでもう買わない。

「あー、惜しかった……」

はるちゃんがスマホを観ながら言う。彼女は彼女で全然違う場所のレースを買ってるらしい。

「どこ買ってるの、はるちゃん」
「今はびわこー」
「はるちゃんボートレースびわこ好きだねぇ」
「あと唐津。そんで江戸川かなぁ……」
「なんで?」
「ンー。何でだろう……。何となく?」
「何となく……」
「ひろしは? どっか好きな所ある?」
「オイラあんまりねーなぁ。強いて言えば江戸川と大村?」
「あー、大村も良かったねぇ。てかひろしは行ったことあるところが好きなのね」
「だって行ったことないところ良く分からんもんなぁ」

どっかで聞いた話だけども、人は犬型と猫型に大別されるらしい。犬は人に懐くけども猫は場所に懐く。パチンコに例えると分かりやすいけども、ジグマ的な立ち回りをする人は「猫型」で、珍しい機種を追い求めて彷徨うのは「犬型」だ。ボートレースで言うならば「場」をメインで考えるのが「猫型」で、選手につくのが「犬型」という所だろう。ぼんやり思いながら、ふと自分は「場」について全然気にしてない事に気づいた。ボートレースは選手ありき。何となくそんな固定観念にとらわれていたのだ。考えてみればオイラはパチンコもそうだ。面倒だから一番近い店によく行くけども、好きな台を打つためにフラフラ上野くんだりまで歩く事も多い。ボートレースも、特に場に思い入れは無い。犬型だ。へへ。猫好きなのに。

「場か……。全然考えて無かったなぁ。はるちゃん結構気にするよね」
「うん。選手も観てるけどね。今のトレンドは場かなぁ」
「トレンド……!」

妻は猫型で、オイラは犬型。意外な違いが分かった。

今まで良さげなレースがあったら買うみたいな感じで来ておるので、確認したことがなかったけども、ボートレース場ごとに勝率の差みたいなのはあるんだろうか。ちと今までの累積データがはるちゃんに買ってもらったり場で買ったりで全然不正確なのが悔やまれるけども、それでも購入履歴をチェックして幾つか分かった事があった。どうやらオイラ、芦屋、戸田、下関辺りではそこそこ戦えているけども、若松、桐生、浜名湖は的中率ほぼゼロだという事が判明した。

「ほんとだ。意外と偏りがあるな……」
「偏りっていうか、全部酷いわねひろし。芦屋とかがマシってだけで。プークスクス」
「ちくしょう、ハラ立つなぁ……。オイラもちょっと何か買ってみよ。はるちゃんどれだっけ? これ?」

【デイリースポーツ杯争奪第35回オールニッポン選抜戦5日目4R】

「めっちゃ難しくない? このレース。なんで買ったん」
「あのね、びわこはインが弱いのよ」
「……あー、なんか一回勉強したなァ。確かそうだそうだ」
「うん。だからこのレースとか、高橋選手のまくり差しが決まるかどうかの戦いになるのよね」
「はるちゃんは決まると思う?」
「ンー。1号艇亀山選手のモーターがいいのよねェ……。そこまでは行けないと思うから、1-6-24とかが鉄板? かなぁ」
「なるほどね。よし、じゃあオイラは……」

【夫の予想】
1-6-23 2点 100円
6-1-23 2点 100円

【妻の予想】
1-6-23 2点 100円
2-1-6  1点 100円
3-6   1点 100円

「ひろし、真似してる!」
「へへ。いただきました」
「ていうかまた6頭狙ってるし。的中率どこいった! びわことは言え、そんなしょっちゅう来ないわよ……」
「いやー、高橋選手やってくれそうな気がするんだよ」

結果!

「げえ、3頭だって。これは分からねぇ……。結構つくんじゃないこれ。84.5倍だって」
「これは狙って当てるの無理ねぇ……。でもほら、やっぱイン弱いでしょう」
「ンーたしかに。普通に考えたら1号艇余裕の展開だもんなぁ……」
「ちょっとご飯食べてからまた後でやってみる? ちゃんと予想して……」
「そうだね。びわこマスターなろうぜ」
「なろうなろう!」

とりあえずカレーを食べたり水割りを飲んだりしつつ、約一時間後のレースについてじっくりと予想する。

【デイリースポーツ杯争奪第35回オールニッポン選抜戦5日目6R】

「これは1号艇松崎選手じゃねぇか流石に……」
「ひろし、ここはびわこよ……インが弱いびわこよ……?」
「そうか……。あぶねぇ。常識に囚われる所だったぜ……。となるとビンビンくるのが──」
「6号艇松田選手ね……」
「松田選手のまくり差しが決まるかどうか……。って、さっきと同じこと言ってないかオイラたち」
「びわこはだいたいそうなるように番組組んでるのよたぶん」
「なるほど……」
「よし、わたし決めた」
「オイラも。みせっこすっか。せーの!」

【夫の予想】
6-1-23 2点 100円
1-6-23 2点 100円

【妻の予想】
6-1-23 2点 100円
1-6-23 2点 100円

「おお! 珍しいな。ぴったしかぶってる」
「え、ほとんど初じゃない? これ」
「ね! ビックリした。てか1年やって初めてカブるって、どんだけ考え方違うんだって話だけども」
「まあ今回はね。これはもう予想の流れ的にこうなるわよね。あーもう、これは当たる予感しかないわね」
「ガミも心配ないし、悠然と観とこうぜ」
「水割りおかわりいる?」
「あ、いる。氷多めでお願いします」
「はいじゃらじゃらァ……じゃらじゃらァ……」
「もういいよ、もういいよはるちゃん、もういいよ?」
「じゃらじゃらァ……じゃらじゃらァ……」

結果!

「インやん。めっちゃインやん。1-2来とるよはるちゃん」
「1-2-6かー!」
「そんな『そっちかー』みたいな顔しながら額をペシペシ叩いても駄目よ! インよこれ! でもまあ惜しかったけどな! 着順違い! 3連複だったら……8.8倍!」
「そう! びわこは3連複がいいのよ! あー! 1-2-6かー!」
「だからそんな『そっちかー』みたいな顔しないで!」

とはいえ、この「びわこは3連複がいいのよ」という単語は何気に心に残った。確かにはるちゃんは今まで3連複で的中率を稼いでいたフシがある。現在的中率を第一に考えているオイラとしては、必然的に闘うべき相手が「ガミ」であって、イン側が弱いという特徴を持つびわこはその「ガミ」の心配が少なめだ。なんせ外側が絡めばオッズも上がるんだから。

わたしはびわこが好き。そう、はるちゃんが言ってたのはつまり、そういう事なのだ。

外出自粛のせいで場に行けなかった代わりに、何か大切な事を学んだ日だった。

(今週の収支は二人共全く『的中なし』だったんで割愛。ゼロばっか並ぶの見せられてもツマランだろう! プンスカ)

目標金額まで……303,140円

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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