めおと舟 その60『おや? はるちゃんの様子が……!』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。当初の目的である引っ越しを終え、次なる目標は『楽しみながら勝つ事』。夫婦合算で年間収支プラス30万円を目指し始めた。タイムリミットは年末。果たして結果は……?

我が妻、はるちゃんは凝り性だ。「これ」となったら猪突猛進。マイケル・ジャクソンもそうだし、ストリップもそう。貪欲に知識を収集してどんどん詳しくなっていく。そして彼女は一時期、週末ごとに関東から「baseよしもと」(※当時)に通うほど「お笑い」にハマっていた。

はるちゃん曰く、その頃は「ワラキチ」が流行っていたとの事だけども、これは「笑い飯・麒麟・千鳥」の頭を取った呼称で、baseよしもとのファン内でのみ通用するスラングに近いものだったらしい。該当の劇場が無くなったこともあり、今ではお笑いへの情熱も下火になってるらしいけども、それでも「ワラキチ」への想いはそんなに変わらないらしく、未だにテレビで彼らのうち誰かが画面上に映るや、作業の手を止めて見入っておる次第。

ちなみにオイラもお笑いは好きだ。最近だと「シソンヌ」にだいぶヤラれてるけども、嫁さんが愛してやまないワラキチ系も嫌いじゃない。というか「千鳥」に関してはハッキリと好きな芸人だ。だもので、特に我が家の食卓では千鳥が出る番組でチャンネルを固定される事が多い。

んでだ。その「千鳥」の大悟さんがとある番組で放ったひとつのセリフが、ボートレース界隈の片隅で話題になったのをご存知だろうか。

──4カドの峰は峰なんよ……! だ。

流石に動画を貼るわけにはイカンので文字で説明しちゃうと、つまり研ナオコさんが初めて舟券を買うのを千鳥の二人がスタジオで観てるのね。でも研さんはボートの事を知らないので当然ながら予想なんか出来ないんだけども、そこは周りのおじさん連中が色々とレクチャーするわけだ。おじさんは1号艇吉川選手を推して研さんもそれを購入しようとする。いやちょっと待てと。ボートに詳しい大悟さんがVTRを止めて申し述べる。「4号艇に峰がおったら峰なんよ」と。当然事前に収録されたVTRなので大悟さんの声は届かず。おじさんの予想をそのまま受け入れて購入した舟券は吉川選手を頭に数点だった。

結果、一号艇吉川選手は転覆。峰選手が一着。その時にスタジオの大悟さんから飛び出した言葉が「4カドの峰は峰なんよ」だ。

我が家ではそれ以来「4カドの峰は峰なんよ」という言葉が大いに流行ったわけで。まあ事ある毎に峰選手を買うようになったのだけども──……。

「ひろし! ボートレースメモリアルどうする?」
「……ん?」
「今年も峰選手出るわよ!」
「ボートレースメモリアル……。下関?」
「そう。もう今週やるわよ!」

先週の事だ。はるちゃんが珍しくSGレースに興味を示した。基本的にルーキーシリーズなんかをメインで買ってる手前、我々夫婦の予想は「選手のクラスに差がある番組」に特化しておりまして。レースのグレードが上がれば上がるほど普段の予想方法が通用しなくなってくんですな。SGとかになると選手は基本的に全部A1になっちゃうし。なので今までなるべくそういうレースは買わないようにしてたのだけども……。

「SGかぁ……。難しいんだよなぁ。全員上手いし」
「でも峰選手でるから。いいたくない? 4カドの峰は峰なんよって」
「それはめっちゃ言いたいナァ……」

何となく興味を惹かれたので、PCでボートレースメモリアルの番組表をチェックする。確かに初日のドリーム戦に峰選手の出場が予定されていた。

「お。しかも1号艇じゃん」
「買っちゃう? このレース」
「でもSGだからなぁ……。みんな超上手いから予想し辛ェ……。はるちゃん買う?」
「うん。わたし買う!」
「……よーし。じゃあオイラもちょっと予想してみっかな」

そうして訪れた第66回ボートレースメモリアル、初日12Rの出走時刻。オイラたちの予想はこうだった。

【夫の予想】
1-245-245 6点 各200円

【妻の予想】
1-3-2456 4点 各100円
1-4=5 2点 各100円
1-6 1点 100円
(単勝)345 3点 各100円

「はるちゃんすげー買い方してるなぁ……」
「意地でも当てたくて……。へへ。てかひろし、なんで毒島選手外したの」
「なんか井口選手がすげー気になるのよね。となると松井選手もついていく展開になりそうだからもし買い目を絞るなら1-4-5とか」
「そこはわたしも買ってるね」
「だろ。内側のオッズ低そうだからあんまり手広く買いたくないんだよねェ。だから毒島選手外しちゃった。でも、そこもし買うなら1-2=3かなぁ」
「わたし両面待ちしてる。3でも4でもOK!」

SGドリーム戦。基本的に一般戦を好んで買ってるのでSGのレースをしっかり観た経験はあんまりない。特にドリーム戦をオンタイムでチェックするのはこれが初めてだ。はるちゃんが喉を鳴らす。画面から伝わる会場の雰囲気も、普段のレースとはぜんぜん違う感じがした。大時計の針がゆっくりと回り始める。進入はどうやら枠なり。トップでスタートを切ったのは1号艇・峰選手だ。

「おし。いいぞ峰選手!」
「ほらー、ぶす君来てるじゃんやっぱ」
「ダッシュ勢ちょっと遅れてたなァ。緊張すんだろうなーやっぱドリーム戦」
「フライング切ったらとんでもない返還額になるだろうしねぇ。メンタル凄いよね選手たち」
「ホントだねぇ」

結果は1-3-2。4番人気でオッズは12.5倍がついていた。

「お! けっこうついてるジャン!」
「ね。思った。SGってやっぱり選手のファンが指名買いでバンバン買うから本命のオッズも下がりづらいのかなぁ」
「あー……なるほど。そういう事か。いやしかしこれで10倍以上つくとは……。買っとけばよかった。はるちゃんガミってないよね?」
「ちょっと浮いたね。250円」
「よし。ナイスだ!」
「へへ。ありがとうございます。ありがとうございます……」

これで気をよくしたはるちゃんは翌日からゴリゴリに予想をしはじめた。ひたすら番組表を眺め。スタ展をチェックし、メモ帳片手にうんうんと唸ったりあははと笑ったりしている。

「ねえねえはるちゃん。はるちゃん」
「ン? どうしたの」
「えーと……もしかしてまたボートやってる?」
「うん」
「なんか朝からずっとやってないかい」
「うん」
「勝ってる?」
「負けてるねぇ」

ニコニコ笑いながら小さく伸びを作る。負けているのに満面の笑みだ。

「いやー、SG面白いわよひろし。一般戦とホントに違うの。なんていうかねぇ、レースのアツさが段違い。がんがん当たって行くし引かないのよ誰も」
「まー……そりゃ大舞台だしなぁ。気迫は違うだろうねやっぱり」
「もう全ッ然違う。これスポーツとして純粋に面白いかも」
「そんなにか……!」
「ホントにホントに。観たほうがいいわよひろしも。あ、しかもほら、次いよいよ……!」
「ん?」

「なに! 4カドの峰選手……!」
「ね! ついに来た! これ張りどころじゃない?」
「確かに……。えー、買おうかなぁ……」
「買おう買おう! 言おうよ一緒に。4カドの峰は峰なんよ……!って」
「わかった。よーし、買うか! ちょっと番組表ちゃんと見る!」
「うん!」

【夫の予想】
4-156-156 6点 各200円

【妻の予想】
4-126-126 6点 各300円

「おー、似たような感じに」
「なったね。まあ峰選手を頭で考えるならこうなるよね」
「何かこれはすごく当たる感じがするぞ……!」
「うん。するね。安心感が凄いね4カドの峰選手」

ピットアウト。順当に枠なりで進入した6艇が波を引きながら一直線にスタートを目指す。アウト勢が僅かに良スタート。マクリの展開だ! が!

「あ、峰選手ちょっと遅い!」
「5号艇速いね! あ、これだめだ……! 頭押さえられるやつ!」
「逃げて峰選手……!」

好スタートを切った5号艇が峰選手の頭を押さえるようにクイックなターンを決める。マクリの姿勢をとっていた峰選手は咄嗟に差し返す構えをみせるも、同じく好スタートの6号艇がその内側をつく。5号艇のマクリ差しは結局届かず、一方で僅かな隙を見つけて見事な差しを決めた6号艇が2位に躍り出た。4号艇峰選手は4番手争いだ。先頭は1号艇吉川選手。なんとあの千鳥の番組で4カドの峰が勝った日に転覆した、あの吉川選手である。

「何というドラマティックさ……!」
「吉川選手、たぶんあの番組でめちゃ恥ずかしい思いしてるだろうから、これは雪辱を果たした感じだねぇ……!」
「いやー、これたしかに面白いわ。今のスタートとかも超アツかったもん。あんな隙間をスパーンと差すの初めて観たかも。やっぱSGはもう本気も本気なんだなぁ……」
「ね! 面白いよね! ハズレたけど!」

ハズレたけど面白い。これは危ない。パチンコやパチスロだって、負けて面白いと言い始めたらいよいよ好事家だ。個人的な感想だけども、負けてなお面白いと言い始めた時点でもうその人はパチンコ・パチスロの虜になってると思うし、それはきっとボートレースでもおんなじだ。つまり、いよいよはるちゃんがその域に突入してる。博徒。ギャンブラーだ。

そしてギャンブラーと非ギャンブラーを隔てる唯一にして最大の壁。彼女は翌日、それを乗り越えた。つまり。

「お、はるちゃんまたやってるのかい。ボート」
「うん」
「メモリアルかい」
「そう」
「どれどれ……。どれ買ったの?」
「んー。内側かなーと。でもちょっと絞れないから3連複で……」
「いくら?」
「2,000円」

これだ。つい先日まで100円買って勝ったの負けたの言ってたはるちゃんが、いよいよ2,000円とか買い始めた。

「勝ってる?」
「ううん。負けてる。でも楽しいね」
「な、なるほど……」

結局、彼女はこのボートレースメモリアルでトータル2万ほど負けていた。オイラは後半マクってやや負け程度。それでもあっけらかんと翌日また「ねーねー夕食を賭けてボート勝負しない?」とか言って来たんで、これはもういよいよだ。

はるちゃんは、ギャンブラーに進化した……!

 

【今回の収支】

収支 -6,900円
購入舟券数 14R
的中舟券数 4R
今回の的中率 28%
今回の回収率 62%

【今までの累計成績】

収支 -18,900円
購入舟券数 48R
的中舟券数 14R
今までの購入金額 48,600円
今までの回収金額 29,700円
今までの的中率 29.1%
今までの回収率 61.1%

目標金額まで……318,900円(夫のみの暫定)

この数字は飽くまでオイラの成績のみ。はるちゃんの成績は諸事情により(というか見れない)んでどっかのタイミングでまとめて計上します。ちなみに8月だけではるちゃん3万くらい負けてます。オウフ!

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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