めおと舟 その64『オカイが来たりて寿司握る(前編)』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。当初の目的である引っ越しを終え、次なる目標は『楽しみながら勝つ事』。夫婦合算で年間収支プラス30万円を目指し始めた。タイムリミットは年末。果たして結果は……?

トゥルルル……トゥルルル……。

「ウイッスあしのっす」
「あー、あしのくんさー、寿司食べようよー」
「寿司?」
「うん。あしのくんちで」
「オイラんちかー……。ちょっとまってね。はるちゃんに聞いてみる」
「うん」
「……あ、いいみたいだよ」
「オケオケー。じゃあ日曜にオカイと一緒にいくわー」

電話の主は友達のワイルドさんだった。パチ7という媒体の先輩ライターにあたるのだけども、家が近所なのでたまに一緒に飯を食べたりパチスロを打ったりしてる仲だ。んで基本的に物書きというのは結構孤独な商売である。したがって一時期は「一週間のうちに人と喋ったのが家族以外ではワイルドさんだけ」みたいな時もあったりしたんだけども、新型コロナ以降はオイラもすっかり出不精になってしまい、あんまり頻繁に飯食ったりしてない感じだ。

ちなみにワイルドさんの人となりについてはコチラの漫画を読むとより理解が深まると思われる。共通の友達である「犬」くんが描いた漫画だ。この三話を読むとどんな人かだいたい分かる。

犬スロ第196回「メッチャ不健康な奴らと人間ドックに行って来たぞ!(前編)の巻」
犬スロ第197回「メッチャ不健康な奴らと人間ドックに行って来たぞ!(中編)の巻」
犬スロ第198回「メッチャ不健康な奴らと人間ドックに行って来たぞ!(後編)の巻」

この漫画も背景を知ってる人間からすると抱腹絶倒なのだけども、とりあえずふだんパチスロばっか打ってる人々がいかに不健康かが身にしみてよく分かる大作である。よかったらどうぞ。

そして当日。近所の中華屋の目の前で待ち合わせしたあと、自宅へ二人を案内する。

「はい、どうぞいらっしゃいィ」
「ういっすういっす。お邪魔しますー」
「お邪魔します……」
「あ、ワイルドさんオカイさん、お久しぶりですゥ」
「あー、はるさん、お久しぶりィ」
「お久しぶりです……」

二人は両手一杯に大量の食材を抱えておった。聞けば、午前中から待ち合わせして御徒町で寿司ネタを仕入れてきてくれたらしい。ワインや檸檬堂、ハイボール。なんか知らんが大量のアルコールと共に。

「ほら、あしのくんのも買ってきたよ!」
「おお……スーパードライ……! わぁいガソリンだぁ! へへ」
「ホミャーーン……」
「うお、これピノコ? ちっちゃいねぇ!」
「そう。ちっちゃいんだよねぇコイツ。最近だいぶ人に慣れたよね」
「シャー……!」
「うわー、寿司ネタもめちゃめちゃあるなぁ! イカとかこれ、一杯そのままジャン」
「皮だけ剥いてきて貰ってさー。あとはオカイが捌くって」
「すげえな……。そんなんできるんだ……。ン? なんだこれ」
「あーこれねぇ、明太子。俺食いたくてさァ……」
「ツマミにいいね! ありがとう!」

日曜の昼下がりだ。まずは乾杯しつつ、談笑する。

「いやー、実はねー、今日来た理由がさぁ。先週めおと舟落としたじゃんあしのくん」
「うん。落としたねぇ。ネタがマジで何も無くてサァ。こりゃもう駄目だと。たまーにあんだよねこれ」

ワイルドさんが言う横で、ナナテイ編集長の肩書をもつオカイさんが「へへ」と言っていたけど、その目は笑ってなかった。

「あれで心配になってオカイに電話してさー。落ち込んでんじゃねーかなと思って」
「うそんマジでそれで来たの!? なんか心配かけてごめんね……。オカイさんもすんません。ありがとうね……」

こくりと頷いたのち、おもむろに寿司の準備を始めるオカイさん。彼はある時突然寿司に目覚め、ツイキャス等で寿司握り配信というのをやったりしてる。理由はよく分からん。が、その配信を見てる限りでは腕前はメキメキと上達しているようだった。最近なんか、私服も羽織である。

「あしのさん、なんか好きなネタとかあるんですか?」
「オイラはそうだなぁ、一番好きなのはエンガワだね」
「あー、エンガワは今日無いんですよねぇ……!」
「おいおいマジで寿司屋みたいじゃん……!」

「へいお待ち。最初のは醤油じゃなくて柚子塩で食べてください」
「柚子塩……! 好き!」

柚子好きのはるちゃんが椅子に座ったままぴょんと跳ねた。さらにオカイさんはその後マグロを切り始める。

「こちらは醤油でお召し上がりください。わさびの量とか好みを言って下さいね」

「あとねー、こんなの買ってきたよあしのくん」
「それは……! 伝説の……! スパークリングワイン……!」
「開けよう開けよう! スパークリングワイン開けよう!」

シュワシュワした飲み物が好きなはるちゃんがまたしても椅子に座ったままぴょんと跳ね、そして執り行われる開封の儀。

「じゃあ、あけますよー。ピノコ気をつけてねー……。いくよー……! ポン!」
「ウェーイ!」

普段あんまり酒を飲まないワイルドさんが、スパークリングワインを飲みつつ「あーこれウメェな。俺明太子食べていい?」と言う。もちろんオッケーさ。パック山盛りの明太子。オイラも九州男児として明太子は大好きなのであとから食べよう。しかしこれ美味しいなワイン。

「そういやオカイさん、ハイスコアって番組しってる? Netflixの。アタリ社の歴史とかからゲーム業界を紐解くドキュメンタリ。E.T作ったプログラマも出てくるよ」
「E.T(笑) 埋まってた奴ですね。え、マジですか……知らないですねその番組」
「これ絶対オカイさん好きだから観たほうがいいよ。ちょっと再生するね」

などと、談笑する事2時間ほど。はるちゃんがこんな事を言い始めた。

「よし、ボートしよう」
「……お? やる?」
「いいですね」

ワイルドさんが明太子を食べながら言った。

「俺あんまやったことないんだよな。ちょっとやってみたいね。俺も買えるの?」
「買える買える。大丈夫だよ」
「当たるかな……?」
「どのレースにしよう……? じゃあとりあえず、これかな?」


【10/4 江戸川 第44回デイリースポーツ杯】

「これどうやって予想するの?」
「とりあえずA1とかA2とか書いてあるのが選手のクラスなのね。それである程度判断するんだけども、ボートって基本内側の方が強いのさ。1号艇ね。今回の場合はめちゃ強い選手が1号艇だから、これを軸にする感じだね」

オイラの言葉にはるちゃんが続ける。

「だた、クラスばっかり見てると駄目なんですよ。今回の場合1号艇はそんなにモーターが良くないし、2号艇と3号艇の選手も弱いわけじゃないので無視できないんです。あと、ボートってゆっくりスタートする舟と全力でスタートする選手に別れてるんですね。で、後ろが全力なんですけども、今回の場合4号艇が全力スタートのカドになるんで、ここに上手い選手がいるとサクッと1着取ったりします」

オカイさんが頷く。考えても見れば、およそ1年ほど前にナナテイメンバーで集まってレース場に行った時は、はるちゃんはまだまだ初心者であった。その時は当然オカイさんもいたけども、当時と今を比べると隔世の感があるだろう。

「なるほどねぇ……。幾ら買う?」

ワイルドさんが明太子をつまみつつ言った。

「1,000円でいいんじゃない? 点数の内訳は自由で。……じゃあ、それぞれ予想してみよう!」

【ワイルドの予想】
1-3 1点 500円
1-6 1点 500円

【オカイの予想】
1-3=4  2点 500円

【あしのの予想】
1=2=4 1点 1,000円

【はるちゃんの予想】
3-1 1点 500円
2-4 1点 500円

「なるほどね。こうなったか……。ワイルドさんそれ2連単だけど1-6まあまあ付くね」
「あしのさん3連複珍しいですね」
「完全に取りにいってるもんねこれ。ストレートに1-2-4来たらちょっとイラつくけど、複にしてみた」
「わー、みんな1買ってる……。私だけだ外してるの」
「これは秋山選手は外せないよはるちゃん……。でも2-4全然あるからねこれ」

そしてレース開始。

「さーはじまるぜー。ファーンファファーンファララッファーン」
「ひろしはファンファーレが好きだねぇ……! これいつも言うんですよ。うるさくて……」

6艇が唸りをあげ一直線にみえないスタートラインを目指す。進入は123/456。残り5秒の段階で明らかに遅れているのは6号艇。5号艇も遅い。4号艇も内側より半挺身ほど遅れてる。こうなるとイン勢が明らかに有利だ。1号艇が明らかなトップスタートで既にイン逃げの構えが完成している。

「あーこれ内で固まる! 逃げ決まるね!」

1-3買ったワイルドさんが激アツ。他のメンツも4号艇の動き次第では掛かりそう。スタートライン直前の隊形は132。遅れて4のさらに遅れて56。全体的にあんまり美しくないスタートだ。その中でピカイチのスタートを決めたのがやはり1号艇。他よりあきらかに抜きん出てる。さすがは秋山選手。早い。早すぎる。あれ? いまの……。

「フライング!」
「はやすぎー!」

1号艇秋山選手。選抜戦でフライングの巻。これにて1絡みは全額返還。ゆいいつかからなかったのははるちゃんが買った2連単2-4だけだが……。

結果。

「01秒フライングいてーなぁコレ……。タッチスタートで良くないこれ?」
「駄目ですよ。しかしあしのさんフライングレース多すぎません?」
「いやマジで多いんだよ。しかも大体全額返還だからね。呪われてんのかなオイラ……」

明太子を食べながら、ワイルドさんが言った。

「今のは、お金帰ってくるの?」
「そうそう。はるちゃんだけ500円負け」
「へー。なるほどねぇ!」

ワイルドさんは頷きながら、また明太子を口に運んだ。

「なかなか当たらないもんなんだな!」

つづく!

 

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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