めおと舟 その66『結婚記念日には旅行をしよう2020』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。当初の目的である引っ越しを終え、次なる目標は『楽しみながら勝つ事』。夫婦合算で年間収支プラス30万円を目指し始めた。タイムリミットは年末。果たして結果は……?

「イエーイ! ドラマ面白いぜー! へへ! むねのなかーにあるーもーのー! あ! オイラこれ踊れるかもしれない! こうか? こうかな? むねのなかーにあるーもーのー!」
「合ってる合ってる! イエーイ! いつかみえーなくなーるーもーのー!」
「やったぜ! 恋ダンス極めた! それはそばーにいるーこーとー……!」

(パキッ)

「ぎゃ! 手首パキなった! いてぇッ!」
「腱鞘炎ねぇ!」

10月某日。オイラとはるちゃんの夫婦生活に、いよいよ三度目の結婚記念日が訪れた。我々は入籍する前から毎年この時期にはどこかしら旅行へ行くというのを決め事にしてて、実際新婚旅行は長崎へ。一年目の記念日は沖縄へ。二年目は大阪へ。去年組んだ予定では、今頃は台湾あたりに行ってるハズだったのだけど、お察しの通り今年はダメだ。

理由は簡単だ。新型コロナウイルスのせいである。コロナ禍の余波(というかもはや第二波だか第三波)が世界を覆うこの情勢で「海外旅行いってきゃす!」とかそういうのはアカンにも程がある。ゆえに大人しく家で過ごしつつ、Huluやらで過去のドラマをめっちゃ観て過ごすことにしたわけなのだが。

「すごいなぁひろしは。今さら恋ダンスで手首負傷するのひろしくらいよ」
「やっちまったぜ……。あー痛い……」
「どうする? 続きみる? あと6話くらいあるけども」
「そうだなぁ……。ちょっとお腹減ったかも。何か食べにいかない?」
「そうね。何がいい?」
「ンー……。一応今日って結婚記念日よな?」
「うん。お寿司にでも行こうか?」
「悪くないね……。んじゃ、ちょっと着替えるか」
「わたしもメイクする!」

諸々準備をしつつ手首を冷やしたり揉んだりしてたのだけど、ふと、はるちゃんがこんな事を言い始めた。

「ねぇ! 今思ったんだけど、帝釈天あたりまでプチ旅行いかない?」
「プチ旅行……! 悪くないね」
「ちょっと調べてみるね! ……あ、ねぇねぇ、帝釈天のそばに、うなぎの名店があるんだって!」
「うなぎ!?」
「うなぎ! いかない?」

うなぎ。実はオイラとはるちゃんの間で、うなぎはちょっとだけ思い出の食べ物だったりする。何を隠そう。はるちゃんのお母様(つまり現在はオイラにとってもお義母さまにあたるのだけども)と初めてお会いした時にその舞台に選んだのが浅草の某有名うなぎ屋さんでして。それだけだったら別になんてことはないのだけども、なんとその時オイラは風邪にプラスして猫アレルギーをガッツリこじらせてむちゃくちゃ体調が悪く半分死んだような状態であり、出されたうなぎをひと口くらいしか食べられなかったのだ。重ごと残すというのは前代未聞の失礼さだったのだけども、あれはまじで秒単位でドンドン具合が悪くなってたんでどうしようもなかった。

「なつかしい。あの時まじで申し訳なかったなァ……」
「お母さん心配してたねぇ」
「よし、じゃああの時の無念を晴らす意味でも、いくか、帝釈天のうなぎ!」
「イエーイ! いこういこう!」

というわけで、ただ帝釈天に向かうのもあれなので途中下車して散歩しつつ目的地へ。到着したのは正午過ぎだった。

 

「おお、とらやだって。これ寅さんのあれか?」
「わかんない! 寅さん観たことない!」
「オイラも無いや。へへ」

 

「寅さんいるじゃん! おお、山田洋次が何か書いとるぞ……なになに、寅さんはまっすぐで不器用で……」
「いいこと書いてるねぇ!」
「いいね! 寅さん好きになってきた! おーれがいたーんーじゃお嫁ェにいけーぬゥー」
「早速歌い始めたねぇ!」
「へへ。ありがとうさくら」
「さくら違う!」

 

料亭到着。

「おい、何だここ……。めちゃくちゃ高いんじゃねぇの? 中庭あんぞ?」
「値段調べたけど普通だったわよ? 浅草のほうが高いかも」
「マジで……。やべ何か緊張してきた……」

促されるまま参道に面した日当たりの良い席に着座し、割烹着姿のおばちゃんに、まずはビールと肝ロールを注文した。

「肝ロール? なんぞそれ」
「うなぎの肝のロールよ。ひろし多分食べれないわよ」

オイラは好き嫌いは少ない方なのだけども、唯一無理なのが魚の内臓だ。あん肝とか。白子とか。それ系全般無理。魚卵はいくらと明太子だけ大丈夫。からすみはダメだった。

 

「へぇ、こんな感じかぁ……美味いの?」
「美味しいわよ。お酒にあうわよ」
「マジか……。ちょっとだけ頂戴」
「お。チャレンジしてみる?」
「うん。……よっと。ああ、なるほど。こういう味か」
「どう?」
「ンー。まあ。面白い味だね」
「微妙な顔してるねぇ! 無理しなくても大丈夫よ」
「うむ……。すまぬ」

その後、刺し身とお酒をたっぷり味わったあと、いよいよメインのうなぎ。今回はひつまぶしで頂く事にした。

 

「おお! 身がホクホクしとる。これは……。いただきます……。ああ、美味い。これは美味いわ。うなぎ美味いなぁ……」
「ね! すごい美味しいね! わあ、薬味も一杯。とろろもついてる! やった!」
「とろろははるちゃん全部使っちゃっていいぜ! わさびはオイラが多めに貰っちゃうね」
「わかった! ありがとうございます、ありがとうございます……」
「いえいえ、こちらこそ。ありがとうございます、ありがとうございます……」

食事を終えて、お酒を飲みつつしばし歓談。結婚丸四年目を迎え、三年目の反省と今後の目標について語る。内容はもっぱら仕事についてだ。我々夫婦は現在共に仕事で壁にぶち当たっている。この年末あたりに生活に変革が起きそうな気配が濃厚になっており、その対策やら展望。つまりは作戦会議だ。

「なるほどね。お互い大変だなぁ……」
「そうねぇ。まあ、でも何とかやっていこう」
「うん。何とかなるさ。二馬力だし我々」

肴をつまみ、酒を飲み。

窓ガラスの向こう。参道ではコスプレイヤーらしき女子がポーズを決めていて、それを撮影するカメラ小僧がファイダーを覗いていた。窓の外に向け、咄嗟に笑顔で鼻の穴を広げ、ピースする。気づかずに何度か切られるシャッター。異変に気づいたはるちゃんも身を乗り出してフレームインを図りつつ変顔を作った。ようやく我々が写ってるのに気づいたカメラの子が、すいません、と口の形で謝ってからどっかに行った。全く。とんだ肖像権の侵害だぜ。笑いながら酒を飲むと、はるちゃんと目があった。

思わず爆笑する。

思えば、こういう妙なイタズラだったり奇行に、彼女はもう四年も付き合ってくれている。最初の頃は「何やってんの」と怒られる事も多かったけども、最近は諦めたのか併せてくれる事が多い。思うに、価値観をこちらに合わせてチューニングしてくれてるのだと思う。

「ひろし、これ書くんでしょ? ボートの連載に」
「うーん。そうだねぇ。去年の結婚記念日のネタも書いたし」
「じゃあ、ちょっとボートやっとく?」
「……一戦だけやっとこうか?」

二人してスマホに向かいながらボートレース情報を探る。千円一本勝負。

「当てたら、帰りにお義父さんにお土産買って贈りましょう?」
「あー、悪くないね。正月もコロナで帰れないだろうし。いいかもしれない」
「よーし、当てるぞう……! わたし本気で予想してやるもんね……!」
「あ、G3やってるぜ。マスターズリーグだって。オイラ買ったことないなーマスターズ。やってみる?」
「いいよ。どれどれ……。あ、予想しやすいかも」

【10/23 ボートレース浜名湖 マスターズリーグ第7戦ニッカン・コム杯】

「これ1-2からだろ。どうみても」
「カタいわね確かに……」
「じゃあ、オイラもう決めたわ」
「わ、早い。じゃあ……。わかった。わたしも」
「せーの!」

【夫の予想】
1-2-3 1点 500円
1-2-5 1点 500円

【妻の予想】
1=2=5 1点 1000円

「……まあそうなるわなァ」
「1-2-5だろうなぁと思うんだけども、5頭もちょっと見えるからなぁ……。鉄板狙いで事故ったら嫌だから3連複にしたの」
「わかる。しかし3連複だと、それオッズ……。うわ、3倍かぁ……。でもまあそれはガチガチよなぁ。てか3連単でも1-2-5は7倍切るぜこれ」
「ンー。インが鉄板だと3連複一気に下がるわねぇ。4号艇の大熊選手のスタートがあんまり早くないのもオッズが固まる原因になってるかもね」
「しかしまあ、4号艇の安藤選手が4カドだったら、おそらく3連複のオッズ2倍切るだろうし、これでよかったさ……。とりあえずサクッと取っちゃおぜ」
「そうね。じゃあ、レース観ましょう」

追加のお酒と肴を注文して、各々のスマホに注視する。音量を絞ったファンファーレとともに全艇勢い良くピットを離れ、先頭から進入隊形が固まる。進入は展示通り枠なり……と見せかけて、なんとここで5号艇安藤選手が4カドに滑り込む。

「ああ、5くるわこれ。はるちゃん3連複で大正解だよ」
「うん。ナイス安藤選手。3号艇はもう無いわねこれ。へへ。ひろし1-2-3はハズレェ」
「さあ、10秒前!」
「おお、安藤選手早いぞ。トップスタート」

4カドを取った安藤選手がいの一番に視えないスタートラインを通過する。この時点で5の三連対はほぼ確定といっていい。3号艇の舳先を押えた上で、2号艇の内側を差す事ができれば5-1-2。できなければ1-2-5。後者だとオイラも当たりだが、はるちゃんの場合は連複で買ってるのでどっちでもいい。神展開である。ただしオッズは低いけど。

セオリー通り3号艇の頭を押えにいく安藤選手。が、さすがはマスターズ。3号艇中村選手がそれを嫌い、ターンマークのやや手前から内側へと舵をきって自ら2号艇の引波にハマりにいく。この時点でマクリ差し不可。差しに構える安藤選手。

「うわ、マクリ差しできねぇ。マジか。じゃあこれ1-2-5だ」
「舳先を押えられるよりも早めに2号艇に寄せてインの有利を守った感じかなぁ。こういうテクニックもあるのねぇ……!」

第一ターンマークを回った時点での着順は1-2-5-4-3-6。とはいえ6艇ともかなり詰まってるのでまだ安心は出来ない。バックストレッチでの挺身差はほぼ変わらず。モーターの差はそんなに無い。そして第二ターンマーク。僅かに膨らんだ安藤選手のすきを付く形で、4号艇大熊選手が先に回る。

「あ、着順変わった」

思わず顔を見合わせる我々。その後、先行する選手のコース取りにハメられる形になった安藤選手は尽くターンの半径を大きくとり、徐々に着順を落としていった。

 

終わってみれば、1-2-4。安藤選手は5着だった。

「うわー……。なんか、普段見てるレースとぜんぜん違うねぇ」
「マスターズ恐るべしだな。ターンマークを先に回ったほうが勝ちとかじゃないんだね。道中の駆け引きみたいなのがしっかりあったわ……」
「うん。流石熟練の技術……。恐れ入りました……」

1-2-4のオッズは2番人気で900円。結果だけみれば珍しくもない1-2-4だけども、展開はちょっと珍しかったのでとても印象に残った。外したとはいえ、なんだか爽快だ。

 

その後、我々は帝釈天の付近を日が落ちるギリギリの時間まで散策。野良猫と遊んだり、寅さんミュージアムまで散歩したり。買い食いしたり。ぼんやりしたり。

「はるちゃん、また一年よろしくね」
「こちらこそ。よろしくね」

来年の結婚記念日も、こういうふうに過ごしたいなと思った次第。

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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