めおと舟 その69『初心者相手に調子に乗ったらすごい恥をかく』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
妻の言葉から唐突に始まった夫婦共通の趣味・ボートレース。当初の目的である引っ越しを終え、次なる目標は『楽しみながら勝つ事』。夫婦合算で年間収支プラス30万円を目指し始めた。タイムリミットは年末。果たして結果は……?

「チワッス……」
「いらっしゃい」

ある日の夕刻だ。薄暗いバーに入ると、カウンターの向こうのマスターがアベノマスクを付けたまま笑顔で迎えてくれた。

「あれ、今日一人? はるちゃんは」
「何か今日友達とZOOM飲み会やるから出てってって。時間つぶしに来ました」
「ZOOM飲み会。へぇ。俺やったことないよォ……。ハイカラだなぁ……」
「ハイカラて。とりあえずビールお願いします」

冷えたビールを瓶のまま飲む。コップを使わないのは若い頃に半分腐ったようなジャイブバーで働いてた時からの習慣だ。こっちの方が美味いのである。

「どう? 最近調子は」

マスターの言葉に首を振って答える。

「まーどうにもこうにも……」
「調子悪いんだ」
「悪かァないけど、良くもないかなァ……」

はるちゃんのZOOM飲み会は二時間ほどを予定しているとの事。その間、オイラは家の外で時間を潰さねばならない。普段だったらパッスロでもいっかァコレみたいに余裕のヨの字で潰せる二時間だけども、時間が微妙過ぎてどうにも食指が動かない。結果、なんだかんだ毎日のルーチンをこなすかの如く、いつも通りのバーへいつも通りの時間に来たわけで。

とはいえ、普段ははるちゃんと一緒に来てる所に、今日は一人で来てるんで、やっぱちょっと会話の内容は変わってくる。しかも店内に他の客の姿はない。必定、話のネタは普段意図的に避けてる政治やらの話や、あとはマスターもパチスロを打つんでそっち系に寄る。

「ひろしくん、最近パチスロ打ってる?」
「いやー、全然。記事用に打つのはちょいちょいやってますけど、プライベートでは月に2日とか3日しか行かなくなっちゃった」
「やっぱそうなるよねェ……」
「定期的にあるんですよねコレ。何か興味がスッと覚めてる時期というか。どうせまた打つようになるんでしょうけど、今はちょっとモチベーション落ちてるかなぁと」
「今年のトータルって勝ってるの?」
「どうだろう。9月から収支付けてないけど、その時点では勝ってましたね。頻度も落ちてるし、逃げ切ってると思うけども……、ただパチンコも含めたら負けてると思います」
「ボートは?」

マスターはボートはやらない。競馬はたまにやるらしいけども、舟には一切興味がないとの事。ここでボートは? とオイラに聞いたのは、オイラが店に居ながらにしてスマホでちょいちょいボートを買ってるからだ。

「ちょい負けくらいかな」

ギャンブルをやる際の鉄則がひとつある。それが「他所の人に報告する収支は常にトントン」というものだ。勝ってると言っても碌なことがないし、負けてると報告しても心配されるだけなのだから。これはボートだけじゃなくて、他の公営競技もそうだし、パチンコやパチスロだって同じである。勝ってもトントン。負けてもトントン。特に家族には絶対コレで通した方がいい。

「トントンすね」

実際は今年トータルで言うと4万ほど負けている。まあでも4万程度は想定の範囲内。誤差みたいなもんである。

「へぇ、でもトントンってスゴイね」
「ザッス」
「ボートのことだいぶ分かってきたんじゃない? 俺ひろし君が書いてるボートの連載たまに読んでるけど、読んでるだけでもボート上手になってきてるの分かるもん」
「まあ、なんだかんだ一年以上ボートやってますからねぇ……。だいぶ分かってきた部分もあります。去年より回収率上がってますし」

ちょっと気を良くしたオイラは、おもむろにスマホを取り出してボートレース情報サイトにアクセスした。今やってるレースだと……。これだ。

 

【11/10 ボートレース桐生 第6回寿司の美喜仁杯8R】

「これとか結構わかりやすいんじゃないですか?」
「これ、どれが来るの?」
「まず、坂本選手は無いんで実質5艇のレースなんですよね」
「無いっていうのは、来ないってこと」
「そうそう。127期。まだデビューしたばっかりの選手なんで、1着はない。絡んでも連対ですけど、すぐ内側に強い選手がいるからそれも厳しい。故にもう6号艇は居ないものとして考えて大丈夫だと思います」
「ふむ……。じゃ、一着はどれになると思う?」

アベノマスクをちょいとズラして横ッ口でタバコを吸いながら言ったマスターの質問に首を振ると、オイラはニヤリと口を歪めて答えた。

「まあ待ってください。その前にもうひとり切っても良い選手がいて、それが3号艇の沓名選手なんですよ」
「ほう……。それはまた何故」
「まず、3コースからの侵入はそもそも連対に絡みづらいのもあるんですが、沓名選手はデータ上、スタート巧者とは言いづらい。3コースの選手が先にターンマークを回るときはマクリかマクリ差しになるんですが、どっちも内側の艇の頭をおさえる必要があるんで、スタートが上手くないと成功しないんですよ。むしろカドの選手も5号艇の選手も沓名選手の頭をおさえる形でのマクリ差しを狙うと思いますし、そうなると3号艇は一気に遅れて5着・6着くらいまで落ちると思います」

ゆえに、と言って一呼吸置いてから、オイラは口を開いた。

「──実質、4艇のレースになります」
「4艇のレース……。そうなんだ……」
「はい」

なるほどねぇと言ってから、マスターがアベノマスクをずらした横ッ口で吸っていたタバコをもみ消す。

「じゃあ、結局1着はどれになるの?」
「フフ……。普通に考えると1号艇の吉田選手なんですけど、5号艇の権藤選手がマクれるかどうかの二択になるんで、ここは買い目を分けましょう。両面待ちです」

オイラはもう一度番組表を眺めてから言った。

「1号艇吉田選手が来た場合はすなわち権藤選手のマクリ差しが失敗したという事なので、そのまま2号艇内野選手が2着。3着は4号艇三浦選手と5号艇権藤選手をおさえておけば鉄板でしょう」
「うんうん。なるほどね……」
「そして5号艇のマクリ差しが成功した場合は4号艇が遅れるので、4-1=2が見えます。すなわち……」

【夫の予想】
1-2-45 2点 300円
5-1=2 2点 200円

「これですね」
「自信のほどは」
「そうですね。控え目に言って、120点ってトコかな……」
「……そんな鉄板なんだこれ!」
「まあ実際ね……。ちょっとボート齧ってりゃ、だいたいみんなコレになるんじゃないですかね……フフ……」
「すごいなぁひろしくん。すっかりプロっぽくなったねぇ」
「いえいえ。まだまだオイラなんか未熟で……あーあ、飲み代浮いちゃったなコレ……」
「成長のあとが見えるなぁ……」
「おっと、まあレース観るまでもないですけども、そろそろ始まりますよ。折角なんで、共に的中シーンの目撃者となりましょうか……」
「えー、じゃあ観てみようよ。うわ、何か俺買ってないのにドキドキするなぁ!」

進入は123/456。事前の予想では3号艇沓名選手が出遅れ、4号艇三浦選手と5号艇権藤選手がその頭をおさえるハズだったが、意外にも3号艇沓名選手が好スタートを切った。おや、と思ってる所で、2号艇内野選手が1号艇吉田選手の船体に乗り上げんばかりのパワープレイで強引に差す。

「あ……」

2号艇内野選手先行。差された吉田選手は大きく減速し、そこにスター選手である5号艇が突っ込んでくる形になった。当然衝突を避ける為に5号艇権藤選手はハンドルを離して大減速。これにて鉄板ゴリゴリの楽勝レースの予想が、両面とも消えた。

「ちょっと、ひろしくん」
「はい……」
「全然違うじゃん。レース」
「そうですね……」

 

「いやーこれ……314倍ついてますよ……。無理こんなん予想するの」
「(笑)」
「連複でも結構つくし……。え、なにこれ2連複で41倍って。いやー予想できないですよコレ。ノーカンノーカン。無理これ」
「さっきまでのウザイくらいの自信どこいったの……」
「もういいよボートとか……。あー、全然時間経ってねぇし……。マスター、もう一本頂戴。ビール」
「あいよ……」

その後、結局なんだかんだ常連さん達が現れ、2時間の予定だった時間つぶしは4時間ほどに及んだ。恐ろしいのが、オイラが帰宅する直前まではるちゃんがZOOM飲み会をやってた事だ。女子トークは一旦火がつくと、やけぼっくい並に、長く激しく燃えるらしい。

「ただいまァ……ッと」
「おかえり! ごめんね時間潰させちゃって」
「良いってコトよォ。あ、今日ねぇ、○○さん来たよ」
「へぇ! 珍しいねぇ……」
「んでさー、んでさーマスターまぁたアベノマスクつけててさぁ……」

冷蔵庫から缶ビールを取り出してプルタブを引く。プシュっという、良い音がした。

というわけで、一ヶ月ぶりの累計結果!

【今期の収支(10/14~11/11)】

購入金額 7,300円
払戻金額 4,120円
収支 -3,180円
購入舟券数 12R
的中舟券数 1R
今期的中率 8%
今期回収率 56%

【今までの累計戦績(2020年7月~)」】

購入金額 85,700円
払戻金額 81,840円
収支 -3,860円
舟券購入数 83R
的中舟券数 24R
今までの的中率 32% → 28%(↓)
今までの回収率 99% → 95%(↓)

目標金額まで……303,860円(※夫のみ)

そろそろ年末になんで真面目に目標達成に向けた予想をした方が良いんで、11月中でも嫁さんと二人で大きめの勝負に出てみましょうかねぇ!

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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