めおと舟 その77『元日に見る夢』

連載
めおと舟

浅草に住むオイラとはるちゃんには、いくつか決まりごとがある。その中で毎年守られていたのが「正月はストリップとパチンコにゆく」というものなのだけども、今年はそれらをナイナイした。

オイラはまだしもはるちゃんはコロナからこっち「ひとの集まる所には行かない」という個人的感染防止策を徹底している大変に偉い子なので、これはもう仕方のない事だ。3年続けた儀式的な決まりごとだったけども、ウイルスが相手では曲げるしかない。

というわけで、今年は久々に家で寝正月……と行きたい所だが、そうは問屋がおろさず。なんでかオイラははるちゃんを置いて友達の家に行き、クエンティン・タランティーノの「パルプ・フィクション」を見ながらボートレースをするという、よく分からん状況になったのであった。

ちょっと話を遡る。

2020年12月の或日、例によって行きつけのバーで酒を飲んでたら友達のコダがこんな事を言い始めた。

「ひろしさん、ぼく入院しますよ」
「……なんで?」
「痔です」

痔はオイラももっている。てかライター業やってると大体みんな痔になる(豆知識)。コダは別にライターでもなんでもないけども、日頃の不摂生が祟ってイボ痔になったそうだ。痔は出来る場所といい名前といい何か笑っちゃうけども実際になってみると結構大変で、日常生活の難易度が一気に跳ね上がる。オイラの場合は痔レベル3くらいなので時折便所に籠もって出てこないのをはるちゃんが心配する程度なのだけども、酷くなると目も当てられんような状況になるらしい。

「コダ、いまレベルいくつなの?」
「レベル……? 痔のですか」
「うん。だいたいでいいから」
「それ、マックスはいくつですか?」
「マックスは10。ゼロが健康な肛門で、10だともう肛門が取れるレベルの痔とすると」
「肛門が取れるレベル……。じゃあ、ぼく8くらいですかねぇ」
「取れそうになってるじゃん。肛門」
「はい。結構ヤバいですよ」

聞けば、痔の痛みに耐えかねて病院の診察を受けた際、医者から「どういう使い方をしたらこうなるんだ!」と言われたらしい。本人は普通にうんこしてただけらしいが、それはあくまで本人の申告ゆえ、実際の所は分からない。もしかしたら特殊な排便方法を幼少期に学び、ずっと他者と答え合わせせぬまま現在に至るのかも。現に数千数万の肛門を観察してる専門医から「どういう使い方をしたらこうなるんだ!」という叱責を受けてる以上、何かあるに違いないのであるが、そこを詳しく聞いても仕方ないのでとりあえず納得する。

「あと、肛門がカビてました」
「……どういうこと?」
「そのまんまです。カビでたんですよ。自分では見てないですけど、医者が言うには」

なるほどねぇ、と紫煙を虚空に吐いて、オイラは頷いた。

「そりゃもう……入院だな」

グラスの氷がからんと音を立てた。

そうして年末、いよいよコダ復活の日。早速行きつけの店に現れたコダが2週間ほどの禁を破って再開したタバコを咥えつつ、グラスをあげて「お疲れ様です!」と高らかに宣言した。

「おい、どうだよ肛門」
「痛いですよ。いま縫われてます。回りをぐるっと」
「肛門の回りをぐるっと?」
「はい」
「もうそれ、一回取れてるじゃん」
「そうですね! いやーよかった。治った!」
「それ、酒とタバコ辞めといた方がいいんじゃないの……?」
「いや大丈夫っすよ! 医者から止められてないですし」
「言うまでもないと思って言わなかっただけじゃないのか……」

うまそうに酒を飲み、タバコを吸うコダ。話題は入院中に体験した剃毛に及んだ。

「ぼくを剃毛してくれた看護師さん、中学校の頃に好きだったフィリピンハーフの子にそっくりだったんですよ!」
「……ほう」
「毛ェそられてるとき、ケンちゃんのケンちゃんがケンジになりそうで困りました! ずっと北欧の森をイメージしながら気分を鎮めてましたね!」
「なるほど……」

やがて集まってくる常連たち。ふと、コダがこんな事を言った。

「あ、そういえば今年広島に帰れんけえ、オヤジがおせちを送ってくれるんですよ」
「コダ、広島だったね。実家」
「はい! 結構大量にあるみたいなんで、良かったらみんな食べに来て下さい──!」

……というわけで、2021年1月1日。清らかなる元日だ。前日遅くまでテレビを見てたせいでぼんやりする頭を振り振り、家から徒歩二分くらいのところにあるコダの家に向かう。はるちゃんも誘ったのだけども、フンクとした顔で「コロナ」と言うのみでついて来ず。やることもないので正月ッから一人で行動だ。

「ようコダ。あけましておめでとう」
「いらっしゃい! 今年もよろしくお願いします! ひろしさん!」

浅草にて。1Kで家賃8万のコダの家には、すでに先客がいた。Kさんというお兄ちゃんで、彼は大量の酒を買ってきてくれていた。早速缶ビールを一本空けて乾杯しつつ、タバコを咥える。

「あ。ここ禁煙?」
「いいっすよ別に」
「うん。じゃあ頂きます」

30分ほどして、また別の客が来た。Nさんという元ラジオ番組プロデューサーのオッサンで、氏はなぜかタランティーノの映画を何本かもってきていた。聞けば、コダの家にあるDVDプレーヤーはNさんのお古をあげたものらしい。

「そうそう。コダんち、俺があげたプレーヤーあるなと思って。ひろしくんもいるしタランティーノもってきた。これ流しながらおせち食べよう」
「いいですね! ……うわ『ジャッキー・ブラウン』もある。渋い」

こうして、正月早々ひとんちで酒を飲みつつ、『パルプ・フィクション』を見ながらしばし過ごしておったのだけども……。

「ひろしさん、それ何やってるんですか」

スマホをいじるオイラにコダが何かを言ってきた。ディスプレイから目を離して答える。

「これ、ボートレースやってんの。初夢賞。毎年やってっからさ」
「ボートレース……」

メンツを見回す。オイラ。コダ。Kさん。Nさん。みんなそういうの好きそうだし、誘ってみよう。

「あ、買うならオイラ代わりに買うんで。予想して下さい」

興味を惹かれたようで、Kさんが言う。

「どうやって見ればいいの?」
「ええと、初夢賞はボートレース三国の……。うーん、コダ、タブレット持ってる?」
「あ、会社のやつありますよ」
「それで番組表みようぜ」
「これ、会社のやつやけん監視されて──」
「いいよそんなの、辞めちまえそんな会社……。ほい、これロック解除して……。オーケー。ボート……レース……と。あった。はい、これですね」

番組表を前に、レースの予想の仕方をレクチャーするオイラ。どうやら他の3名はボートをやらないらしく、いちいち興味深く頷いてくれた。

「というわけで、今回の予想は1-3-5かな。あくまでもオイラのね!」
「なるほど……。これ、買うのって100円から?」
「そうです。あんまりやけどするのもあれなんで、今回は1レース500円までにしましょうか」

みんなでワイワイ予想をしつつ。おせちをつまみ。酒を飲み。肛門の話。フィリピーナの話。そしてクエンティン・タランティーノ──。

「あー! 惜しかった! 今の!」
「惜しくない惜しくない。コダ、ちっとも惜しくないよ今のは」
「俺のは惜しかったよね!」
「Kさんのは結構カスりましたね。惜しかった!」
「俺これ全然だけど……」
「Nさんは穴狙い過ぎましたね! どんまい! 次行きましょう!」

5レースほど遊びながら、結局ほとんど当たらず。それでも最後のレースでコダが中穴くらいをブチ抜き、ギリギリでプラマイゼロくらいの所まで戻した。

「おお。やったじゃんコダ」
「よっしゃ! よかった! やっと当たった!」

アルコールで真っ赤になった顔を緩ませてガッツポーズをとるコダ。

「ボートレース、面白いですね! ぼくハマるかもしれん!」

笑いながらビールを飲むコダを見ながら、オイラも思わず笑ってしまった。いい正月じゃないか。たまにはこういうのも、悪くない。悪くない。

まあ、コダはその日飲みすぎて肛門を痛め、翌日から寝込んだのだけども。お大事に、だぜ。

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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