めおと舟 その82『嫁がやりおった』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
夫婦揃っての趣味を持とうと始めたボートレース。2019年、2020年と連続でトータル収支マイナスを叩いた夫婦が次に目指すのは「2021年の収支をプラスにする事」。今年こそはと胸に誓いつつも、コロナ禍で巣ごもり状態の二人は他にやることもないまま、代わり映えの無い日常を送るのだった。

2021年2月10日。例によって仕事をしつつダラっと過ごしていた午後の話だ。珍しく朝から根を詰めて作業していたので少々目が痛くなり、小休止を挟むことにした。この所の休憩はもっぱらコーヒーを飲みながら猫を撫で、そうしてドラマを観るかボートをやるか。たまにこのタイミングで長風呂を挟む事もあるけども、その時の気分で好きなように過ごすようにしている。

「あら。ひろしも休憩?」
「うん。会議終わった?」
「終わった。ちょっと休憩するね」
「おう」

昼過ぎからオンライン会議をしていたはるちゃんも、ちょうど休憩に入る所らしい。ダイニングテーブルに腰掛けてコーヒーを飲んでいると、ファンヒーターの前で眠っていたピノコが日なたの匂いを振りまきながらやってきて、足元で小さく伸びを作る。抱き上げて膝に乗せ喉の下を撫でてやると、ゴロゴロと唸り声を上げた。

平和な午後だ。

テレワークが始まった頃は決まった時間に休憩をとって一緒に遊んでいたものだけども、今は各々勝手に過ごしている。今日はどうやらはるちゃんは最近お気に入りのYou Tubeチャンネルの動画をみるらしい。オイラはオイラでゲームでもやるかなとスマホに目を向けたけど、ふと気になってテレボートにアクセスした。ちょうど住之江のレースが締め切り間近だったので1,000円だけ入金して2連単を幾つか仕込む。

「ボートやってるの?」
「うん。はるちゃんもやる?」
「わたしは良いかなぁ……」

動画を見ながら、それでもスマホを操作しはじめる妻。

「どこの買ったの?」
「住之江。今レースやってるよ。1-25と2-5に300円ずつ入れてる」
「どれどれ……。お。1号艇来てるじゃん」
「これ2頭だとすげー美味しいんだけども、1だとガミギリギリだなぁ。せめて1-5だったらいいけど……」
「1-2ね……。でも取ったじゃん。おめでと」
「おお、ガミってねぇや。3.2倍だって。あっぶね」

900円使って960円のバック。60円勝ちだ。1頭は抑えで買ってるだけだったのでパチスロでいうリプレイみたいなもんである。

「うーん。最近全然大きいの当たらねぇなぁ……。抑えで買ってるやつばっかり来るよ……」
「当たるだけマシよ。わたしなんかそもそも当たってないもん……」

テレビで流れ続けるYouTube動画の再生を止めて、本格的にスマホの画面に注目するはるちゃん。どうやら何かを買ってるらしい。二人揃ってボートをやるのは久方ぶりだった。

「あら、買うのかい?」
「うん……」
「どこ?」
「芦屋の最終レースかなぁ……」
「どれどれ……」

【2/10 芦屋 KBCラジオ杯 最終日 12R】

「あー、たしかに堅そう。これは1-2-45かなァ。500円ずつとか?」
「1-2-5だったらまあまあオッズもつきそうだけど、でも4号艇の竹田選手、ルーキーシリーズ見てると結構いい感じなのよねぇ……」

妻は相変わらずルーキーシリーズをメインで追いかけておる。従って20代の選手についてはオイラよりずっと詳しい。

「このメンツで軸にするのはキツイんじゃねぇかなぁ……。3号艇浜崎選手が壁になるだろうし、そのまま内側がスイーっと抜けそうな気がするぞ」
「うーん……。いや、わたし竹田選手にする!」

言うが早いかさっとスマホを操作して投票を終える妻。オイラもそれを追って自分なりの予想をもとに投票する。

【夫の予想】
1-2-45 500円

【妻の予想】
4-12-12 200円

今回のレースは1-2がかなり堅いんで正直3番手争いがどうなるかが勝負だと思う。同様に考えてる人も多いらしく、3連単のオッズも1-2絡みはオッズが低い。1-2-5でも9.3倍だ。人気選手が内側に来るとそりゃあそうなるし、しかも一般とはいえこれは最終日の最終レース。優勝戦である。投票数もそれなりに多くなるんでオッズも高くなりがちなのにこれなので、よっぽど1-2がガチガチなのだろう。

「他の買わなくていいのかい、はるちゃん」
「うん。大丈夫。これで行く」
「1-2から何点か買っとかない?」
「ううん。いい」

チョコレートパンをもふもふと食べつつ、またYouTube動画を観はじめる妻。レースまではまだ時間があったので、オイラもスマホでゲームを始める。最近ハマってるのはアマチュアの製作者が作ったアイテム合成メインのハクスラゲーだ。基本的に眺めとくだけなので脳を休めつつぼーっと過ごすのにはうってつけである。とはいえ冒険前の準備フェーズにちまちまとした作業が沢山あるので、頭を使いたい時には使える。ゲームとして面白いのもあり、ここ最近の小休止の良き友となっている。

しばしのち、はるちゃんがYouTube動画の再生を止めた。どうやらレースが始まる時間らしい。

「そろそろかい?」
「うん。はじまるよー」
「よし、じゃあオイラの舟券が的中する瞬間を目撃しようかね」
「わたしが当てるもん」
「4頭は来ねえだろう。今回は流石に……」
「わかんないじゃん! 当たったら多分万舟よ」
「来ん! 万舟はそんな簡単に来んのじゃァ……!」

そういえば妻はまだ一度も万舟をぶち当てた事がない。かくいうオイラもビギナーズラックで一度ぶち当てた切りだけども。ちょいちょい狙ってはいるのだけども、そう簡単に当たらないからこそリターンがデカイわけで。

レースが始まる。6つの船影が一直線にスタートラインに向かう。きれいなスタート……と思ったけども、思わず息をのんだ。赤がめちゃ遅い。

「うわ、3号艇遅れてる! がら空きやんけ!」
「よしよしよし! いい感じ! これめちゃくちゃいい形!」

まだルーキーシリーズ出場権がある選手とはいえ竹田選手はA1だ。優勝戦でこの絶好のチャンスを逃すわけがない。勝負駆けとばかりに船艇を内に寄せ、サイドから2号艇にぶち当てるようにしてターンマークを目指す。1号艇興津選手もギリギリまでこらえたがハンドルを離し、きれいな形でマクリが決まった。4号艇が先頭である。

この時点での順番は4-2-3-5-6-1。4のトップを予想したのは金星だがそこから先が全く当たってない。問題なのは1号艇興津選手が遅れてる事だが、ここでまたひとつアクシデントが起きた。

引波に乗り上げて大きくホップする黄色い船体。これにて5号艇が大きく遅れて興津選手がひとつ順位を上げる。さらに……!

2周目直線で3号艇浜崎選手と6号艇盛岡選手が激しく競り合い接触。その間隙を縫うかのごとく内側に興津選手が滑り込む。互いに牽制しあう形の3号艇と6号艇は対応が遅れて内側を絞れず、興津選手にとっては絶好のポジションのまま2周目第1ターンマークを迎えた。

注文通り! 興津選手がガラ空きの内側を鋭く差し込み3位に浮上。バックストレッチで4-2-1の着順をほぼ決定的にしてしまった。最後方からたった60秒ほどの出来事だ。

「おいこれ……。はるちゃん取ってない?」
「えー、1がダメでしょ?」
「いや、3着に浮上してるぜ……?」
「うそん! 6着だったじゃん!」
「いや、マジでマジで。すげー勢いで追い上げていま4-2-1だよ」
「うわ、ホントだ……! お願い! そのまま! そのまま……!」

祈るような姿勢のまま見守るはるちゃん。願いが通じたのか、レースは4-2-1のままで終りを迎えた。ガッツポーズをとるはるちゃん。嬉しそうだ。たしかに1号艇と2号艇が絡んでいるとは言え4頭だと結構つきそうだし。これ50倍くらい行ったら200円であわせ万舟に到達するかもしれない。

「よかったねぇ、はるちゃん。結構ついたっしょ?」
「……さま」
「え?」

何かをつぶやくはるちゃん。聞き返すと、目を輝かせながらスマホをこちらに向けつつ、彼女はもう一度高らかに宣言した。

「万様きたよ! 万様! 241倍!」
「……うそん!!」
「ホントよ! しかも200円! ほら!!」

「ぐあ! マジだ! え! そんなつくのアレ!」
「つくのよ! だから買ったのよ!」
「マジで! 焼き肉やんけ!」
「いやだ! トム・フォードのアイシャドウ買うの!」
「なんでや! おごってくれよ! もしくは桃鉄買ってくれ! スイッチの!」
「いやよ! バーカバーカ!」

はるちゃん、ボートレース歴2年ほどで初の万舟をぶち当てた。しかも200円買ってたので、これにてオイラの最大払い戻し金額記録を更新された事になる。

「いやー、竹田選手信じて良かった! ひろしも買えば良かったのに。え? 1頭で買ってたの? プークスクス。当たってもガミるそれ。プークスクスクス。わたし5万くらいゲットしたし。フフ。イーエーーイ!!」
「はしゃぎすぎだろ。オイラ、パチスロでしょっちゅう勝ってるもんそのくらい」
「これ舟でーす。パチンコじゃないでーす」
「くッ……。なんか腹立つな……」
「いやー、ボート簡単ですたい。もう見えたもんねレース展開。予想通り!」
「途中諦めて観てなかったやんけ……!」
「あー、あれはね。わざとよ。油断を誘ったの」
「何の油断を誘ったんだよ……」
「へへ! でも嬉しいなぁ……!」

思えば、パチンコやらパチスロやらをやらないはるちゃんは「ギャンブルで勝つ」という記憶が希薄だ。ボートで少額勝つことはあっても、万単位のお金をドカンをゲットする事というのはそんなにない。それが5万に近いお金となると、たしかにテンションもぶち上がるだろう。

「よーし、仕事するかなー」
「うん! わたしも! 何かやる気出た! 仕事頑張る! へへ」
「おう! 頑張ろうぜ! そして夜なんか食べにいこうよ!」
「しょうがないなぁ……! ごちそうしてあげる! 何がいい?」
「そうだなぁ……」

2月10日は「ドラクエIII」が発売された日として日本国民の記憶に残っているけども、我が家ではもうひとつ。はるちゃんがギャンブルで初めて大勝ちした日として記録されたのだった。

 

【今回の収支(1/1~2/9)】

購入金額 54,500円
払戻金額 23,470円
収支 -31,030円
購入舟券数 48R
的中舟券数 12R
今期的中率 29% → 25%
今期回収率 46% → 43%

 

はるちゃん大勝利。これにて生涯成績もプラスが見えた感じ。一方でオイラはボロクソでした。なんと今週は的中なし。負け額のみが増え申した(本文中にある60円勝利のやつは10日の話なので翌週計上ッス)。クソックソッ!

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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