めおと舟 その86『ゆいまーる』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
夫婦揃っての趣味を持とうと始めたボートレース。2019年、2020年と連続でトータル収支マイナスを叩いた夫婦が次に目指すのは「2021年の収支をプラスにする事」。今年こそはと胸に誓いつつも、コロナ禍で巣ごもり状態の二人は他にやることもないまま、代わり映えの無い日常を送るのだった。

ゆいゆいゆい ゆいゆいゆい ゆいまーるー(ゆい!)
ゆいゆいゆい ゆいゆいゆい ゆいまーるー(ゆい!)

はるちゃんは沖縄が好きだ。もとからオイラはそんなにかの地に興味が無かったのだけども、嫁さんが好きだというのならば一回くらい旅行しても良かろう──ということで、2年ほど前に一度、石垣と波照間に旅行したことがある。一週間ほどのバカンスだった。

生まれて始めて訪れる南の島。透き通った海とあふるる緑にテンションもブチ上がり「ここはちょいちょい来ようね!」とか言ってたものだけども、独立やらコロナやらと忙しくしてるうちについぞ時間が経ち、沖縄熱も覚めてしまっていた。

あー、沖縄なぁ。行ったねぇそういえば……。

楽しかった記憶も薄れてきた頃だ。今年に入って妻がとあるYouTuberさんの動画にハマり始めた。「ハイサイ探偵団」という沖縄在住の若者たちのグループだ。妻もオイラも今まで特定のYouTuberさんの動画を集中して見ることはなかったので「なんか珍しいな」とか思ってたのだけども、なんとなく一緒に観るうちにオイラもまた、ものすげー勢いでハマってしまった。

彼らの動画はジャンル的には釣りや料理。昆虫採集やDIYなど。たまに地域貢献のためのボランティア活動なんかもやっておられるのだけども、舞台となるのは基本的にすべて沖縄だ。面白いのでずっと見てるけど、視聴時間が長くなると否が応でも「沖縄!」というのが意識にグイグイ来て、結果我々は「また沖縄に行きたいねぇ」みたいな話をするようになった次第。

とはいえ時期が時期なので旅行には行けぬ。

はて、どうしたもんかのうと考えた末、せめて飯だけでも沖縄のを食おうぜとたどり着いたのが、浅草の片隅にある一軒の沖縄料理屋だった。

最初は何となく「沖縄の飯を食う」という目的で行ったに過ぎぬのだけども、そこのご飯が異様に美味かったのですっかり行きつけとなり、最近はわりと頻繁に通っておる。

さて。ちょっと話は変わる。

浅草という街のイメージはみなさんどんな感じだろうか。観光地。年寄りが多い。三社祭。芸能の街。サンバ。入れ墨。ホッピー通り。浅草寺。雷門。デンキブラン。全部正解だ。その上で、住んでみると一個猛烈に分かる事がある。

ギャンブルの街なのである。

これは歴史を紐解くと分かるけど、戦後すぐに引き上げ兵が屯していた上野駅周辺にはバラックが立ち並び、夜な夜な盆が開かれていた。なんせ敗戦後、銭も持たずに放り出された人々である。田舎に帰るのには路銀が必要だけどそんなもんは無い。従って僅かに残された身の回りのものを闇市で売りさばいて種銭をこさえ、それを増やして帰るしか無かったのである。上野周辺はすぐに引き上げ兵たちが廃材で建てたバラックで一杯になり、やがて溢れたかられは浅草公園に移り住むようになる。彼らは上野を「ノガミ」、浅草を「エンコ」と呼び、当然そちらでも賭場が開帳された。

身から出ました サビゆえに
エンコでポリコに パクられて
ワッパかけられ 意見され
着いた所が 裁判所──

そんな歴史があるからか、浅草近辺はJR駅はないくせにJRAはある。お馬さんである。また、今では3軒しか残っていないとはいえ、一時はパチ屋がひしめき合い、つい最近まではスマートボール場もあった。単純にやくざ屋さんが多いというのもあるけど、とにかく「賭博」やそれに準ずる遊技というのが、ひとつの文化としてがっつり根付いているのは間違いない。

いらっしゃい!

通されたカウンターに座り、オリオンビールとシークヮーサーサワーを頼む。ツマミはもずくとグルクンの唐揚げだ。土曜日のまだ早い時間。カウンターには他に夫婦らしいお客さんと、オイラよりすこし年上の兄さんがいた。店主を含め、和気あいあいと近況について話している。オイラとはるちゃんはまだこの店では新参なので、軽く会釈しておとなしく酒を飲んでいた。

ちらりと店の奥のテレビに目を向けると、競馬中継が放送されていた。

昼飲みが出来る浅草の飲食店は、ほぼ確実に「グリーンチャンネル(競馬中継専門の放送局)」に加入している。理由は簡単だ。お客の大半が馬券を買ってレースを見ながらお酒を飲んでるからである。まあ場外馬券売場がある地域は大抵そうなのだろうけど、浅草の場合はこの店のように、売場からおもいっきり離れても普通に競馬放送が流れてる。やっぱそういう文化なんだろうと思う。

オリオンビールを飲みつつ、もずくを啜りつつ。グルクンの身をほぐし、塩とコーレーグースをかけて食う。旨し! 旨し旨し! だ。妻と「うまいねぇ」「おいしいねぇ」とひそひそ喋りながら愉しんでいると、店主が呻いた。

「来い……! 来た……! ヨシ! 獲った!」

人差し指と親指を伸ばした拳銃型にして画面を指差しながら、満面の笑みを浮かべる。カウンターの夫婦が「当たった!?」と尋ねると、店主は「うん! 当てたよ!」と答えた。

「よかったねぇ大将! ね! わたし言ったじゃん! そろそろ当たるんじゃないって」
「言ってたね。いやぁ、良かった。久々に当たったさァ」

どうやらここ最近当たりがなかったらしい。へぇ……。良かったなぁ店主。グルクンをつまみつつ、はるかに向かって言う。

「何か、当たったらしいよ」
「みたいね。良かったねぇ」
「うん。良かったなぁ……」

平和な時間である。タバコに火をつけて横口で咥えながら煙を愉しんでいると、やがて画面に確定オッズが表示された。カウンターの夫婦の、今度は旦那さんの方が口を開いた。

「2連単?」
「3連単」
「……3連単?」
「そうそう」

タバコを咥えたまま、なんとなく確認する。3連単。400倍だ。オウフッ。思わず声が出る。幾ら買ったんだ? と疑問に思ったが、その答えは店主が誰に聞かれるでもなく自ら告白してくれた。

「500円買ってたさァ」
「……20万ッ」

思わず声に出す。店主はこれ以上ないくらいの笑顔で「そうそう」と答えてくれた。なんてこった。一撃20万。パチスロだったら等価交換で万枚である。すげえ! こっちのテンションまで上がってしまった。

「でーじ当たってるじゃないですか! おめでとうございます!」

でーじ。つまりは「すごく」だ。流されやすいオイラの口からはとっさに沖縄弁が飛び出していた。

「うん。これは……ねぇ。へへ……。じゃあ、みんな一杯ずつ、飲んでもらおうかな」
「!!?」

思わず妻と目を見合わせる。おい、やったぞ。ただ酒だ──! でーじ嬉しいさァ!

目の前に、前回頼んだお酒と同じものがオートで運ばれくる。カウンターの夫婦。お兄さん。我々。それぞれ何となくそれに口をつけず、全員分出揃ってから、乾杯が始まった。刹那の間に、心の距離がグッと縮まる。

「カンパーイ! おめでとうございます!」

何となく、お客同士でそれぞれ自己紹介が始まる。どうやらご夫婦のお客さんには大きなお子さんがおられるようだ。オイラよりちょっと上くらいの兄さんは草野球を終えたあとらしい。マラソンも趣味とのことで、だいぶスポーツマンである。

「競馬は、やんないの?」

店主が不意に聞いていた。オイラは首を振る。

「ウマは全然やんないっす。でもボートはやりますよ」
「あ、ボートはやるんだ。俺、ボートはあんまりやんないなぁ……。あ、峰竜太って選手いるんでしょ?」
「はい、います!」
「タレントと同じ名前だよね」
「そうです。オイラも最初それで気になって見てたんですけど、めちゃくちゃ凄い選手で──!」

あ。ゆんたくだ。と思った。これは沖縄弁で「おしゃべり」という意味だけど、転じてお酒を飲みながら盛り上がる飲み会という意味にもなっている。実際、オイラとはるちゃんは沖縄旅行中、波照間の公園で広島からの旅行客のおじさんと仲良くなり、二時間くらい喋りながら缶ビールを飲んだ。ゆんたくってあるんですね。あるんだよねぇ。そんな話をした。

「ボートはどう? 当たる?」
「結構当たりますよ。流石に店主みたいに20万当てたりとかは経験ないですけど。でも、ちょっと前に妻が5万くらい当てたのはありましたね」
「へぇ! 凄いじゃん」

どうやらカウンターに座る夫婦のお客さんの方も、また草野球のお兄さんもボートはそんなにやらないらしい。場所柄、やっぱりみんな競馬のようだ。だけどギャンブルの文化が根付く浅草に於いては、ボートが好きだからということで眉を潜められる事なんかはない。みんな興味津々に、競馬とボートの違いを聞いてきた。

ふと気づくと、実際にみせたると言わんばかりに妻がテレボートで舟券を購入している。オイラも負けじと買ってみた。が、酒を飲みながらのレースはやっぱり予想がブレるのか、かすりもしなかった。

「当たった?」
「いやー、はずれました」
「はは。まー、そんなもんだよね」

旨い酒。旨い料理。結局その日はゴーヤチャンプルやら何やらを追加で注文して腹一杯食べた。浅草。ギャンブルの街。競馬にせよボートにせよ、酒を飲みながらそれらをがやがや愉しむのに、これほど適した街はないんじゃないかと、住み始めて結構経つけど、最近とみによく思う。

【今回の収支(1/1~3/9)】
購入金額 103,700円
払戻金額 63,810円
収支 -39,890円
購入舟券数 98R
的中舟券数 25R
今期的中率 24% → 26%
今期回収率 61% → 62%

今週は的中率・回収率ともに微アップ。主に2連単での勝負でありました。んで購入金額がついに10万をオーバーした。去年は一年間でだいたい20万くらいの購入金額だったのを考えると、およそ倍くらいのペースで買ってる事になる。でも、これでもだいぶ少ないほうだと思う。買ってる人はもう200万くらい行ってると思われるし。ちなみにはるちゃんは現在投資6万くらい。どっかのタイミングで合算してみやしょう。

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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