めおと舟 その90『まくりきれ!ボートさん』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
夫婦揃っての趣味を持とうと始めたボートレース。2019年、2020年と連続でトータル収支マイナスを叩いた夫婦が次に目指すのは「2021年の収支をプラスにする事」。今年こそはと胸に誓いつつも、コロナ禍で巣ごもり状態の二人は他にやることもないまま、代わり映えの無い日常を送るのだった。

 

とある昼下がり。

ベッドに寝っ転がりながらスマホを触っていると、となりの部屋で仕事をしていた妻・はるちゃんが声をかけてきた。どうやらそろそろランチの時間らしい。

「あ、またゲームしてる。仕事しなさい!」
「うん……ちょっとまって。もうちょいで育成終わるから……」
「最近ずっとやってるねぇそれ……」
「面白いぜ……?」

オイラは今「ウマ娘」にハマっていた。競馬そのものは全然知らんが小学生の頃「ダービースタリオン」が流行ってたのでその延長のつもりで手を出してずぶずぶと沈んだ感じだ。ゲームの中で気に入ったウマ娘が出来ると、それについて実際の馬はどうだったんだろうとwikiやらで調べ、当時のレースの動画を観たり関連エピソードを調べてるうちに、なるほど、競馬もなかなかおもしろいのかもしれんと考えを新たにした次第。

「はるちゃんもやろうぜこれ」
「いやー、わたしはそういう萌え萌えした感じが好きくないから……」
「萌え萌えて……古いなオイ……」

聞けば、この「ウマ娘」のお陰でいまJRAに新しいお客さんの流入が見られているらしい。そう考えるとすげー事だと思う。もとより競馬は市場規模がデカいものではあるのだけども、それでも顧客の新規開拓にはなかなか苦労しているそうだ。擬人化一発でその達成に寄与するというのは、スマホアプリの持つ可能性、げに恐るべしである。と、そこまで思ったところでふとオイラの脳裏にアイデアが浮かんだ。これ、ボートレースにも応用できないだろうか。はるちゃんの言うところの萌え萌えな感じが好きな我々男子は既にウマ娘で忙しいので、そうじゃなくて、別チームを狙って。

「はるちゃん、じゃあさ、これが例えばムキムキのタンクトップ着たキャラが体をぶつけ合いながら走ったりするのだったらどう?」
「それも嫌だけど……。まあ萌えキュンな感じよりは抵抗ないかなぁ……」
「じゃあさ、これボートレースで何か考えない?」
「ボートレース……擬人化するの?」
「そう。ボートを」

それはいかにも冴えたアイデアに思えた。オイラ実はライターになりたての頃、スマホ向けのアドベンチャーゲームのシナリオを書いて買い取ってもらったりしてたし、今でもたまーにそれ系の企画書を書いたりする仕事をする事もある。何かイカしたアイデアがあれば、もしかしたら買い取ってくれるところもあるかもしれない。

「ボートを……? モーターついてるの?」
「いや……。泳ぐ」
「泳ぐ……」
「海パンで泳ぐ……」
「興味深いわね……」
「だろう? じゃあちょっとアートワーク用に世界観から作ってみるわ」

******

シンギュラリティ。

いわゆる、技術的特異点の事だけど、これはサイドブレーキがぶっ壊れた車を押して坂道を登るのに似てる。えっちらおっちら力を込めて汗水たらして頑張って、ようやっと山頂にたどり着き、一寸だけ休憩しようと手を離したらもう終わりさ。なんせ向こうはもうおなじたけの下り坂なんだから、呑気に飲んでるその缶コーヒーがすっかり冷める頃には、車は猛スピードで──それこそ来た時の何万分の一かの時間で山を下り終えている。

20XX年に起きた一番デカいニュース。それはA国による量子コンピューターの実用化と、そこで実行された自己回帰型深層学習システムによる「爆発的技術進化」の発生だろう。今では人類が一番初めに体験した不可逆かつ最も重大なシンギュラリティであると歴史的に認定されているその瞬間は、まさしくそのシステムが実働サイクルに入った瞬間だった。なんせ人工知能自身による自己改良が1秒あたり24エクサ回も行われたんだもの。産業革命以降に人類が積み重ねてきたあらゆる発明や技術革新は、たったの1マイクロ秒で全て新しいものに塗り替えられてしまったわけだ。

ディストピアだって? とんでもない。ユートピアとまでは行かずとも、実際はその真逆さ。

我々にとって真にラッキーだったのは、そのシステム──彼が自己定義した名前は人類には発音不能なものだったので、みんな勝手に「超越知能」と呼んでいる──が古いハリウッド映画に出てくる悪い人工知能のように、人類を憎んで宣戦布告をしてきたり、あるいは捕獲して生体乾電池にしようとする事もなく、生みの親として愛していてくれた事だろう。

彼は人々にとって有益であると思しき技術を、その常識を破壊しない程度に次々と与えてくれた。おかげで、老いや貧困や病、政治の不具合は地球上から消え去り、みんなこうして、昼間からビールを飲みながらギャンブルに興じる事ができるというわけだ。当然仕事は超越知能が生み出したアンドロイドが代用してくれるし、それで貨幣制度も社会システムも維持できている。なので全員無職が当たり前。働きたい人だけ趣味で働いて、ひとよりちょっとだけ贅沢ができる。我々が過ごす時代はそういう時代で、おそらく有史以来で人類が経験する、もっとも呑気で幸せな時代だ。

シンギュラリティ以前と以降で変化したことはいくつもあるけど、人々の嗜好は特に様変わりしている。働かなくて良いしお金の心配も要らないので、まずみんな旅行にせいを出すようになった。爆発的技術進化が起きてから5年以内には世界中から紛争が消えたし犯罪率も激減したので、それぞれの国もずっと鷹揚になりビザの発給の敷居も下がった。それにボディガードを兼ねたアンドロイドが旅行者にくっついて回るようになったし、何より航空機革命で隣の駅に行くくらいの気軽さで地球の裏側まで行けるようになったので、誰もが長い余暇で遠い国の光を観るようになったのだ。そして、さっさと飽きてしまった。

映画やゲーム。アンドロイドチーム同士が行うスポーツ。色々な物が流行っては消え、また流行った。さすがみんな暇なだけあって消費のスピードがめちゃくちゃ早かったけど、超越知能はそれを上回る速度で新しいブームを提供してくれていた。だので文化的にも、我々はすこぶる恵まれていたと言っていい。

とんでもない速度で移り変わる流行り廃り。

だけどそんな中で常に人々から好かれているものがある。お酒とギャンブルだ。これは爆発的技術進化の前からそうだったのかもしれないけど、時代が変わってからは特に顕著になった。この世界では、酒もギャンブルも嗜まない成人はごく稀だし、正真正銘の変わり者といって良かった。酒に関しては二日酔いや病気、体型の問題なんかとっくにクリアされていたし、ギャンブルに関してもそれに付随する各種問題はゼロに等しかった。人々はただ偶発が生み出すドラマと興奮に酔いながら、勝負の結果に一喜一憂する。

パチンコやパチスロ、トランプや麻雀などの旧式の遊びはもちろん、爆発的技術進化の後に生み出されたギャンブルもたくさんある。トーレンスや倍棒、フレンチ・フリップやタワーギャモンズなんかは僕も大好きだし、最近ではコンバット・ゲームなんかも徐々に人気になっている。ただ、一番人気があるのは何かと問われると、それはまた別にある。「超越知能」が生み出した「競泳特化型アンドロイド」同士の水上レース。いわゆる<ボートロイド・レース>で間違いない。

これは「ボートレース」をベースにした新しい競技だ。新しいといっても、ボートレースとルールは何も変わらない。ただ、レーサーがいないのである。白・黒・赤・青・黄・緑の6色をモチーフにしたムキムキマッチョなボートロイドがそれぞれ水上を猛スピードで泳ぎゴールを目指す。第一ターンマークの攻防が特にアツく、大外の緑がマクり差しを決めた瞬間などは観客が熱狂のるつぼに──。

「ちがう。レーサーは必要よ」
「……あれ? 要る?」
「絶対要る! そうじゃないと腐女子喜ばないわよ。江戸川の白にとうとう因縁のキング・ミネ様が乗る! とかそういうカップリングが観たいんだから!」
「あー……そっちか」
「そうよ」

ゴホン。えーと、ボートレーサーはいるのである。ムキムキマッチョなボートロイドの肩甲骨あたりに馬乗りになったレーサーが、頭頂部をハンドル代わりにクイクイすることで舵を切り、ターンマークで激しい攻防を繰り広げる。これが今、ネオ・ジャパンで大いに流行っている「ボートロイド・レース」だ。現在、全国に24場あるボートロイドレース場に6ボートロイド。合計144名のボートロイドが配置されている。ボートロイドはそれぞれムキムキでめっちゃ速く……時速80kmくらいで泳ぐ。

爆発的技術進化前……ええと、面倒くさくなってきた……つまり現実世界のボートレースと違ってボートロイドの出場枠は固定。つまり江戸川の「白夜<ホワイト・ナイト>」は常に1枠出場。続く「宵闇<ダーク・プリンス>」は2枠。「赤帽子<レッド・キャップ>」は3枠……。

「名前がダサイ! レッドキャップってそのまんまじゃん!」
「もう、名前決めるのが一番面倒臭いんだぜ?」
「だめ! ちゃんと考えて! 腐女子の気持ちになって!」
「もー……」

江戸川の「白夜<セイヤ>」は1枠。「黒夢<ナイトメア>」は2枠。それから「焔<カオス>」「深海<ジュン>」「黄金<クラウド>」「森<シンイチ>」と続く。

「森って書いてシンイチはないわよ!」
「いやー、もう名前はな。いいじゃん。これ」
「大事よそこ……?」
「てかこれ144人決めるのキツイってマジで……。じゃあはるちゃんつぎ、平和島決めてくれよ」
「よし! わたしの本気見せてやる!」

平和島のボートロイドは、「ユウキ」「エミル」えーと……あと「カゲリ」? それから「美波<ミハ>」と……、流れるって漢字でルって読ませるの一個入れたいよね。だから……「流流<ルル>」! 古風なのもいいなぁ……あ! 「嵐丸<ランマル>」! どう!?

「だせぇ! オイラの事言えないじゃんか!」
「ひろしのもよっぽどよ!」
「……てかこれ、もともと『ウマ娘が流行ってるからボートでも腐女子向けに同じネタでやってどっかに売り込もうぜ』って話だったよな」
「そうよ! ひろしが変にSFぶるから駄目なのよ」
「だって、不自然じゃんムキムキの兄ちゃんが泳いでレースするの」
「ウマ娘が走るのも不自然よ! その辺気にしなくていいのよ」
「そうか……でもやっぱ設定は凝りたいよなぁ……」
「というか、わたしたちネーミングセンスないから無理ねこれ」
「無理だな……」

とうわけで『まくりきれ!ボートさん』のアイデア。どっかの開発会社買ってくれませんかね。我が社こそは! という方は、ナナテイ編集部までお問い合わせください。

【今回の収支(1/1~4/6)】
購入金額 146,100円
払戻金額 99,410円
収支 -46,690円
購入舟券数 140R
的中舟券数 39R
今期的中率 28% → 28%
今期回収率 68% → 68%

今週の収支は前回と変わらず。諸事情により予想できずでございました。ちなみに今週はジャパンネット銀行からペイペイ銀行に移り変わるので、それに付随して身の回りのいろんなものを刷新するのでバタバタしておった。なんと長年使っていた携帯会社も変更。今後楽天銀行をメインバンクにする関係で楽天モバイルに入ってやった。まだ銀行カードは手元に届いてないしテレボートとの連携も試してないけど、使い勝手なんかはまた来週報告予定、だ!

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

人気記事

荒れるレースの条件とは。 3カド戦に企画レース?

ボートのデザインについてまとめてみたら色々と面白かった件。

年間収支大公開! 今年の振り返りと来年の抱負を。

やとわれ編集長 岡井のボート事件簿 FILE11 厳格養成所脱走事件

ナカキン流展示航走の見方を紹介します。

SGにまつわる選手の話