めおと舟 その92『キキョラー奇談』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
夫婦揃っての趣味を持とうと始めたボートレース。2019年、2020年と連続でトータル収支マイナスを叩いた夫婦が次に目指すのは「2021年の収支をプラスにする事」。今年こそはと胸に誓いつつも、コロナ禍で巣ごもり状態の二人は他にやることもないまま、代わり映えの無い日常を送るのだった。

ある昼下がりの午後だ。例によって作業部屋で仕事をしながら片手間にボートに勤しんでいたところ、多摩川のレディースレースで実に惜しい展開があった。

【4/17 多摩川 ヴィーナスシリーズ第2戦是政プリンセスカップ 3日目 7R】

▲画像はボートレース公式サイトより

女子レースは荒れる。というのが最近オイラが学んだ事なので、4号艇遠藤選手をアタマにしつつ久々にB2選手を入れて買い目を組むことにした。4号艇遠藤選手にくっついていく形で外側が来てもおかしくなさそうだし、この場合はそんなに無茶でもねえだろうという判断だ。

【夫の予想】
4-16-16 2点 1000円

4-1-6で78倍。4-6-1だと192倍である。1000円ぶっこんでるんでどっちがきても今年の負けは一気にマクれる。よっしゃ頼むぜ冨名腰選手! てかこれフナコシって読むのね。沖縄恐るべし!

と、まあ当たったらいいよねくらいで思ってたらスタートで5号艇が1人だけ大きく遅れるというハプニングが起きた。その瞬間お股がヒュンとなる。4号艇はマクりに行くはずなので、つまり6号艇はがら空き。4-6が思いっきり見える展開である。

「うお! これいいぞ! たのむフナコシ選手ッ!」

思わず大声を上げる俺。と、フナコシ選手がなかなかターンマーク方向にハンドルを切らない。あれ。これ大マクリ狙うパターンのハズなのだけど、なして……?

「おいおい……! なんで今行かなかった……!? ノォォ!」

後ろのはるちゃん顔をしかめるくらいの調子でまあまあ悔しがっていると、胸に疼痛が走る。鎖骨の下に圧迫感。あ、やっちまった。

「うわ……いてて……」
「どうしたの?」
「気胸出た……」
「大きな声出すから……」
「あいたたた……駄目だこれ。ちょっと、横になる……」

そう。オイラは気胸を持っている。俗に言うキキョラーだ。気胸というのは肺に穴が空く系の症状が出る病気なのだけども、これは病気というより体質に近い。気胸になりやすい人は年に何度もこれを食らうし、ならん人は一生縁がないだろう。痩せ型の人がなりやすいゆえ、一部では「イケメン病」と呼ばれている(マジ)。

「寝ときなさい、ひろし」
「うん……。あー、これまあまあデカイ気胸だわ……」
「興奮するからよ……」

オイラくらいのマスター・オブ・気胸になると、だいたい肺に穴が空くタイミングというのが見えてくる。人によって違うとは思うのだけど、大別するに「運動」「大声」の2つがヤバいと思う。オイラの場合は特に「屈伸運動」が天敵で、いわゆるスクワットみたいなのをやると一撃で穴あく。大声に関してはカラオケとかは大丈夫なのだが、びっくりした時とかにとっさに「うおっ!」みたいな大声を出すと穴あく。

オイラは高校時代からこの体質と付き合っていて、地元の佐世保ではこの「気胸」というのを患っている男が他に居なかったゆえ、「肺に穴があく病気を持ってるんだよ」といっても誰一人信じてくれなかったものだ。ある友人はこう言っていた。

「肺に穴のホゲとると? 死ぬたい、それ」

ホゲる、とは「穴があく」という意味の方言だ。

「うん。ホゲとる。痛いんだよこれ……」
「うそやろ。ホゲたら、もうそいは、死ぬたい」
「いや死なんけども……。ただ運動とかは駄目なんだよ」
「死ぬたい」
「死なんけどさ」
「だって肺のホゲとっちゃろ?」
「ホゲとるけども……」
「駄目やろそいは」
「うん、駄目だね」

体育の授業とかで持久走を頑なに断るオイラを、他の男子はただ「サボってる」としか見てなかった。実際気胸が出てない時もキツい運動は全力で断ってたので、サボってたといえばサボってたんだけども、でも実際に何かあるたびに穴がホゲる体質なのは事実なのである。

ベッドに寝っ転がって、空気の漏れ具合を確認する。

これはキキョラーにしか通じない感覚だと思うのだけども、肺から漏れた空気の場所は、なにげにハッキリ分かる。マジである。そしてその「空気の場所」によって、めっちゃ痛いところとあんまり痛くないところがある。個人的な感想になるけども、痛みがエグイのは鎖骨らへん。背中側も結構痛い。逆に大丈夫なのは肺の下側と横側。だので、ちょっと信じられないかもしれんが、我々キキョラーは寝ながら空気の位置を調整して、あんま痛くないところに移動させるスベというのを、いつしか備えておる。どうやって動かすかというと、これはもう「横になって体勢を色々変えて空気溜まりを動かしていく」しかない。ヨガみたいなもんである。はるちゃんが苦笑しながら言った。

「大丈夫? ひろし」
「うん、空気ちょっと移動した……。あー、楽になった」
「それ、いつも思うんだけどホントに空気動かしてるの? 全く信じられないんだけど……」
「あ、はるちゃんまでそんな事を……」
「傍から見てると、ベッドのうえでもぞもぞしてるようにしか見えないわよ」
「まあ実際ベッドの上でもぞもぞしてるんだけども……。いまほら、この辺。脇の奥のところに空気あるよ」
「うそだー……?」
「ホントだよ!」

なんにせよ、ボートレースで気胸が出るというのはなかなかに興味深い現象だった。オイラはパチスロもパチンコも打つけども、アレはひとり孤独に闘う系の遊技である。すげーアツい状況になっても、特に声を出すことはない。動画演者さんならまだしも、1人で打っててオラオラ言うのは流石にイカれてる。

ところがだ、ボートの場合は1人で見てても声が出る。しかも、キキョラーにとって大敵である「とっさに出る系」の声だ。ウッとかオゥ、とか。絞り出す感じのが不意に出ると、もうホゲる。

「ひろし、ひとりでボートやってる時もまあまあウルサイもんね」
「マジで……。まあ自覚あるっちゃある……」
「今度からは静かに見ようね……」
「うん……。あ、そういえばさっきのレースどうなった……」

寝っ転がりながら、結果を確認する。

「げえ! そこそこ惜しいやんけ! ちょーもう!!」

胸に走る痛み。またホゲた。新たに漏れ出した空気を移動させるため、ベッドの上でうにうにする。痛い。

「ほらぁ、もう。そういうところよ!」
「うん……。ちょっと、声を出さずにレース見る練習するわ……」

ボートレースと気胸。全く関係がなようで、実はある。ボートレース人口って結構多いはずなので、相対的にキキョラーもたくさんいると思う。全国のボートファンのキキョラー諸兄は、果たしてどうやってこの艱難を乗り越えておられるのだろう。

「静かにレース見ればいいだけじゃん」
「まあ、そうなんだけど……」
「まったくもう……おかゆ食べる?」
「うん、食べる……」

【今回の収支(1/1~4/20)】
購入金額 149,100円
払戻金額 99,410円
収支 -46,690円
購入舟券数 143R
的中舟券数 39R
今期的中率 28% → 28%
今期回収率 68% → 67%

下がり続ける収支。これはアカン。レース数が少ないの書類仕事で忙殺されていたためだ。具体的に言うと税務と各種契約業務。そしてGW進行。この原稿も普段よりちょっぴり早く書いてたりする。はやくスッキリ終わらせて予想しまくりてぇ……。

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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