めおと舟 その94『こういう時代もあるカポネ』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
夫婦揃っての趣味を持とうと始めたボートレース。2019年、2020年と連続でトータル収支マイナスを叩いた夫婦が次に目指すのは「2021年の収支をプラスにする事」。今年こそはと胸に誓いつつも、コロナ禍で巣ごもり状態の二人は他にやることもないまま、代わり映えの無い日常を送るのだった。

いまさらだけど、我々夫婦は呑兵衛である。

オイラは主にビールを、はるちゃんはそれ以外のアルコール全般を嗜む。リアルで付き合いのある人々はとっくの昔にご存知の事であると思う。が、意外と知られていないのが「じつは妻の方が酒好き」である点だろう。

現在、我が家には西洋・東洋を問わずいろんな種類のお酒が常備されておるが、これらは全てはるちゃんのコレクションである。気づいたらソーダ・ストリームという「炭酸水を好きなタイミングで作れる装置」まで導入されておるし、自動製氷機付きの冷蔵庫があるのに別途氷も常備されておるゆえ、自宅で酒を飲む、ということに関していえば我が家はまことに恵まれておる。

ただ、宅飲み、というのはあくまでサブ的な位置付けだ。

アルコール好きにとっての本道はやっぱりバーやレストランや居酒屋などの「外での飲み」である。我々夫婦はちょっと引くくらい常に一緒に行動しておるので、必定、外で呑む時もだいたい一緒である。んでそこである程度酒を入れといて、帰ってからチョイ足しで呑む。チョイ足しはあくまでチョイ足しであるゆえ、決してメインにはならん。長らく、我が家における「宅飲み」はあくまで酒道における路傍の石、脇道を彩る徒花であったのだ。

ところがである。近年これが逆転している。否、逆転せざるを得ぬ、とある政治的な事情が発生している。ご存知、緊急事態宣言と、それに付随する都内の「アルコール提供禁止令」の発布だ。

したがって、我が家の宅飲みもちょっと趣が変わっておる。

「女将、アレはあるかい……?」

キッチンに座ったオイラが、周りを気にしながら小さな声で尋ねると、ふんぞりかえったはるちゃんがこう答える。

「……あんた、警察かい」
「違うさ。ただの酒飲みだよ……」
「……うちは高いよ……金はあんのかい」
「ああ……ここに……」

受け取った200円をポッケに仕舞いながら冷蔵庫に向かうはるちゃん。どこから警察が飛び出してきても大丈夫なように注意を払いながら首を巡らし素早く扉を開けると、中から銀色の缶を一本取り出す。

「キンキンに冷えてる気をつけて飲みな……。分かってるとは思うが──」
「他言は無用ってんだろ。分かってるさ女将。じゃあオイラはこれで……」
「待ちな……!」
「……?」
「ツマミはいいのかい?」
「……まさか……あるのか?」
「舐めてもらっちゃ困る。密造モロキュウあるよ……? あと、密造生ハムと密造チーズ……」
「全部だ……」
「あんだってェ?」
「全部くれ!」
「お前さんも好きだねぇ……ククク」

現在我が家では「居酒屋はるちゃん 禁酒法ver」が開業されている。これは別にオイラが始めたわけではなく、今更ブライアン・デ・パルマの「アンタッチャブル」を観たはるちゃんが自主的に始めた事だ。とはいえ普段の「居酒屋はるちゃん」とそんなに変わらないのだけど、ただ雰囲気がちょっとシカゴっぽいだけである。何がシカゴかよくわからんが、とりあえず「常に警察を気にする」のと「喋り口調がちょっとハードボイルドっぽい」のと「微妙にコソコソ酒を飲む」というのが普段と違う。あとお酒ははるちゃんが買いためた物をもらうので有料。ツマミは無料である。ちなみに設定上、酒は全部密造酒である。アサヒだけど。

プルタブを引いて口をつける。冷えた麦汁の味がした。

「ああ、旨い……」
「あと6本あるよォ……」
「この時代にその品揃え……流石だな」
「カポネの旦那のおかげさァ……」

言いながらはるちゃんは自分用に水割りを作る。

「プハー。美味しい」
「てかこのアルコール禁止、意味分かんねーなぁ」
「ね。意味わかんないねぇ」
「ったく……。腹立たしいったら……」

ビールを飲み、ツマミを喰いながらテレビを眺める。2本目。3本目。メーターが上がる。女将に4本目を注文したところで、100円玉が切れてしまった。

「あ、ごめんはるちゃん。ツケで」
「我が家はツケ効かないよォ……?」
「え、だめ?」
「駄目」
「じゃあ10円で……」
「10円はイヤン。お財布じゃらじゃらなる」
「あー、じゃあコンビニで割ってくるかなぁ……」
「あ、そしたらボートで良いわよ。200円分代わりに買って」
「おお。それで良いなら全然オーケー」
「どこ買おう……ちょっと調べてみるね」

【4/30 ボートレース大村 スポーツ報知杯 最終日 8R】

▲画像はボートレース公式サイトより

「大村やってるね。オイラも買おうかな……」
「これだったら……1は鉄板よね……進入は123/645だって」
「うん……。てか1-2-6とかでいいんじゃね?」
「大外だけど5あたりもチェックしたほうがいいかなぁ……」
「吉川選手悪くないよね。スタートも早いし……よし、決めた!」
「わたしも!」

【夫の予想】
1-26-26 2点 500円

【妻の予想】
1-56-56 2点 100円

「よし、購入完了。女将、ビールを……」
「オウ……気をつけて飲むんだぜ……サツにバレねぇようになァ……」
「ちなみにこれ、当たったらどうする?」
「ゴールデンウィーク明けたら振り込んでー」
「分かった!」

タブレットでLIVE映像を映し出し二人して眺める。ピットアウトからスタートまでの間で、暇を持て余したピノコがはるちゃんの膝にぴょんと乗ってきた。居酒屋はるちゃんに新しいお客だ。せっかくなのでチュールを食べさせる。

「女将、このチュールも密造品?」
「もちろん密造チュールだ……」
「徹底してんな……」
「さあ、レーススタート!」

モーターを唸らせながら確定が一斉にスタート……と思いきや3号艇が大きく遅れた。これにて外側がだいぶ自由になる。

「アイヤーこれ、1-6-5あるわ」
「いけいけ! 頑張れ!」

形としては1-6でほぼ決まりそうな感じだったけど、クイックに回ろうとするあまりハンドルを離しすぎたのか6号艇大神選手が大きく後退。すきを突く形で5号艇吉川選手が鋭く切り込み第1ターンマーク後の形は1-2-5になった。言っても最終日。流石にモーターの調整も追いついてるので2着以降の着順は入れ替わっても全然おかしくない。

「6がもうちょっと上がってくれれば……!」
「わたしはもう駄目かなぁ……」
「いやわからんぞこれはまだ。ほらッ」

2周目の第1ターンマークで2号艇高山選手と5号艇吉川選手の順位が入れ替わった。さらに膨らんだ2号艇の内側を付くように6号艇大神選手が果敢に攻める。惜しくも届かなかったが、まだチャンスはある。うまくいけば1-5-6はまだ見える!

「1-5-6って今何倍?」
「40倍くらい……かな?」
「あら、結構低い」
「まあ大村だし。1絡みはどうしてもね……。あと多分6は2番人気だよ。1-6-5まであがっちゃうと全然美味しくないかも……。20倍か」
「いやーん。1-5-6来てー!」
「その前に2号艇を抜かないと……」

現在の隊形は1-5-2。2と6の間は2艇身ほど。あと3回のターンを遺しているので全然チャンスはある。というか6号艇はゴリゴリに攻めてるので2号艇のワンミスでたぶん入れ替わる。

「これはもうミス待ちだなぁ……でも3着は全然入れ替わるから……」
「100円しか買ってないけど、どうせなら当てたい……」
「うーん。全然ミスせんなーこれ……だめかァ……?」

結果。

1-5-2であった。スタートは3号艇が0.44秒も遅れてすげー目立っていたけど、よく見りゃ6号艇も0.35。トップスタートの5号艇0.15秒がフライングに見えるほどのスロースタートであった。

「ンー。やっぱこんだけ遅れるとカドでもマクれんかー」
「たまーにあるわよねめっちゃ遅いの」
「なんでなんだろうなァ……。夕日のせいとか? 逆光で時計が見ずらいとか」
「あ、それあるかも」

気になって調べてみると、ボートレース大村は東向きのコースだ。つまりは夕日を背に向ける形になっているので逆光のせいではない。

「じゃあ水面に夕日が反射して……とかかなぁ?」
「今日は波もほぼ無い静面だから、逆に夕日が反射しやすくて前が見ずらいとか……」
「ンー。ボート乗ったことないから分からないねぇ」
「うん。でもこんな全員遅いのは何かあるんだろなぁ……。と、じゃあ女将、もう一本頂戴」
「お代は……?」
「もう1レースやるだろ?」
「へへ。そうこなくっちゃ……!」

【今回の収支(1/1~5/4)】
購入金額 176,600円
払戻金額 102.810円
収支 -73,790円
購入舟券数 159R
的中舟券数 39R
今期的中率 26% → 25%
今期回収率 62% → 58%

回収率が60%を切ってしまった。これにて3周連続当たりナシ。こんなに不調なのは連載開始直後以来である。と、言い訳になるけどこれは穴狙いを続けておるからゆえ、そんなに心配はしてなかったりする。

穴を狙えば的中率は下がる。でも当たったら一撃で取り返せる。予想ではこのまま的中率10%くらいまで下がると思う。けど5月一杯はこのスタイルでチャレンジするぜ。心が折れるか、財布の中身が尽きなきゃいいけど。

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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