めおと舟 その95『夫婦でポケモン』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
夫婦揃っての趣味を持とうと始めたボートレース。2019年、2020年と連続でトータル収支マイナスを叩いた夫婦が次に目指すのは「2021年の収支をプラスにする事」。今年こそはと胸に誓いつつも、コロナ禍で巣ごもり状態の二人は他にやることもないまま、代わり映えの無い日常を送るのだった。

オイラは昔からゲームが好きな子であった。今30代後半から40代前半の、元・昭和生まれのキッズはだいたいそうだと思うけども、小学生時分は友達のなかで比較的恵まれた……つまりファミコンを買う事ができたヤツの家に集まっては、エキサイトバイクでエキサイトしたりしてたものである。

我が家にファミコンが到着したのはいつだったか。

年代があんまり分からんが同時に買ったのが「キン肉マン」と「スパルタンX」だったので、少なくとも1985年の11月以降のことらしい。が、もうちょっと遅い気もする。なぜならそれはオイラがおねだりして買ってもらったものではなく、当時離れて住んでた母ちゃんが送りつけてきたものだからだ。

ファミコンそのものの発売日は1983年7月15日。マリオが出たのが85年9月。つまり「マリオがすごくてファミコン本体がなかなか手に入らなくなってるらしいぞ」と兄貴から教えられた東京の母ちゃんが「じゃあひろしにも送ったるか」と根回ししてどうにか手に入れ、それを長崎に送ってくれたものと推察されるが、なぜマリオじゃなくてスパルタンXだったのかはよく分からん。単に品薄で手に入らなかったのかもしれない。

「ひろし、お前のお母さんが何か送ってきたけど、これは一体なんね……?」
「わからん……」

ファミコン本体とカセット2本を前に開かれたあしの家緊急会議。親父も婆ちゃんもファミコンの存在そのものを知らず。オイラもあんまり興味がなかったのでとりあえず放置することにした。

「あいつは全く、訳分からんことを……」
「わからん……」

当時日本中で大人気でなかなか手に入らず、まもなくそれが米国を経て世界に羽ばたく事になるファミコンも、我が家ではしばらく「母ちゃんが酔っ払って送ってきたよく分からんもの」の扱いであった。

チリリリリン……チリリリリン……。

翌日だ。リビングに置かれた黒電話が激しく鳴り響いた。応答した親父がオイラを手招きする。受話器を取ると、すぐに母ちゃんの声がした。

「ひろしー、ファミコン届いた?」
「わからん……」
「え、まだやってないの? なんだよーせっかく送ってあげたのにさー! お兄ちゃんと買いにいったんだからね。ジュンちゃんに繋いでもらいなよー?」
「わからん……」
「ファミコン、今なかなか手に入らないんだからね。お店のお客さんにお願いしてやっとひとつ手に入れたんだから」

なんかよく分からんので親父に交代する。やがて母親の説明を受けて通話を終了した親父が「疲れてんのにクソ面倒くせぇ……」というのを隠しもしない顔で箱の開梱作業を始める。

「うわ、これ結構面倒だなぁ……。母さん、ハサミどこだっけ?」
「あっちの箱にあるよ……?」

リビングのテーブルでお茶を飲みながら我々の様子を眺める婆ちゃん。とりあえずよく分からんのでテレビを見るオイラ。当時、テレビは外部接続を想定して作られていはいなかった。家庭用ビデオも登場前の話である。だので、外部からの映像をブラウン管に投影するためには、デジタルデータをアンテナで使われてるのと同じ映像用信号信号に変換して直接ぶち込むしかなく、ファミコンには当時、それを行うためのRF変換機というのがついておった。

噂では、ファミコンを買ったはいいけどここで挫折したお父さんもいたらしいが、うちの親父は仕事で同軸ケーブルを扱っていたし工業高校出身なので仕組みは知ってるらしく、手際良く作業をすすめていった。付属のケーブルの外側を剥いて絶縁用の蝋を削り、中心の線をテレビの裏側の映像電波受信用の端子に巻きつけていく。

「うっし……。これでいいか。ちょっとひろし、これやってみろ」

コントローラーを持ってソファに座る。親父がスイッチをオンにすると、やがてチープなドット絵が表示された。

めくるめく、我がゲーム人生の、始まりの瞬間であった。

**********

「そう。ここが電源。ソフトはこれ」
「えー、いまこんなちっちゃいんだ……」
「ね。びっくりするよな。それでここに入れて……。そっちがSDカード」
「うんうん……」
「それで、押すとメニュー画面になるからね。ほら、出てきた」
「こうか……。わかった」
「そう。それでね──……」

41歳の春。十数年ぶりにゲーム機に触るという妻のはるちゃんに「ニンテンドースイッチライト」の使用方法を教えつつ、オイラは自分用に仕入れたデカい方の「ニンテンドースイッチ」をテレビに接続して電源周り整える。HDMIケーブルは部屋の中を探せば10本くらい出てくるので予め用意してたけども、箱を開梱したところ同梱されていた。また増えた。

「うっし、こっちも出来た。……じゃあやるか」
「うん。いざ、マサラタウンへ!」
「いまねぇ、マサラタウンじゃないのよ……」
「そうか! へへへ……久しぶりだなぁ……」

この日、長き転売ヤーとの戦いの末、ようやく我が家に「ニンテンドースイッチ」が届いた。コロナによる巣篭もり特需の影響もあり、スイッチの品薄が激化しておる現在、税抜のメーカー小売価格29,800円の本体は平均して40,000円ほどで取引されておる。数週間前から定価で買えるところを探しまわっていたのだけど、あらゆるネットショップは入荷されるやいなやその在庫が秒で抑えられるため非常に難儀した。

「しっかし、やっと手に入ったぜぇ……」
「大変だったねぇ!」
「マジで転売ヤーは全員ちんちんモゲればいいんだよな……」

今まで「転売? いいんじゃない? 別に法律に違反してねぇし」とか生暖かく見守っていたけども、いざ自分が「転売ヤーのせいで物が手に入らない」状況になるとその害悪っぷりに気づいた次第。

高くても確実に手に入るなら転売ヤーから買えば良いんじゃない? という話も出るかもしれんが、いやいやいや、日本語がクソ怪しい、ちゃんと完品が届くかどうかも分からん相手と取引したくないし、だいいち保証期間の問題もある。

保証期間は「開梱した日」と勘違いしてる人も沢山いるけど違う。正規代理店が「販売した日」である。ハードを買った時にレジで「レシートとっとけ!」と言われたり、あるいは保証書を別にくれるのはそのためである。つまり、その在庫が転売ヤーのもとに保管されてる期間の分、保障期間は消費されていってるのだ。なおスイッチの保証期間は一年。一年保管されてたら「ノー保障」での運用となる。当然、転売ヤーは動作確認なんかしてないんで、不良品が来たらその時点でアウトだし、そもそも保証期間内であったとしても正規代理店のレシートなんか手に入らない。

そしてもうひとつ、個人情報の問題もある。

「なんとかショップ」みたいな名前がついていたとしても、転売ヤーのほとんどは自分ちで勝手にやってるだけの個人である。つまり人だ。そしてこの何週間か探し回った結果感じたけど、大規模にやってるのはほぼ謎のアジア人グループだ。アマゾンや楽天であったとしても、自分で発送してる登録ショップに関しては手前で発送するんで住所も名前も筒抜けである。要するに、そこを利用するのであれば「偽名」「着地偽装」「捨て垢のメール」が必須になるゆえクソ面倒くさいことこの上ない。

そこまで気をつけなくても……と思うかもしれんが、そういう情報だってある程度数がまとまれば売れるし、転売やってる人が売らないわけがない。みなさんの中にも「なんか知らんがメールにスパムが届くようになった」と同時に「営業電話もかかってくるようになった」という経験がある方がおられるかもしれんが、それは「メール」と「電話番号」と「名前」が紐付いた情報を誰かがリスト業者に売った、という事である。荒唐無稽な陰謀論に聞こえるかもしれんが、これは当たり前に存在する普通の事なので、そういうわけの分からん他人に個人情報を教えるべきではない。宝石屋やら投資会社からバンバン電話来るので非常に面倒臭くて死ぬ羽目になる。

要するに! だ。

転売ヤーから物を買うのはアホである。リスク含みの商品を高く買う上に個人情報まで献上するわけだから、こんなもん使うのは金輪際辞めたほうがいい。頑張って探せばどっかにあるから。大丈夫。大丈夫。そして転売ヤーから物を買うのはアホだけども、それはそうせざるをえない「買い占め」に走っとる転売ヤーサイドが完全に悪いので、アホって言ってごめん。

「お、来た。ひろし男の子にする?」
「うん。オイラ男の子。はるちゃんは」
「女の子にする」

本体と同時に2本購入したポケモンである。夫婦で「せーの!」で一緒にポケモンをやるのはちょっとした夢だったので、今ここに叶ったわけだ。元からオイラがスイッチライトを持っていたのだけども、今後出るクレヨンしんちゃんの「ぼく夏」をどうしてもテレビで遊びたく、この度ふつうのスイッチを購入した次第。ライトははるちゃんに献上し、オイラはデカイほうで遊ぶ。失敗だったのはポケモンを単品で2つ買った事だ。なんか2本セットのお得なヤツがあったらしい。

「おー、御三家……。うわ、全部可愛いなぁ……」
「わたし水にする!」
「じゃあ……草かな……」
「ずるい!」
「いやーそこはやっぱ、弱点突いていかんと……」

酒を飲みつつ、チーズをツマミにポケモン。愛猫・ピノコもいる。人間二人がゲームに夢中なのが面白くないのか、我々の回りを走り回っては、足や手首など、肌色のところを噛もうとしてくる。

「いてて……。こいつ何ポケモンよ……」
「しっぽなしポケモンとか目くそポケモンとかかなぁ……」

猫と夫婦とポケモン。これはなかなかにラグジュアリーな空間だった。

「うわ、なんか見てひろし! 皮膚病のピカチューみたいなポケモンいるよ!」
「ほんとだ。うわ、こっちほら、ちんこみたいなポケモンおるぞ。うわー、知らんポケモンいっぱい増えたなぁ……」
「これは楽しみねぇ!」
「うん! 遊ぼう!」

**********

仕事が終わらない。デカイ仕事はだいたい片付いたけど、細かい仕事が無限に入ってきて時間をゴリゴリに削られている。これが終わったらポケモン……これが終わったらポケモン……と念じながら作業をするも、一向に終わる気配がなく。

「よっしゃー、クリアしたよ!」
「え! もうクリアしたの!?」

はるちゃんが「ポケットモンスターソード」をクリアしたのは購入から2日後の事だった。クリア時のレベルは平均で60~70ほど。

「へへ。さあここからが本番だ……! 厳選するぞ厳選するぞ……」
「うわ、楽しそうだなオイ……」

オイラ、初日こそ何時間かぶっ通しで遊んだけどそこから仕事にハマって未だジムバッジ5つで止まっている。平均レベルは40~50ほど。進み方が全然違った。

「ひろしも早くクリアして最強トレーナー目指そうよう……!」
「ちょっとまって……仕事が無限に……」
「へへ。わたし休憩しよっと。へへ」

ライターになってから、ゲーム時間が激減しておる。理由は簡単だ。単純に「作業しながら出来ない」のである。「ながら」でできる趣味……例えば音楽。それからラジオ。そういうのを嗜むライターが多いのは、おそらく手を動かしながらでも楽しめるからだと思う。なんせこの仕事は休憩時間が決まってない。締切がある限りずっと作業を続けるハメになるので、まとまった時間をとってじっくりリフレッシュ、というのが難しいのである。

「ちッ……いいなぁ……」

椅子に座ったまま、小さく伸びを作ってコーヒーを飲む。ちょっと考えてから、ボートレースのホームページにアクセスした。素早く予想していくらかブチ込みつつ、時間が来たらこっそりLIVE画面を開いた。さっきまで音声を文字起こししていた関係でスピーカーがオンになっており、部屋の中にファンファーレが流れた。

「あ! ボートしてる!」
「へへ……ちょっとリフレッシュを……」
「ずるい! わたしもやる……!」
「はるちゃんポケモンあるじゃん! オイラ『ながら』で楽しめるのこれしかないんだよ……」
「じゃあ、わたしポケモンしながらボートするもん……! どれ買った?」
「若松……もう締め切ってるけど」
「そうか。じゃあ次買おう! へへ……!」

椅子に深く腰掛けてレースの展開を見る。1-6の流れだとそこそこの高配当が狙えるレースだったが、終わってみればド本命の1-4-5。一応買ってはいたけどガミだ。とはいえ6も見えてたので惜しかったといえば惜しかった。

「ふう……仕事しよ……」
「あれ? ポケモンは?」
「まだ出来ない……。夜やる!」
「うん!」

ストレスをボートで発散させつつ作業をすすめる。ポケモンをクリアするのは、まだまだ先になるだろう。

【今回の収支(1/1~5/11)】
購入金額 180,400円
払戻金額 104.490円
収支 -75,910円
購入舟券数 162R
的中舟券数 41R
今期的中率 25% → 25%
今期回収率 58% → 58%

今年はゴールデンウィーク前より後の方が大変だった。久々に「忙殺」というのを食らった気がする。まあ年中これくらい忙しかったら少しは裕福になれる気がするけども、オイラは暇な方がいいや。へへ。ちなみにまだポケモンクリアできてない。

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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