めおと舟 その96『怪奇モノとか好きです』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
夫婦揃っての趣味を持とうと始めたボートレース。2019年、2020年と連続でトータル収支マイナスを叩いた夫婦が次に目指すのは「2021年の収支をプラスにする事」。今年こそはと胸に誓いつつも、コロナ禍で巣ごもり状態の二人は他にやることもないまま、代わり映えの無い日常を送るのだった。

大学時代のオイラは、今よりもだいぶサブカルファンであった。

この「サブカル」という単語も定義が曖昧な部分があって、何をしてサブなのかよく分からん場合があるが、要は「流行」に逆行する形の文化を全部含めての「サブ」である。故に既にメインカルチャーになってる「アニメ」や「漫画」はサブカルじゃない。

んでそういうサブカルファンは往々にして「流行」に拒否反応みたいなのを示す場合があって、例えば当時めちゃめちゃ流行っていた「モーニング娘。」のファンに対して小馬鹿にした態度をとったり、あるいはハリウッド映画は無条件で憎悪の対象であったり。要するに当時のオイラは人間として度量がずっと狭く、それでいて「自分は変わった人だから!」と得意げになる感じの、まあどこにでも居る、普通のガキであったのだ。

「パイレーツ・オブ・カリビアン」を睥睨しつつ古いゾンビ映画を愛し。「ミスチル」を鼻で笑いながら古いメタルにヘドバンし。そして綿矢りさの「蹴りたい背中」がすげー売れてる時代に太宰を読んで悦に入る。

今思えばルネサンス趣味というか、旧いものほど良いに決まっている、といういかにも保守的な嗜好だっただけかもしれんが、これは何気に長短の差こそあれ、誰しも一回はハマるもので、例えば「ビートルズ」や「クイーン」が定期的にブームになって、しかもそれが若い人々の間に広がるきらいがあるのも、そういう事なんだと思われる。最近だと「バブル時代」の文化が復興の兆しを見せたのも、もしかしたら同じだろう。また20年後とかに流行るのかもしれない。

しかし、ブームやら流行というのは一過性であるべくしてあるわけで。オイラも成長するにつれ、サブカルに対して若い頃と同じ熱量を保ったままでいるのが難しくなった。例えば音楽や映画や小説なんかがそうだ。

なんせ、これらはやっぱり、ある程度聴いたり読んでるとだんだん飽和してくるのである。飽きちゃうのとはちょっと違うけど、自分の中での消化が進むとどうしても新しい材料が欲しくなってくるので、もう仕方ない。この部分でのオイラのサブカル趣味はいつしかほぼ完全に消えてしまった。

何なら今ではハリウッド大好き人間だし、そして新しいものを取り入れるにしたがって見識が広がって行くゆえ、もう流石に「ヌーヴェルバーグについて語れない人とは酒が飲めない」みたいなアホな事は恥ずかしすぎて言えなくなってしまった。音楽も然り。小説も然り。ここに関してオイラは完全に真人間になった。

ただ、それらがスッと消え去ったあとでも、心の芯の部分に残ってる物がある。

これはもう人としての性質に近いものだと思うし、この年で変わらんなら一生変わらないと思うけど、それが「怪奇好き」というものだ。ここだけは学生時代からひとつも変わっていない。今でもオイラはゾンビが好きだしメタルが好きだしクトゥルフが好きだし旧い怪奇文学も宗教画もトンデモもグノーシス主義も真言立川流も好きだ。そして、オイラにとってそれらは若い頃よりももっと自然な形で、肩の力を抜いて付き合える娯楽のひとつになってると思う。

きっとオイラは、死ぬまでそれらが大好きなのだろう。

**********

「ねーひろし、この映画知ってる……?」

ある夜の事だ。はるちゃんがタブレットの画面をこちらに向けながら尋ねてきた。ブラウザにはある映画・ドラマのサブスクリプションのページが表示されており、アイキャッチはテケテケみたいな格好の、上半身だけの外人が腕で立つモノクロ画像。タイトルは「怪物園」であった。

「いやー……知らんな」
「えー、ひろし好きそうなのに」
「原題は?」
「……ええと。『フリークス』って書いてあるね」
「ああ、知ってる知ってる。見世物小屋のヤツだ」

監督はトッド・ブラウニング。『魔人ドラキュラ』を撮った人だ。エド・ウッド関連を貪るように観たり読んだりしてた時期にドラキュラ俳優のベラ・ルゴシにもハマり、その線でドット・ブラウニング監督の事ももちろん知っていた。「フリークス」はサブカルにゴリゴリハマっていた当時はまだリマスターされてなかったので観てないが、タイトルだけは映画秘宝系の本で何度か目にしたことのある。興味が無い人は絶対知らんが、物好きの間ではかなり有名な作品である。

「へぇ、サブスクすげーな。そんなん配信してんだ……」
「これ、わたし観たい!」
「え、マジで。思いっきりカルト映画よ?」
「つまらない?」
「ンー。どうかなぁ……。言ってもオイラも観てないからなんとも……。多分そんなに面白くはないと思うけど、じゃあ、観てみる?」
「うん! 観てみる! よーし、チーズ食べながらワイン飲もう」
「んじゃオイラはビール……」

……1時間後。

具体的な内容はいろんな意味で避けるけど、予想の10倍くらい面白かった。元からの予想点を低く見積もりすぎてたのもあるけど、これは意外な収穫であった。ただ、万人受けは絶対にしないし不快感を覚える人もかなりいると思う。が、少なくともオイラと妻はこれを楽しく観ることができた。映画の出来が良かったのもあるけど、それよりハードルを超下げてたのがデカい。

「うわー、結構良かったねぇ!」
「うん。独特だったなぁ……」
「何かこういうの、他に知らない?」
「え、観たいの?」
「旧い映画観たい!」
「えー……モノクロって事?」
「うん! ちょっと変わったヤツがいい!」

正直、『フリークス』を最後まで楽しく観られるなら世の中にあまねく存在するほとんどの映画は大丈夫だと思う。だので選択の幅が広い。ちょっと唇を舐めて考えた。

「そしたら『博士の異常な愛情』とか『カッコーの巣の上で』。あと『エレファント・マン」とか『ジョニーは戦場へ行った』かな」
「あれは? ひろしが前に言ってた最低映画……」
「『プラン9・フロム・アウタースペース』? あれは撮影時のエピソードが笑えるだけで、映画自体はクソすぎるから辞めた方がいいよ」
「そうなんだ……」
「あとは『人類SOS』……これはタイトル違うかな『トリフィドの日』か『デイ・オブ・ザ・トリフィド』になってるかも。それと『地球最後の男』も面白かっんですげーオススメだなぁ……ほら、あれだよ、あの『アラジン』に出てる……『ワイルド・ワイルド・ウエスト』で金玉の裏が見えてる黒人俳優の……」
「ウィル・スミス?」
「そう。ウィル・スミスの主演で一回クソみたいなリメイクされてるやつ。あれは絶対モノクロの初代が面白いんだよ。なんならみんな大好きチャールトン・ヘストン大先生でもリメイクされてるから、観るならそっちでもいいかなぁ……なんだっけヘストン版のタイトル……『オメガマン』だっけか……」
「へぇ……。全然知らないや……」
「あ! そうだよ、モノクロホラーの金字塔と言えば『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』があるじゃん。これは絶対観たほうがいいね。最強だよ。めちゃくちゃおもしろい。『人類SOS』も『地球最後の男』もやっぱ文化の流れ的には『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が究極形態になるからなー。ああ、あれ実家にバージョン違い3本くらい持ってたのに……」

はるちゃんがワインを飲みながらだんだんとチベットスナギツネみたいな顔になっていく。

「『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』と言えば特殊メイク担当したトム・サヴィーニっておっさんがいるんだけど、後に彼は原作をリメイクした『死霊創世記』ってのを撮るんだよね。そっちもかなり面白い。冒頭のケツまるだしゾンビの所は歴史に残る名シーンだよね……」

スマホをいじり始めるはるちゃん。

「トム・サヴィーニは本人も役者として映画に出演する事があるんだけど、これが超笑えるんだよ。ほとんどカメオ出演みたいな感じなんだけど、なぜかロバート・ロドリゲス監督に気に入られてて……ほら、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』のセックスマシーン役。あれがトムだよ。セックスマシーンて。名前でまずイジってるからね。あと、本人が初主演して、邦題にも『トム・サヴィーニの』ってついてる『チルドレン・オブ・ザ・デッド』ってスーパークソ映画があるんだどさ、主演っつってるくせになぜか日本のウィキペディア上ではトムのディスコグラフィに載ってないからね! ウケる……ハハハ!」

**********

「……でね! やっぱルチオ・フルチ以前のゾンビって乾いてる系なんだよね。例外はあるけど大体乾いてる。フルチゾンビで湿ったゾンビが出てくるんだけど、やっぱこれ同じ土葬の文化でも気候が影響してると思うんだよ。勝手に『ゾンビ2』って名乗って作った『サンゲリア』はやたら細長いムシが出てくるけど、あれもやっぱ海洋国家ならではだと思うんだよな。ちなみにあれ、ブードゥブードゥ言ってるから後半の舞台になるマトゥール島の事をずっとハイチらへんだと思ってたんだけど、こないだ観返したら地中海の島なんだって。なんで地中海にブードゥ教よ! なぁ! その辺も良く考えたら結構笑いどころだよね……!」

一時間ほど語ったあたりで、はるちゃんが半分寝ているのに気づいた。

「あら、はるちゃんもうおねむ?」
「……うん、眠い」
「映画観ないの……?」
「いや、いいかな……何かお腹一杯になった……」
「そうか。じゃあ、続きは明日で……」
「──!?」

はるちゃんが寝るならオイラも寝よう。とおやすみの準備を整えていると、ベッドに寝っ転がったはるちゃんがこんな事を言った。

「しかしひろし、ホントに怖い映画好きねえ」
「映画だけじゃないけどな。オカルトとか、怪奇モノとか全般好きだねぇ」

学生時分は今よりずっと時間があって、それらの趣味に思うさま耽溺する事ができた。知れば知るほど世界が広がっていくような感覚。全く関係ないような知識と知識が結びついていて、ただのキーワードや映像が有機的な「知識」になっていく。それはとりもなおさず、「成長」の実感だった。

「若い頃にめちゃくちゃハマってたからなぁ……」
「何でそんなにハマってたの?」
「分からない……。単純に好きだかったから……。あと、時間と情熱かなぁ。毎日本当に、そればっかりだったし……。それこそ寝食を忘れる勢いで──」
「うわあ……。学生の頃とかそういうのあるよね……。今それをもう一回って言われたら、出来る?」
「いやー、どうだろう。厳しいかなぁ……」

頭の中でいくつかシュミレーションしてみたけど、どうも無理な気がする。ボートレース何かがまさしく良い例だ。面白いし気づいたらやってるけども、はちきれそうな情熱をもって、「全部を知り尽くしてやろう」みたいに猛烈な勢いで学ぶことは多分できない。体力的にも。精神力的にも、だ。

「パチスロとかも一緒だなぁ……。若い頃は数字の羅列とか覚えるのも楽しくて全く苦にならなかったけど、今はもう、なんとなーく……で」

ベッドに横になってリモコンで照明を落とす。

「おやすみ、はるちゃん」
「うん、おやすみ……」

目を閉じてしばらくして、ふと思い立ってスマホに手を伸ばした。本当に、好きなものに捧げる情熱って摩耗していくんだろうか。ためしにボートレースサイトにアクセスして選手一覧を見る。全員だと幅が広すぎるので、A1選手だけに的を絞って何人くらい顔と名前が一致するかチェックしてみた。

「なにしてるの?」
「んや、ボートレーサーについて調べてる……。顔と名前って何人くらい一致するかなって」

峰選手。これは分かる。当たり前だ。村松修二選手。オーケー。松井繁選手。もちろん分かる。吉川元浩選手……濱野谷憲吾選手……、今村豊選手、篠崎仁志選手、毒島誠選手……。

「おお、何だかんだ結構わかるぞ……!」
「え、わたしもやってみよう……!」
「うん。見てみて……!」

西島義則選手、白井英治選手、菊地孝平選手、魚谷智之選手、稲田浩二選手、宮地元輝選手、萩原秀人選手──。

「ほんとだ、結構わかるもんなのね……!」
「だろ? 何だかんだ、我々ちょっと成長してね?」
「うん。してるかも」
「あとは、それぞれの選手のデータだな。何かこの人はこれが得意とか、この人はこういうレースをやるとか、何かそれが分かるともっともっと面白くなるかも。ボートレース」
「誰と誰が同期でライバルとか、そういうのもいいわね……」
「あー……いいかも……なるほどなぁ……」

何だかんだ、1/4くらいの選手は顔と名前が一致したし、半分くらいの選手の名前は記憶に残っていた。はるちゃんもほぼ同じである。……いつまでも初心者だと思ってたら、何気に少しずつ成長してるらしい。

「ああ、そうか……」
「ん? なに?」
「いや……」

スマホを伏せて目を閉じながら、小さく伸びを作った。

「考えてもみりゃ、ホラー映画二十年以上観てるんだよ、オイラ」
「うん……」
「ボートはまだ2年だし。そりゃあ、愛の深さは違うさ」
「へへ。確かにね」
「だから──」

オイラにもそろそろ老いの兆しが見えてきたし、精神力も体力も摩耗してる部分はあると思う。だけど、全く愛が深まってないわけじゃない。あんまり熱心に学んでるとはいいがたいけど、それでも知ってる選手は増えてきてるし、観たレースの数も順調に増えてる。

経験値は、ちょっとずつ溜まってるのだ。

「──このまま、あと20年やってりゃ、怪奇モノより好きになるかもよ、もしかしたら」

暗い部屋のベッドの上。となりではるちゃんが「へへ」と笑った。

「じゃあわたしも一緒に勉強する……!」

【今回の収支(1/1~5/18)】
購入金額 197,300円
払戻金額 111,990円
収支 -85,310円
購入舟券数 178R
的中舟券数 45R
今期的中率 25% → 25%
今期回収率 58% → 57%

今週は18レースを予想。結果、大きい当たりは相変わらずナシ。的中率は横ばい。回収率はちょい下がりだった。穴狙いに切り替えてそろそろ一ヶ月経つけど、結局万舟ナシだった。もう一ヶ月くらいしつこく狙ってみる。そしてポケモンは未だクリアしていない。

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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