めおと舟 その101『ボートレース・ミステリ』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
夫婦揃っての趣味を持とうと始めたボートレース。2019年、2020年と連続でトータル収支マイナスを叩いた夫婦が次に目指すのは「2021年の収支をプラスにする事」。今年こそはと胸に誓いつつも、コロナ禍で巣ごもり状態の二人は他にやることもないまま、代わり映えの無い日常を送るのだった。

一向に出口の見えぬ「コロナ禍」の中、ちょっとだけ状況が好転しそうな善き報せがあった。緊急事態宣言の解除である。……いやぁ、長かったぜぇ。これにてやっと大手を振ってお酒が飲めるワイ! とか思ってたら東京都は「まん防」エリアの指定解除ならず。飲食店の酒類提供は十九時までとの事で、まだお閉めたまんまのお店が大半である。まあ当たり前なんだけども、まだまだ日常までの道のりは遠いようだ。

というわけでオイラとはるちゃんの間では、未だ「如何にして宅飲みをゴージャスにするか」についての求道が続いておる。

思へばこの一年で、我が家の宅飲みグッズはおおむね「整いました!」といっても良い程度には充実した。ねづっちの如く、スーツの首元の折返し部分を持ちながらこうやって言ってやる。整いました! あ、あれは「ねづっちです!」か。整いましたのときのポーズってどうだっけ。ちと分からんが、とにかく整いました。

まず引っ越した事によりキッチンが広くなり、ファミリー向けの冷蔵庫が置けるようになった。これで単純にツマミになりえる食材の常備が可能になったんだが、それにプラスして、自動製氷機能が付いたのがデカい。てか現在の妻・はるかと出会う前までは基本一人暮らしだったので、独身男性用のちっちゃい冷蔵庫しか無かったのである。話にならんかった。ザコである。今は整った。

まあこれは序の口として、ある時我が家には好きな時に炭酸水が作れるとかいう「ソーダストリーム」さんという、フューチャー・イズ・ナウなドリームマシンがやってきた。これはもともと「師匠2」さんという旧知のオッサンから教えて頂いたマシンなのだけども、大層便利ということで導入してみたところ、何か知らんが整った感じ。これにてサワー系のお酒に関しては残弾数を気にせずブチかませるようになった。

そしてさらに、今年の初頭には「どんな萎れたツマミでも出来たてのカリカリ感を取り戻さしてやるぜ」的な食物組成装置<フード・リザレクション・マシン>とでも言わんばかりの究極クッキングマシン「ノンフライヤー」さんが来た。これにより我が家の揚げ物は常にカリカリでフワッフワである。いかにも整った感じ。

また、酒類そのもののチョイスの幅も広がった。もともと備蓄癖がある我が家の兵站部隊長・はるかはアマゾンやら楽天やらを駆使し、敵がスキをみせるなりすぐに注文・備蓄する。要するにタイムセールを見つけたらすぐ買う。お得だと思ったもんは別に筆者に確認なんかせんでも良いという体制を敷いとるので自分も知らんかったが、さっき確認したら檸檬堂が2ケース48本あったし、サバ缶・トマト缶などのオツマミ系も箱単位で普通においてあった。さらに焼酎・日本酒・ワイン・ウィスキーなどがいつの間にかゴリゴリに備蓄されておるゆえ、これはもう外で飲む必要はなくなった感じである。

おまけに最近はベランダでもって「バジル」や「ミント」などのハーブ系まで育て始めている。言わずもがなツマミ&お酒の為だけど、これが第一便は育ちきっており既に実戦投入中である。さらにどうやったか知らんがちっちゃいコップによる水耕栽培で株分けしてどんどん増やしておるので、もはやバジルやらには困らない。

「いやぁ! いいなぁ……。宅飲み」
「ね。ひろし宅飲みしない派だったのにね昔」
「うん。性格的に家で飲み始めたらアル中一直線だと思ってたからさオイラ。意外と節度を持って飲めるもんだねコレ。まあこれからアルチュるかもしれんけど」
「はい、出来たよー。トマトとチーズと生ハムにオリーブオイルとハーブソルトかけてちぎったバジルをちょっと置いたやつ!」
「おー、オイラこの、トマトとチーズと生ハムにオリーブオイルとハーブソルトかけてちぎったバジルをちょっと置いたやつ好きなんだよなー!」
「お酒進むよねぇ!」
「進む!」

こんな感じなので、別にお外のお店でお酒が飲めなくても意外と平気になっちゃっておる。もちろん、お酒を飲むのにはツマミ以外にも大事な事があって、それが「会話」であるとか「知らん場所」みたいな精神的な刺激なのだが、これは「ドラマ」や「映画」を見ることでクリアしておる。要するに「宅飲みしながら何か観る」というものだ。

「今日は何観る?」
「そうだなぁ……観たことないドラマか何か観るかー……」

現在、筆者とはるちゃんは各種サブスクリプションにそれぞれ担当分けして加入しておる。オイラは「Netflix」と「Hulu」と「オソレゾーン」。はるちゃんが「FOD」と「AmazonPrimeVideo」と「Disney+」と「U-NEXT」と「Paravi」。もちろん全部同時加入してるわけではなくて、めぼしいものを観てしまったら一時的に退会して別のに、と一応節約はしてるのだけども、まあこれだけ守備範囲が広ければ大抵の映像作品は観れるし、無かったら無かったで歩いて5分のとこにツタヤがあるんで借りてくりゃいい。つまり、こっちも整っておる。

「あ、北川景子のドラマあるよ。ひろしこれ観たことある?」
「どれどれ……。『ヒポクラテスの誓い』……?」
「お医者さんのドラマみたいね」
「だね。観てみようか」
「オッケー! ちょっと待って。わたしソーダストリームさんで新しい炭酸をリロードしてくる!」
「んじゃ準備しとくぜー」

簡易的なホームシアター用のサウンドシステムの電源を入れて、テレビのスピーカーをミュートにする。作品によって低音の効きに差があるので、冒頭のシーンでセリフと環境音のバランスを取りながらウーファーの音量を調整する。元バンドマンはこういう「一番いい音にする」のが好きなのである。よし整った。これで気持ちよく観られる。

「おまたせ! 乾杯!」
「ほい! 乾杯!」
「ぷはぁー! うめぇ。整うぜぇコレは……」
「整うねぇ! へへ」
「じゃあ冒頭から再生する!」

「うん!」

件のドラマ『ヒポクラテスの誓い』はその名前の通りの医学モノであった。が、ちょっと独特だったのが主人公が医者ではなく法医学者(解剖したりする人)である点だ。そういえばはるちゃんは先日まで『監察医 朝顔』にハマっておった。監察医も法医学者も所属は違えどやることは似たよう感じだし、そういえば石原さとみの『アンナチュラル』も解剖医が主人公だったなぁ。尖って見えるけど、結構一般的なモチーフなのかもしれん。とか思いながら酒を飲みつつ観ていると、2話目で思わず声がでた。

「おわ、ボートレース……」
「だね。あれこれ平和島?」
「いや、どこだ……? わからん。江戸川じゃねぇよな」
「うわ、レーサー事故ったよ」
「……死んだ」

なんとなんと『ヒポクラテスの誓い』の第2話は「ボートレース中の事故によるボートレーサーの死」という状況をトリックにしたミステリ仕立てになっていた。これは……。

「うおお、これ撮影時に操縦してんのガチのレーサーよね」
「だと思うけど……。素人じゃないよね」
「絶対違うっしょ。役者はこんな全力で握れないだろうし……」

流石に転覆シーンなんかは上手いことはっきり映らないようにしてたけども、もしかしてドラマでボートレース場が出て、そんでボートレーサーが実際に乗ってる所がクローズアップされるのって史上初では……?

まあ実際の所、謎解きシーンその他はボートレースにほぼ関係なく、ただ事故の特異な状況というのを作るための舞台装置としてボートレースが取り上げられた感が否めないのが残念だけども、それにしてもちょっとびっくりした。

「えー……。ボートレース場が舞台のミステリってあるんだ……」
「斬新よね。競馬とかなら普通にありそうだけど……」
「他にもあるのかね、もしかして。ちと調べてみるわ……」

お酒を飲む手をとめてスマホでチェック。すると幾本か「ボートレース場が出てくる」あるいは「ボートレースが主題の」ミステリ作品が出てきたものの、映像化作品は該当ナシ。もしかしたら史上初じゃないかこれ。

なんせ件のドラマはWOWOWで放送された5話限定の短期ドラマ。WOWOWに加入してる北川景子ファンしかほぼ観てないと思われる。今はParaviで配信されておるが、そもそもParaviがまあまあマイナー。

「おいおい、凄い発見しちまったぞコレは……」
「やばいね。ボートファンでもこれは知らないよ多分……」
「もしかして日本でこの事に気づいてるボートレースライターってオイラだけかも知れん……」

というわけでオイラはここに新しいボートレーストリビアの誕生を宣言します。史上初めてボートレースが舞台になったミステリ映像作品の主演女優は、北川景子である。

へぇへぇへぇ! へぇへぇ!(満開)

あー、こういう発見があるから宅飲みで旧いドラマを観るのはたまらんぜ。芸の肥やしになるなぁ! と、その日は酔っ払って満足して寝たけど、翌日ツイッター等で詳しくで調べてみた所、やっぱこれが初のボートレースミステリである事に気づいてる人は居ないっぽい。

あ、あれ、これ結構ガチの発見なんでは……?

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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