めおと舟 その104『他人任せは自己責任』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
夫婦揃っての趣味を持とうと始めたボートレース。2019年、2020年と連続でトータル収支マイナスを叩いた夫婦が次に目指すのは「2021年の収支をプラスにする事」。今年こそはと胸に誓いつつも、コロナ禍で巣ごもり状態の二人は他にやることもないまま、代わり映えの無い日常を送るのだった。

何回も書くけどコロナからこっち、逆に酒量が増えておる。これ結構いろいろな所で聞く話なのでこれを御覧の皆様の中にもきっといらっしゃる事だと思うけども、要するに以前はそこまで家で飲む習慣がなかった人々が自宅でガッツリと飲み始め、なまじ閉店時間も無ければ帰宅方法の心配も不要なため「飲みすぎ」、半ばキッチンドランカー化するみたいな、ちょっと洒落にならん状況──。これが最近問題化しておるらしい。

まあ実際そういう人がどのくらいいるのか知らんが、少なくともオイラに関して言えばコロナ前よりコロナ後のほうが「酒量が増えた」のは間違いない。

オイラなんかもともと家で飲む習慣がゼロに近かったのだけども、明らかにコロナ後はこれが習慣化しておる。その分外で飲んでないんで金銭的な収支はプラスもプラスなんだけども、健康的にはマイナスだと思う。

「大丈夫?」
「うーん……。あんまり大丈夫じゃない……」
「熱測った?」
「うん……平熱……」

ある日の事。オイラは昼過ぎ辺りまでベッドに寝っ転がったままうんうんうなっておった。体調が悪いのである。見かねたはるちゃんが気にかけて色々してくれるのだけども、まあ言っても体調不良の原因は明白でただの二日酔いであるため「大丈夫」としか言えない。たまにあることなので落ち着くまで横になっていようとタオルケットにくるまっていたのだけど、これが一向に回復しない。

結局その日は夜まで体調が悪く、なんと翌日の朝もまだ具合が悪かった。人生初の三日酔いである。そんな言葉があるのかどうか知らんが。

「これ、肝臓がもう悲鳴をあげとると思うのよね」

もともとそんなに酒が強くないオイラの肝臓にとって、最近の酒量の増加はクリティカルなダメージになっているようだ。ちょっとシャレならんレベルで具合が悪かったので、これはもうアレしかない。

「というわけで、オイラ、しばらく酒を控えようと思います!」
「またぁ……? 何回目?」
「わからん。5回目くらいか?」
「今年だけでね」
「うん。今年だけで。でも今回は流石に自分の体調が心配すぎるんで、マジでやる」
「何日やるの?」
「んー。一ヶ月とか?」
「プフー!」

妻・はるちゃんが笑う。

「無理に決まってるじゃん! ひろしが一ヶ月……プフー!」
「クッ……。まあ確かに一ヶ月は出来る気しない……。じゃあ、50%ディスカウントして2週間?」
「ムリムリムリ……! ひろしなんか三日が関の山よ。いや三日すら怪しいもん」
「いやいやいや、オイラもともと酒を飲む習慣なんかなかったんだぜ。飲む時は飲むけど、飲まないなら飲まないで平気のヘの字だったしさ」
「への字! プフー!」
「クッ……!」

オイラには禁酒はムリ。ハナから信じようともしないはるちゃんとの協議の結果、禁酒期間は「一週間」となった。もちろん、我々夫婦のことだからこんな事にも罰ゲーム付きである。

「もし一週間オイラが禁酒できたら、はるちゃんにステーキをおごってもらう」
「もしひろしが一週間禁酒できなかったら、ひろしにステーキおごってもらう」

ステーキを賭けた闘い。もちろん「オイラが」出来るか出来ないかなので、はるちゃんには関係がない。むしろ彼女は普通に家で飲む。我慢する必要はなし。オイラに気を使う必要も一切ない。つまり嫁さんが楽しそうにグビグビやってんのを尻目に、オイラが一週間我慢できるかどうか。そういう勝負である。

「悪いけど一週間くらいマジで余裕だかんね? そしてクリアしたらマジですげえ高い肉おごってもらうぜ?」
「いいわよ。まあひろしが負けてもわたしは優しいからその辺の安いステーキで別にいいけどね。なんか悪いし」
「吠え面かくなよ──! ウォォォ!」

いざ! 尋常に……! ファイ!!

──で、2日で酒飲んだ件。

今しがた約束のステーキをはるちゃんにおごってきた次第。余裕で万券吹っ飛んだ。んでそのステーキ屋での話が今回のテーマだ。となりの席の社長っぽいオヤジ二人がボートレースやってたのである。しかも、ちょっとやり方が特殊だった。

「だから、5に1万円だって。単勝単勝」

受話器を耳に当てたままビールを飲みつつしゃべるオヤジ。向かいに座るオヤジもまたフィレ肉を食らいながら笑っている。

「6じゃないって。え、もう買ったの? 違うよ5だって」

部下だか嫁だか知らんが、電話で買う指示を与えておった。よく見るとオヤジのケータイはガラである。なるほどテレボート出来んのね。

「バカ! 5だって。5だよ。あれ、じゃあさっきの1を頭にしたフォーメーション……買ったの? 違うってばそれはヤメて5を頭にするって言ったじゃん。なんで俺この時間のレースに4万も買うんだよ。5だって。じゃあもう5はいいや……。取り消し取り消し……え、買ったの? 5買った?」

オヤジはそのままガラケーを耳にあて、天を仰ぐ。買ったかー。と嘆くように言うと、向かいのオヤジがガハハと笑った。

「なに、買っちゃってたの?」
「買ってたよォ。合計5万だよ……! 何で大村に5万も入れるんだっつの……!」

大村、という単語に反応するオイラとはるちゃん。互いに目配せし、なんでも無い風を装ってスマホを操作し始める。この時間の大村……。これか。なるほど……。

【7/14 大村 スポーツニッポン杯 5日目 11R】

▲画像はボートレース公式サイトより

(あー、これは確かに5を書いたくなる気持ちはわかるね)
(わたし単勝買ってる人初めてみた……)
(な! 他の買い目が気になる所だなこれは……)

ちなみにこの時点での5号艇山本選手の単勝は21.7倍。オヤジいわくどうやら1頭のフォーメーションも入れてるらしいが、果たしてどれに入れたかは不明。ただ5を矢鱈と推してるし、おおかた秋山選手を抜いて1-25-25あたりに1万ずつ入れてるんだろう。あと電話口の向こうの人が間違って6の単勝も入れてるっぽい。こっちがきたら43倍である。まあ絶対ないと思うけど。

「もー、なんで間違うんだよ……。5にするって言ったじゃんか。なぁ?」
「言ってたねぇ……。もう取り消し出来ないんだろ?」
「出来ないよ一回買ったら……」
「でも来たら美味しいっちゃ美味しいじゃん」
「こねーよ!」

さすがギャンブルの街。浅草。普通にこういう会話がガンガン聴こえてくるのは本当に独特だと思う。電話口で嫁さんだか誰だかに代わりに注文させて、しかも思っクソ間違えられてるのは正直はじめて遭遇したし笑えるんだけど、まあベット単位が結構な大人レートなので、これで当たったらちょっとすげえと思う。単勝でも40万。ビッグウィンだ。

ステーキを完食したのち、スープとコーヒーを頂きながらこっそりレース情報を確認する。ちらっとはるちゃんをみると、同じくスマホに夢中だった。二人の考えてることがモクモクと店内の空気に浮かびひとつの単語を作ってるのが分かった。すなわち「はずれろ」である。

結果!

ナイス大村。見事な猪木。問題はオヤジが1頭のフォーメーションも入れてる所だけども、1-2-3のオッズは3.6倍。もし取ってたとて最低5点入れてる時点でどうあがいてもガミ確である。

(プフー!)

はるちゃんが笑う。なんだろう。買い方が買い方なだけにスカッと負けてくれると非常に面白い。笑いを噛み殺しながらコーヒーをやっと飲み終えた頃に、オヤジのガラケーに着信があった。

「はい……。どうった? うん……うん……。分かった……」

向かいのオヤジの「どうだった?」という言葉に、オヤジは無言でクビを振っていた。どうやら1-2-3も買ってなかったらしい。全損である。10分くらいで5万が飛んだわけだ。うむ。と頷いて席を立つオイラ。

「じゃあ、いこうか、はるちゃん」
「うん。ごちそうさま!」
「いいってことよ……! すいませんお会計を──」

禁酒の失敗。そしてステーキおごりでの万券消失。何も得がねぇと思ったけども、面白い話を仕入れることができたので、まあヨシ。である。

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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