めおと舟 その107『闇に紛れて我が主来ませり』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
夫婦揃っての趣味を持とうと始めたボートレース。2019年、2020年と連続でトータル収支マイナスを叩いた夫婦が次に目指すのは「2021年の収支をプラスにする事」。今年こそはと胸に誓いつつも、コロナ禍で巣ごもり状態の二人は他にやることもないまま、代わり映えの無い日常を送るのだった。

夫婦ふたりしてコロナでずっと自宅に引きこもっているのもあり、我が家は数日に一度のペースで新しいブームが起きてはすぐ廃れていくというサイクルが出来ている。最近では半沢直樹。ポケモン。そしてクレヨンしんちゃんなどは既報の通りだが、一昨日くらいからまた新しいブームが巻き怒っておる。

それが、アロマキャンドルだ。

「はぁ……癒やされる……1/fゆらぎ……」
「やっぱ火はいいなぁ……」
「安らぐねぇ……」

ふたりしてテーブルの上のキャンドルを眺める。特に何をするわけでもなく、ただじっと見るだけだ。こんなもんすぐ飽きそうなものだけども、やっぱ「火」というものがもつプリミティブなパワーは人間の本能に「安らぎ」とか「安心感」みたいなのを与えるのか、何かしらんがそこそこハマっておる次第。

「ねぇひろし……」
「どうしたはるちゃん……」
「キャンドル……もう一本買ってきた……」
「ダブルキャンドルか……いいねぇ」

机の上にアロマキャンドルが2本並ぶ。

「ダブルやすらぎ……」
「癒やされるねぇ……」

酒を飲みつつ、キャンドルを眺めつつ、トマトを切ったヤツにオリーブオイルと塩をぶっかけたやつを喰う。最高の空間である。ピノコもビーズクッションの上で、溶けたように眠っている。恐らくキャンドルの安らぎ効果の影響だろう。

「ねぇひろし……」
「どうしたはるちゃん……」
「キャンドル、もう一本あるんだけど……」
「トリプルキャンドルか……悪くないねぇ……」

テーブルの上に、3本のアロマキャンドルが並んだ。空調の風にあせて揺れる小さな炎。三角形に配置したその中央に、トマトを載せた小皿。生贄の儀式みたいになった。どうせなので電気を消す。暗闇の中、火に照らされた真っ赤なトマトの影が揺れる。

「トリプルやすらぎ……」
「癒やされるねぇ……火はいいなぁ……」
「……フングルイ」
「え?」
「フングルイ……ムグルウナフ……」
「どうしたのひろし……?」
「クトゥルフ……ルルイエ……ウガフナグル……フタグン!」
「やばい! ひろしがおかしくなった!」

──ルルイエの館にて死せるクトゥルフ夢見るままに待ちいたり。

H.P.ラブクラフトの名著『クトゥルフの喚び声』に出てくる、有名な呪文である。こんなもん覚えてるわけねぇだろうと思うかも知れんが、ドラゴンボールファンがナメック星の神龍を呼び出す呪文(タッカラプト・ポッポルンガ・プピリット・パロ)を覚えているように、クトゥルフファンはだいたいこれを暗誦できるのだ。

「フングルイ・ムグルウナフ・クトゥルフ・ルルイエ・ウガフナグル・フタグン!」
「やめて! なんか凄い怖いんだけど!」
「はるちゃんもダゴン教団に入信しようぜ! フングルイ・ウグルウナフ──」
「いやぁぁ!」

オイラの喚び声に応え、ビーズクッションの上で名状しがたき冒涜的な影が蠢く。

「闇に紛れて我が主来ませり……! イア! イア! クトゥルフ・フタグン!」
「ちがうこれピノコよ! 目ぇ覚まして! ……ふぅッ!」
「あ、キャドル消した……」
「ダメ! キャンドルは2本まで! 3本つけたらひろしダゴン教団なる!」
「ちぇ。いいところだったのに……」
「なにがいいところよ! 地味に怖いから変な呪文やめてホントに……!」

部屋の電気をつける。ピノコがのそのそと動きながらトイレの方へ向かっていた。クトゥルフごっこ終了である。時計に目を向ける、まだ20時ちょっと前だった。そういえば、事前に仕込んでいた舟券がある。トマトを口に運びながらiPadでボートレース場のページを開く。

「あら、大村買ったんだ」
「うん」

【7/31 大村 BTS長崎時津開設記念 3日目 10R】

▲写真はボートレース公式サイトより

「え、このレース買ったの?」
「うん。これ大村だし1号艇1着はカタいじゃん。で、中間があんまりスタートが早い選手じゃなさそうだし、2着は6でどうかなって。オッズも悪くなさそうだし、2連単一点張りで安全にいくならこういうレースがいいかァと」
「今何倍?」
「いまで6倍くらい。もうちょい下がるかな」
「モーターがちょっと悪いかなぁ……でもまあ、無くはないのか」
「うん。しかもさっきほら、地味にお祈りしたし」
「……?」
「クトゥルフに……」
「あれ必勝祈願だったの……!」
「うん。1-6でお願いしますって……」
「……外宇宙の神をお稲荷さん扱いしてた!」
「へへ!」

【夫の予想】
1-6 1点 1000円

「うわー、ホントに一点張り……」
「大村はもう、2着に外枠が来そうなレースに2連単一点張りがいいんじゃないかと気づいたよ最近。すげーガミるんだもん」
「たしかに。大村は穴狙ってナンボみたいなところあるもんねぇ……。大体内枠で決まっちゃうから、まあ大外に強い選手がいる時はそれがいいのか……」
「意外と考えてるんだぜオイラ」
「まあ、当たればね。当たれば正義ね。これわたしは普通に1-2だと思うけど」
「まだ間に合うから買っとく?」
「1-2のオッズは……2.7倍だって。いやん。リスクしかない。かーわない!」

結果!

「ほらー! ドスンと当たったわ! ね! 1-6だよほらー! ほらー!」
「5.8倍……! あらーそこそこついたわね!」
「超安定じゃんこんなんさー! しかもお祈りしたしさぁ……やっぱダゴン教団は神だわ……」
「クトゥルフ関係ない!」
「いやーあると思うね。キャンドルも使ってちゃんと祝詞を唱えてさ。中心にお供え物もあって、わりと本格的な祭壇だったぜ」
「お供えもの全部食べてるけどねひろし」
「ほら、次もいこうぜ! つぎも1-6! ちょっとキャンドルつけて! 祈らなきゃ!」
「いやだ! 何か怖いもんあれ!」
「……フングルイ」
「やめて!」

……次のレースも1-6で取りました(500円の15.3倍)

【今回の収支(1/1~8/3)】
購入金額 411,500円
払戻金額 258,580円
収支 -152,920円
購入舟券数 450R
的中舟券数 100R
今期的中率 21% → 22%
今期回収率 59% → 63%

はい今週はクトゥルフ効果で回収率4ポイントアップ。これはデカい! 収支のマイナスは依然として拡大中だけど、2連単の回収率は43%から70%と大幅向上。あとド本命狙いでガチガチに3連単を混ぜてたのもありそっちも67%と全体的に向上しました。今までが悪すぎただけっちゃだけだけども、数字自体は改善傾向にある感じ。

なお7月単体でのトータル回収率は73%という結果になりました。とりあえず平均の数値だと思われる75%まであと少し。惜しかった!

8月は引き続き、2連単・中穴狙いでがんばります!

 

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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