めおと舟 その115『契約更新までのディスタンス』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
夫婦揃っての趣味を持とうと始めたボートレース。2019年、2020年と連続でトータル収支マイナスを叩いた夫婦が次に目指すのは「2021年の収支をプラスにする事」。今年こそはと胸に誓いつつも、コロナ禍で巣ごもり状態の二人は他にやることもないまま、代わり映えの無い日常を送るのだった。

猫がいる生活は素晴らしい。というのは猫を飼ってない人もある程度想像できると思う。あんな可愛らしい生き物は他になかなかおらんし、日がな一日眺めてても全然飽きない。これはすごいことだと思う。そして猫には中毒性があるゆえ、一回猫を飼うともうそれなしでは駄目になっちゃう。アル中ならぬニャン中である。

これは猫という生き物がそのステータスのうち「かわいさ」のパラメーターに全振りしてる結果だと思う。犬が「従順さ」であるとか「役に立ちますよ」みたいな方向性で人間との共存を選んだのと比べるとずいぶん鷹揚な戦略だ。が、ある意味それは犬より凶悪かもしれない。

我が家にも「ピノコ」という猫がいる。

何のことはない雑種の猫だけど、我が家においては1000年に一度の美猫的な扱いを受けてる。ハシカン並である。実際すげー可愛い。そして可愛い以外には取り柄があんまりない。でも可愛さが凄いので、居てくれて本当に良かったと思っている。

のだが、やっぱ生き物と一緒に生活するというのはそれ相応のリスクもある。トイレ掃除やらゲロ掃除やらもそうだけど、それより人間だけの生活の時とはまるで違う意外な落とし穴があったりするのだ。要するに「家」の問題である。

このコラムはボートレースが主題であるけど、サブ的なテーマに「めおと」がある。これは「夫婦」という意味で、我が妻「はるちゃん」とオイラとの関係性の事だけども、同時に「家族」という意味も含んでる。母ちゃんとか兄貴、それからオヤジなんかがたまに登場するのもそのテーマに沿ったものだ。もちろん、愛猫であるピノコも立派な家族であるゆえ、ちょいちょい登場する。

で、連載の初期から読んでくださってる方は微妙に覚えてるかもしれないけど、去年までのこのコラムの目的は「ボートレースで引っ越し代を稼ぐ」であった。目的自体は未達だったが、引っ越しは紆余曲折あって無事完了。もう新居で生活を始めて一年以上である。

さて。

借家の場合、契約期間というのが決まっていて、それが大体の場合は「2年」だと思う。2年を過ぎると「更新」というまた新しい手続きが必要になるが、なにげにその更新までもう一年を切ってしまってるわけだ。早いもんである。

別に賃貸契約の更新なんぞ屁みたいなもんだろう。と思う人もいると思う。実際オイラもそう思ってたんだけども、今回の場合はひとつ、厄介なアレがある。そう。猫だ。ピノコである。

実は今住んでる部屋はもともと「ペット不可」なのです。

オイラもはるちゃんも別に隠すつもりはなく、というかペットが不可の物件ってそもそもそんなに無かったので探してる途中からスポンと頭から抜けてしまい、「ここいいな!」みたいな感じでピンときた今の物件で2回ほど内覧してほぼ気持ちが固まった段階で「不可だよ?」となったのだ。

はるちゃんとオイラ、二人で話し合って「ここにしよう」と決めたあとに判明しちゃったのでなんとも歯がゆく、ちょっと交渉だけはしとこうということで不動産屋さんを通じアレしたところ、とある条件のもとでなら入居可ですよ、となっているのだ。

その条件というのが、2年間限定での入居、なのである。つまり更新不可。

ただし、猫がいたとて別に問題ねぇなと大家さんが判断したら、2年後に再度契約を巻き、そこから先は通常通り更新してOK、というもの。ちょっとややこしいけど、大家さんとしてもペットに物件をボロボロにされるリスクがあるわけで、貸主より借主が強い現状の法律の上では、ペットがいるから出てけとも言えない。従って契約の段階で「2年限定」「ただし問題なかったら再契約します」としてるわけです。

そういう契約でオイラたちが追うリスクは3つ。

まずは「更新」ではなく「再契約」になるのでまあまあお金がかかる事。要するにまた不動産屋さんを通して事務手続きする必要があるので、一般の引っ越しの際の「仲介手数料」がもう一回かかる。敷金とか礼金は流石に取られねぇけど、それでも単なる更新に比べると全然高い。

ふたつめは手続きの手間だ。保証会社等やら火災保険なんかも完全に入り直しになるので、事務手続きが煩雑になるし書類が増えちゃう。おそらく各種審査ももう一回やり直す事になるので、ちと面倒。この場合は「同一住所から同一住所への引っ越し」みたいな手続きになるんだろうか。よく分からんが、ぴら紙一枚で終わる更新手続きに比べると労力がかかるのは間違いない。

そしてもう一つ。大家さんから「やっぱ猫無理」と言われる可能性があること。この場合は更新どころか再入居が不可との事なので、まるっと引っ越しである。んでその場合は「期間満了の半年前までには通知する」という契約なので、その期限があと2ヶ月後くらいに迫っとるわけだ。

「まー! 大丈夫っしょ! ピノコ静かだし!」
「そうよね。大丈夫よね! へへ!」
「マーゥ! マーゥ!」

と余裕ぶっこいていた一年ちょい前。だが実際、冷静に考えてみるとピノコは結構うるさいかもしれない。なんせババババと走り回る。夜中にだ。これはもう猫だから仕方ないんだけども、特に夜中ウンコした後とかはウンコーズ・ハイと暗闇を愛する狩人の本能とが合致してめちゃうるさい。前のマンションでは比較的おとなしかったんだけども、広くなった分運動量があがったようで、これはちょっとした誤算であった。

んで「ピノコが意外とうるさいかもしれん」というのと「告知期間が迫っとる」という心理的圧迫感がダブルでアレした結果、オイラとはるちゃんは今、結構ドキドキしとる次第。

正直に告白すると75%くらいは大丈夫だと思ってる。のだけど、25%って結構引いちゃう確率なのもまた、ギャンブラーとして実感してる。せめてコロナ禍じゃなかったら周りの商店街もうるさいのでホワイトノイズみたいになるんだろうけど、ちょっと前なんかはもう、どこもかしこもシンと静まり返っておったので、ピノコのババババも大層うるさく感じただろう。それを加味しての「25%くらいはアウト」である。

「もしさ、再契約しません、ってなったらどうする?」
「まー……引っ越すしかないよねぇ」
「また引っ越しかァ……。面倒くさいねぇ」
「面倒くさいよねぇ……」

まあもし駄目だったとて、どうせかかる仲介手数料(再契約のね)とか返ってくる敷金とかを考えると、金銭的ダメージはそこまでじゃない。が、問題は手間だ。引っ越しというのは労力がエグいし、しかも一年ちょっと前にそれを体験したばっかであるゆえ、これは少々気が重い。

「ンーやだなァ……。でもまあ、一応準備はしといたほうが保険になるよなぁ……」
「そうだねぇ……」

猫を飼う、というのにはリスクがある。しかも意外なリスクが、だ。それを押してもまた愛する事を辞められないほど可愛いというのは、もはや生物として最強である。というわけでオイラとはるちゃんは趣味である「散歩」の最中にまたいろんな不動産をちょいちょい見ておる。

「なんか一年ちょい前までこれやってたよなぁ……」
「やってたねぇ……」
「次、もし引っ越すならどこにする?」
「浅草でしょ」
「浅草だよなぁ……」

川沿いをウォーキングしつつ、知らない方へ。まだ見ぬ路地へ。ちょっとイカした建物があったらすかさずスマホでチェックする。

「おお、ここ空いてるっぽいよ」
「見せて見せて……。わ、結構安いね!」
「これ結構いいんじゃねーか……? 近いしまた自分たちで引っ越しできるべ」
「流石に次は業者使おうよう……」
「ふむ……。マジで悪くねぇなあ……」
「あ、これ、ペット不可だって……」
「……ギャフン!」

何度も言うけど、猫は最強である。可愛さのパラメータが振り切ってる。可愛いくらいしか取り柄がないけどそれが突出しすぎてて、飼い主はそれに抗えない。猫の前では、飼い主は奴隷なのだ。

「仕方ないねぇ」
「うん、仕方ない」

──再契約可否の通知期限まで、あと2ヶ月。

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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