めおと舟 その118『ワクチンvsはるちゃん』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
夫婦揃っての趣味を持とうと始めたボートレース。2019年、2020年と連続でトータル収支マイナスを叩いた夫婦が次に目指すのは「2021年の収支をプラスにする事」。今年こそはと胸に誓いつつも、コロナ禍で巣ごもり状態の二人は他にやることもないまま、代わり映えの無い日常を送るのだった。

みんなワクチンはもう打ったのだろうか。オイラとはるちゃんは先日2回目の接種を終えた。モデルナである。当初はmRNA方式とやらの効能がイマイチ胡散臭かったし副反応に関する報道も散らかってたのもあり、まあ今後子供を作る予定も無くはない我々としては「打つのはギリギリまで先延ばしにしようね」という事で精一杯伸ばしておったのだけども、いよいよ打っちゃった。

んでまあ打ったのはいいのだけども、やっぱ副反応である。

事前情報でモデルナの2回目はまあまあキツイとの事だったのでポカリやら即席うどんやらを買い込んで備えておったのだが、結論からいうとオイラは大したことなかった。熱は出たけど37.5程度で、普通にゲームして遊ぶ余裕はあった。のだけど、問題は我が良き妻、はるちゃんである。

「うう……寒い……寒い……」
「あわわわ……あわわ……どうしよう、暖房つける?」
「大丈夫……たぶん汗が乾いてこう……放射冷却……なんていうんだっけ?」
「気化熱?」
「そう……それ……気化熱……」

ピピッ……。ピピッ……。体温計のアラームだ。薄暗い部屋の中、携帯のライトで表示版を確認すると「39.2度」と書かれてあった。

「また上がってる……」
「へへ……なんか……楽しい……」
「楽しくないよはるちゃん。ポカリ飲もうか。はいポカリ……」

打つ直前に医者から伝えられた短いブリーフィングでは、副反応は36時間ほどで消えるとの事だった。とっくにその時間は過ぎている。ピノコがベッドサイドのテーブルに鎮座し、心配そうに見守っている。

「うどん作る?」
「ううん……いらない……」
「何か食べようか。買ってくるよオイラ」
「じゃあ……ヨーグルト……」
「分かった!」

とっくに熱が下がって元気ビンビンのオイラは素早く着替えを済ませて外へ出る。先日まで永久に続くかと思われていた2021年の夏はたったの2日くらいで一気に秋をすっ飛ばして冬の気温になっていた。間の悪い事である。まだ模様替えを済ませてないので、Tシャツに薄手のジャケットを羽織って小走りでコンビニへ走る。

「はるちゃん、ごめんちょっといい?」
「うん……」

ヨーグルトの冷蔵陳列棚の前でフェイスタイムを繋げる。スマホのカメラを棚に向けながらどれがいいか尋ねると、彼女は「左のフルーツ……」と答えた。わかった! と勢いよく答えて、指定された「どっさりフルーツヨーグルト」と「コーヒーゼリー」そして追加のポカリと自分用のタバコを購入。部屋に戻る。

「ただいま! 買ってきたよ!」
「ありがとう……ありがとう……」
「すぐ食べるかい?」
「うん……」

介護である。年上の筆者は確実に彼女より先に死ぬし、その前に介護を受ける事になるかもしれない。なるべくそういう苦労を掛けたくないのでそのための準備も今後していくべきなのだけど、逆に彼女の介護をすることに関しては、オイラは少しうれしい感じがしていた。

「ポカリの備蓄も増やしたから、ドンドン飲んで。汗かこうね。薬は飲んだ?」
「うん……うん……」

ヨーグルトを食べ、ポカリを飲んで、そうしてはるちゃんは再び毛布に包まると、すうすうと寝息を立て始めた。毛布の上から羽毛布団をかけ、首元までしっかりと包めてやった。あと2時間したらまた熱を測って、必要だったら着替えて貰おう。身体を拭いてあげるのもいいかもしれない。そうだ、ヨーグルトとうどんばかりでは飽きるだろうから、お粥でも作ってやろうか。やれやれ、忙しくなってきやがったぜ。一服入れるか。

プシュッ! 缶ビールを開ける。

大した副反応もなくすでに通常モードの筆者は余裕のよっちゃんイカ……ベッドサイドでひとり、酒盛りを始める。なんせワクチンに備え、もう2日ほど飲んでいない。オイラのガソリンタンクはもうエンプティである。ピノコにチュールを食わせつつウーバーイーツでケンタッキーを購入。骨なしチキンを3つ食ったところではるちゃんが目を覚ました。

「あれ……お酒飲んでる……?」
「そんな事より体調は大丈夫かい、はるちゃん。お熱測ろうか?」
「うん……」
「はい、これ脇に挟んで……。お粥か何か作ろうか?」
「ううん……今大丈夫……」
「ポカリ飲む? お白湯がいい?」
「ポカリ……」
「はい、開けてあげる……」
「ありがとう……ありがとう……」

ピピッ……。ピピッ……。体温計の表示は39.5度だった。

「また上がってるね……。肩はどうだい?」
「痛い……。寝返りが打てなくて……おしり痛い……」
「そうか……かわいそうに……」

ビールでチキンを腹に流し込む。ケンタッキーに住む白ひげの元軍人が編み出した秘伝のスパイスはビールの苦味とよく合う。

「身体拭いてあげようか?」
「ううん。大丈夫……まだ平気……」
「遠慮せずに言ってね?」
「うん。それよりひろし、お酒の飲んでる……?」
「そんな事よりはるちゃん、ポカリ飲んで。ポカリ……」
「ポカリ……」

最近買った新型の猫じゃすりでピノコの額からしっぽまでを満遍なく撫で回す。いちど掌を使って毛をワシャワシャにしてから改めてじゃすりで撫でられるのが好きらしい。行き場のないテンションを小さな牙にのせ、必死に噛み付いてくる。それをスッとかわして背中の毛をワシャワシャ……で、またじゃすりで撫でる……。テンションが上がりきったピノコが部屋中を駆け始める。シュバババッ……。シュバババッ……。寝苦しいのか、はるちゃんがうなる。大丈夫。はるちゃんを寝かしつけるのは得意だ。背中をしばらくトントンしてるとすぐに寝息が聞こえてきた。

プシュゥッ! 4本目のビールをあける。チキンと共に口に運びつつ、スマホを眺める。なんだ、まだ間に合うじゃないか。カマすか。

【10/18 大村 公営レーシングプレスカップ 9R】

▲写真はボートレース公式サイト

みんな大好き大村。どうみても1である。2着も2で決まりっぽい。となるとオッズを見ながら3着を拾う感じの買い方になるのか。確認すると1-2-5が18倍、1-2-6が35倍だ。これは美味しい。買っとくべきだろう。

【あしのの予想】
1-2-3 500円
1-2-5 300円
1-2-6 200円

「ううーん……。ううーん……」
「どうした、はるちゃん……」
「何か甘いの食べたい……」
「さっき実はコンビニでコーヒーゼリーも買ってるよ」
「ほんと……? 食べたい……」
「分かった。ちょっとまってね…………。はい、これ。蓋開けてあげるね」
「ありがとう……ありがとう……」

コーヒーゼリーを食べるはるちゃんの横で、チキンを食べつつ、ビールを飲みつつ、ボートに興じる。シュバババッ……。ピノコが走り回る。

結果!

「クッ……外した……」
「ひろし、もしかしてボートやってる……?」
「そんな事よりはるちゃん、薬飲んだ?」
「ううん……」
「飲んだほうがいいよ。と、その前にもう一回お熱測ろうか?」
「うん……」

ピピッ……。ピピッ……。

「あ……38.5度……」
「よかった、少し下がったね」
「うん……ありがとう……ありがとう……」

プシュゥッッ! 安心がてら5本目のビールを開ける。

「ひろし、それビール……」
「そんなことよりはるちゃん、ここからが油断大敵だぜ。またブリ返すかもしれないから、ゆっくり寝とかないと……」
「うん、そうだね。ありがとう……」
「じゃあオイラこれから『水曜どうでしょう』観るから……。大丈夫。大丈夫。イヤフォンで観るからね」
「うん……うん……スヤァ……」

ピノコを抱っこしながらビールを飲み、チキンを食べつつボートレースをやり、さらに好きなテレビを観る。やれやれ、まったくワクチンってヤツァ……困ったもんだぜ。

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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