めおと舟 その120『ファイファンって略し方懐かしくない?』

連載
めおと舟

前回までのあらすじ──。
夫婦揃っての趣味を持とうと始めたボートレース。2019年、2020年と連続でトータル収支マイナスを叩いた夫婦が次に目指すのは「2021年の収支をプラスにする事」。今年こそはと胸に誓いつつも、コロナ禍で巣ごもり状態の二人は他にやることもないまま、代わり映えの無い日常を送るのだった。

都内某所。酒を飲んでいる時に、たまたま隣で飲んでた人と意気投合した。年の頃はオイラよりも少しだけ下。とはいえ、ほぼ同年代と見ても良いレベルの、そんなに実生活上での年代の乖離はなさそうな男だった。聞けば、彼は外資系企業勤務だそうで。こんなうだつの上がらぬ、自らを何者かも規定しずらい日常を送る、よく分からん末端の文筆業者とは真逆の生活を送っておるらしい。

言ってもその時は金曜日の夕刻だ。居酒屋にとってはもう数刻ののちに繁忙期、これから土曜の夜にかけての文字通り「掻き入れ時」がやってくる、その端緒になるべき時分である。カウンターに腰掛けたまま、素性も知らないそのその男と酒を酌み交わしながら、やあカウンターが満席になったら帰ろうとか、さてボックスが埋まったらお勘定にしようとか、色々伺いながら待っていた次第。

その時ふと、その男がこんな事を言った。

「ひろしさん、ゲームは好きですか」
「え。ゲーム……好きだよ」
「俺、ゲーム好きなんですよ。最近あんまりやってないけど……」

彼が云うゲームは、いわゆるコンシューマーゲームの事である。スマホとかのソーシャルゲームじゃない、一人でガッツリ遊ぶ系のやつだ。言ってもオイラはファミコン世代ど真ん中だし、当たり前のようにその道を通っている。未だにソシャゲ・コンシューマを問わずガッツリ遊んでるし、同年代の中ではそこそこやってる方だ。

「どんなのが好きなんだい」

訪ねたオイラに、外資の男はこう答えた。

「昔はファイファンとかやってました」

ファイファン。ああ、ファイファン……。ファイファンである。スクウェアの「ファイナルファンタジー」の事だ。これ、知らん人は知らんと思うが、ファイナルファンタジーを「ファイファン」と略すか「エフエフ」と略すかでその人の世代と造詣の深さが推察できる。これはその人のポリシーに関わる話でもあるので一概にはバカにできないけど、ファイナルファンタジーを「ファイファン」と略す人にそこまでコアなユーザーはいない。いわゆるカジュアルユーザー、の中でも、特に「最近ゲームをやってない人」が使う略語。それが「ファイファン」なのである。ヌルいユーザー、しかも世代が行ってるまあまあオヤジ。これがファイファン、という単語を使う。

「あー、エフエフね」
「はい。ファイファン……」
「エフエフ、どれが好き?」

未だにファイファンファイファン言うキャツめに、オイラはこの質問を放った。ボクシングにおけるジャブである。距離を測る左の一閃。これ単体では決して致命打にはなりえないけど、次に紡ぐ言葉にむけて、コンビネーションブローの起点となるべき言葉だ。良くわからない人にとってはそのままの意味になるけど、知ってる人からすると結構イヤな質問である。

「ファイファン7とか好きでしたね……」
「あー、ファイナルファンタジー7ねぇ。名作だよねぇ」

ファイナルファンタジーシリーズにおいて、7の扱いは無茶苦茶難しい。というのも7はゲームとしての目新しさは何もないのだ。ただ、ポリゴンやらCG背景といった目新しい要素を極めてうまく取り入れたという技術的なポイントは無茶苦茶高い。サプライズに特化してる作品なのである。ちなみにオイラも7は大好きである。学校をサボって3日くらいずっとやっていた程度にはハマっていた。従ってくっそ名作と諸手を挙げて評価するのが正解なんだと思うけど、オイラみたいな1-6が大好きな原理主義者的な嗜好を持つ人間からすると、7はその後のシリーズの迷走を招いた諸悪の根源みたいな感じもしてなんとも歯痒い。一方でなんかあったら7が好きだと言っとけばとりあえず全部勝てる感じもする強カードではあるゆえ、批判も難しい。

「あー、7面白かったよねぇ……」
「はい。面白かったです。ひろしさん、どれが好きですか?」

カウンターだ。7という強カードを切ったあとに「どれ」と尋ねるのはご法度に近い。相手がゴリゴリのゲーマーなら「タクティクス」に逃げる道もあるのだけど、こいつそれ絶対やってないし。飽く迄もカジュアルゲーマーがファイナルファンタジー談義をカマしてきたというのであれば、もうこれは答えは一択に近い。

「5だね。アビリティシステムやばくなかった?」
「すいません、それやってないんですよ……」
「ああ……」

いや5をやってないやつが7やって何がおもろいねん、という言葉が喉元まででかかった。3と5のジョブ、6の魔石。そして7のマテリアだろうと。この流れを知らずしてなんの7か。とはいえ7から入ったんであればそんなの知る由もないし、そこをつついて粗忽だと罵るのもまた違う。反駁しようとしても、ココに関してはなんも出ない。結果、オイラから出た言葉は……。

「あー、オイラ……なんだろう……。やっぱ7かなぁ……」
「ファイファン7は……面白かったですねぇ……」

タバコを吸い、酒を飲む。東京都によるコロナ対策のなんやかんやがスッと解除されたタイミングだ。おまえらどっから出てきたんだよみたいな有象無象が、この半年以上ぶりにお店に顔を出しては騒いでいた。

「ドラクエ……」

オイラは不意に口を開いていた。ファイナルファンタジーに比べてドラクエはまだライトユーザーへの求心力が強い。こっちだったらまだ話が合うかも知れない。

「ドラクエは、やった?」
「はい、ドラクエ大好きですよ」
「おお……!」

ファイナルファンタジーに比べてドラクエはゲーム感が強い。ファイナルファンタジーは特に7以降は特に顕著だけど、やれ三社祭とか、三の酉みたいな、風物詩のお祭りに近い感じがする。つまり、ライトユーザーがこぞって遊ぶ、国民的な遊び。ドラクエ5くらいまではそれはドラクエが担ってきた役割なんだけど、ファイナルファンタジーの7から10くらいまでは、いつしか役割がそのスライドしてしまっていたのだ。猫も杓子もファイファンファイファン。他のゲームを触ったこともねぇのにファイファンファイファン……。

そこから他のゲームに食指を伸ばした有望なカマーもいたのだけど、時流に乗ってデジキューブでソフトを買ったような、いわゆる超ライトユーザー層は、大部分8で離脱していったように思う。なんせガッチガチに前髪を固めたホストみたいなモヤシのイケメンがデカい剣を振り回す。感情移入をケツにおいてユーザーを傍観者にしておいてけぼり、しっちゃかめっちゃか大活躍するのが当時の……というか今でもなんだけど、ファイナルファンタジーなんだから。

「ドラクエは、キミはどれをやったんだい」
「結構やりましたよ。9とか……」
「9……」

よりによって9を出す。まあ9も面白かったけど、代表作では絶対ない。

「他は……?」
「あ、そうだ。やりましたよ。同僚に教えて貰って」
「何をやったの……?」
「5です。天空の花嫁……!」
「おお! やったか!」
「はい、面白かったです」

ドラクエ5。日本のRPG史上屈指の名作といって良い。当時はオイラも中学の体育祭をズル休みして遊んでたもんである。彼がいう同僚に教えてもらって、というのは恐らくスマホ版だと思うが、もちろんそっちも遊んだしクリアした。リメイクごとにずっと遊んでおるし、ドラクエ5に関してはオイラはちょっとうるさい。オリジナル、リメイク版通算で20回はクリアしておる。

ドラクエ5においては主人公の結婚相手が重要になる。幼馴染の「ビアンカ」、富豪ルドマンの娘「フローラ」。ゲーム中盤で甲乙つけがたいどちらかを選ぶタイミングがある。どっちを選んでもストーリー的には影響はないが、気分的にはだいぶ変わる。スーパーファミコン時代のゲームの中で、最も悩ましい選択肢のひとつだろう。ちなみに筆者、基本は「ビアンカ」チョイスである。やむにやまれぬ事情がある場合のみフローラ。というかこれが普通だと思う。他の選択肢を選ぶヤツはサイコパスである。

「あー、いいなぁ。ドラクエ5」
「いいですよねぇ、デボラ」
「……はぁ?」

デボラ。この感じはリアルタイムの人以外には伝わり辛いかもしれない。詳しい説明は避けるが全く無関係の第三者を出すようなものである。デボラというキャラは、リメイク版でいきなり結婚相手に追加されたフローラの姉。お遊び要素にちかい。

「いや、ビアンカとフローラではどっちなん?」
「え? ぼくはデボラが……」
「デボラもいいよ? オイラもDSリメイクの方でデボラは選んださ。ビアンカとフローラは?」
「いやー……デボラしかやってないですねぇ……」

この時点でオイラはようやく気づいた。やれ外資だなんだといいながら、コイツは同年代の人間が過ごしてきた中で体験してきたはずのコモンセンスがねぇ。この差はなんやねんと。話すだけ無駄である。

【11/3 ボートレース山口あじすオープン10周年記念準優進出バトル7R】

▲画像はボートレース公式サイト

自称外資の男を放って置いてボートサイトにアクセスする。意外に美味しいレースが見つかった。外枠が強いこういうレースは全体的にオッズが高い。6頭に一定の投票があるので、それ以外の舟券のオッズが相場より高くなりがちである。

「これ普通に1-4からで良くねぇか……」
「どうしたんですか?」
「ボートだよ……」
「ボート! ボート!」

外資の男が合点が行ったように拍手する。

「どうしたの……」
「うちの会社の先輩が、先日ボートでめっちゃ当ててたんですよ」
「へぇ、どのくらい?」
「150万くらい……」
「え! すごいじゃん!」

我が事のように自慢げな顔をする外資。ちょっとボートに良い印象がありそうだったので、誘い水を向ける。

「きみも買うかい? なんなら狙い目も教えるぜ。今回のは1-4が強めだから……」
「いや、いいっす!」

一喝して酒を煽る。そうして外資はこういった。

「ギャンブルは、おれはやらないですッ!
「ああ……。そうか……」

結果!

オイラが買った1-4は見事的中で500円2100円。3連単は1-4-全の配分で2000円ほどブチ入れていたが、そちらで5000円ほどの的中だった。あわせて6000円を少し超えるプラスである。

「いよっしゃーきたきた。ありがとう。マスター、ボトル入れよっかな」

げっひゃっはと笑いながらふと隣をみると、外資の男はスンとした顔でしばし固まり、そうして一拍の間をおいてこういった。

「ひろしさん、ポケモン好きですか?」
「うちの嫁がめちゃくちゃ詳しいよ」

運ばれてきたボトルで水割りを作り、そうして塩辛をつまみに、ふいい、と息を吐いた。こいつダメだな。

(挿絵:武尊)

著者プロフィール画像
あしの

浅草在住。猫とホラー映画とパチスロを愛する39歳。パチ7にて『インタビューウィズスロッター』連載中。『5スロで稼げるか?』(www.5suro.com/blog)の中の人。ボートレースはからっきし初学者ですが、自分自身で楽しみながらその面白さをお伝えしていきたいと思います。

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